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20 Lucky Lips
Lucky Lips 9
『本当にさつきは、彼と別れてしまったままで、いいの?!』
みっこの声が、頭のなかをグルグル回る。
『心を開いて、それを望めば、いつかは再会できて、願いもかなう』
彼女はそう言った。
わたし、どうしてなにもしないんだろう?
こんなにまで差し伸べてくれる川島君の手を、どうして掴むことができないんだろう?
このまま別れてしまえば、きっと一生、後悔する。
昨日も明日も、関係ない。
今、この一瞬だけ、勇気がほしい。
「雪が… 降ってた」
届くか届かないかの、消えてしまいそうな声。
それが今のわたしの精いっぱいだった。
だけど川島君は背中を向けたまま、立ち止まった。
「海に、雪が降ってて、空が低くて重たくて、凍えるくらい寒くて、わたし、押し潰されそうだった」
川島君は、動かない。
「わたし、ずっと待ってた。
そんな海を見ながら… 川島君が来るのを。
でも、川島君、来なかった。
わたし、悲しくて、悲しくて…
自分から別れを言ったくせに、ほんとは別れたくなかったなんて、そんな勝手なこと、川島君に言えなくて…
ううん。
ほんとは怖かった。
川島君がもう、わたしのこと、嫌いになってるって、思い知るのが…
だってわたし、今でも川島君のこと… 好きだから…」
「…」
「だから… 行かないで」
「…さつきちゃん!」
川島君はわたしを振り返り、懐かしい声でそう言うと、駆けよってわたしをぎゅっと抱きしめた。
「ぼくだって、さつきちゃんが好きだよ。ずっと!」
「川島君… 好き…」
すれ違う人が驚いて振り向く。
だけどわたしたちは、そんな人目もはばからず、空港のロビーの真ん中で、しっかりと抱きあった。
「さつきちゃんとの記念日。遅くなったけどやろうな」
「…ん」
「今までの約束も、みんなそのままでいいだろ?」
「…ん」
「今日も、新しい記念日にしような」
「…ん」
川島君の大きな胸の中に包まれて、彼のやさしい言葉に、わたしは何度もうなずくだけだった。
以前にもまして、幸せだった。
それは、別れている間に、本当に幸せなことがなんなのか、お互い知ることができたからかもしれない。
「実はみっこから、手紙が来たんだ」
「手紙?」
お互いの気持ちがようやく落ち着くと、川島君はポケットから一枚の便箋を取り出して、わたしに見せた。
22日の11時半頃、福岡空港のインフォメーションに来て下さい。
さつきのことがまだ好きなら、絶対に。
あたしの最後のわがまま、聞いて下さい。
薄紫の便箋には三行だけ、そう書いてあった。
川島君はそれをポケットに仕舞いながら、これまでのいきさつを打ち明けはじめた。
「実はみっことは、あれから何度か、連絡をとっていたんだよ」
「え?」
つづく
みっこの声が、頭のなかをグルグル回る。
『心を開いて、それを望めば、いつかは再会できて、願いもかなう』
彼女はそう言った。
わたし、どうしてなにもしないんだろう?
こんなにまで差し伸べてくれる川島君の手を、どうして掴むことができないんだろう?
このまま別れてしまえば、きっと一生、後悔する。
昨日も明日も、関係ない。
今、この一瞬だけ、勇気がほしい。
「雪が… 降ってた」
届くか届かないかの、消えてしまいそうな声。
それが今のわたしの精いっぱいだった。
だけど川島君は背中を向けたまま、立ち止まった。
「海に、雪が降ってて、空が低くて重たくて、凍えるくらい寒くて、わたし、押し潰されそうだった」
川島君は、動かない。
「わたし、ずっと待ってた。
そんな海を見ながら… 川島君が来るのを。
でも、川島君、来なかった。
わたし、悲しくて、悲しくて…
自分から別れを言ったくせに、ほんとは別れたくなかったなんて、そんな勝手なこと、川島君に言えなくて…
ううん。
ほんとは怖かった。
川島君がもう、わたしのこと、嫌いになってるって、思い知るのが…
だってわたし、今でも川島君のこと… 好きだから…」
「…」
「だから… 行かないで」
「…さつきちゃん!」
川島君はわたしを振り返り、懐かしい声でそう言うと、駆けよってわたしをぎゅっと抱きしめた。
「ぼくだって、さつきちゃんが好きだよ。ずっと!」
「川島君… 好き…」
すれ違う人が驚いて振り向く。
だけどわたしたちは、そんな人目もはばからず、空港のロビーの真ん中で、しっかりと抱きあった。
「さつきちゃんとの記念日。遅くなったけどやろうな」
「…ん」
「今までの約束も、みんなそのままでいいだろ?」
「…ん」
「今日も、新しい記念日にしような」
「…ん」
川島君の大きな胸の中に包まれて、彼のやさしい言葉に、わたしは何度もうなずくだけだった。
以前にもまして、幸せだった。
それは、別れている間に、本当に幸せなことがなんなのか、お互い知ることができたからかもしれない。
「実はみっこから、手紙が来たんだ」
「手紙?」
お互いの気持ちがようやく落ち着くと、川島君はポケットから一枚の便箋を取り出して、わたしに見せた。
22日の11時半頃、福岡空港のインフォメーションに来て下さい。
さつきのことがまだ好きなら、絶対に。
あたしの最後のわがまま、聞いて下さい。
薄紫の便箋には三行だけ、そう書いてあった。
川島君はそれをポケットに仕舞いながら、これまでのいきさつを打ち明けはじめた。
「実はみっことは、あれから何度か、連絡をとっていたんだよ」
「え?」
つづく
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