Campus91

茉莉 佳

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15 12月を忘れないで

12月を忘れないで 4


「12月になったら、もう一度、この海を見たいな」

長いキスのあと、わたしは海を見つめて、なにげなく言った。
「12月? もう寒いし、こんなに綺麗じゃないと思うよ」
「だからよ」
「だから?」
「海って、こんなに穏やかで、天気のいい日ばかりじゃないでしょ。
今度この海を見るときは、鉛色の空で、真っ黒い海に、牙をむきだしたような白い波が、ゴウゴウとうねっていて、そんな海に、シンシンと、雪が降っているの。
ね。
海に雪が舞い落ちるのって、なんだか素敵だと思わない?」
「そうかな?」
「今日は絶対、晴れがいいの。穏やかで綺麗な海がいちばん好き。だけど、12月にそんな暗い海を見て、そうやって荒れ狂うこともあるんだって知ってしまえば、わたし、今のこの景色を、もっと好きになれそうな気がする」
「そんなもの?」
「海にいろんな景色があるように、人にもいろんな表情があるじゃない?
泣いてる顔に笑ってる顔。怒ってる顔。
だけど、悲しい気持ちを知っていなければ、本当に幸せな気持ちってのがなんなのか、わからないと思うの」
「さつきちゃん?」
「わたし、幸せに慣れすぎてた。川島君といっしょにいられるこの幸せな時間は、わたしにとって当たり前のことだって、思うようになってしまってた」
「どうしたんだ? さつきちゃん。今日はちょっとおかしいよ」
「そんなことない。ふつうよ」
「そう?」
「川島君。男の人って、ふたりの女の子を同時に、同じくらい愛せるものなのかな?」
「え? それは人によると思うけど…」
「じゃあ、川島君はどうなの?」
「ぼくは… そりゃ、ひとりの人だけを愛したいけど」
「けど?」
「でも、その人だけしか見えないようになるのは、イヤかな」
「どういうこと?」
「よくいるじゃないか。
恋人ができたら、その相手が世界の中心になってしまうようなタイプ。
それって、自分を持ってなくて、相手にすべて依存してるだけじゃないかな。
そういう人たちって結局、世界を狭めているって気がする」
「ふふ。川島君らしい」
「そうかな。でもどうして、そんなこと訊くんだい?」
「わたしね… 東京に行って、感じたの」
「なにを?」
「川島君は、わたしのことだけを考えているわけじゃない、って」
「そんなことないよ。いつでもさつきちゃんのことは、ちゃんと考えているよ」
「そうじゃないの」
「え?」
「川島君には、『カメラマンになりたい』って夢があるでしょ?
その夢と、わたしと、どっちが大事?」
「そんなの、同じ天秤に乗せられないよ」
「そうなのよ。川島君にはそうやって、いくつも天秤があるの。仕事の天秤や、趣味の天秤。人間関係だって、いろんな天秤を持っている、みたい」
「…」
「だけど、わたしの天秤は、ひとつしか、ないのかもしれない」
「え?」
「その天秤に乗っているのは、川島君。今はなにをもう片方に乗せても、針は川島君の方に、傾くの」
「嬉しいよ」
「悔しいわ」

つづく
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