慰めと花

真城詩

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慰めと花

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「はぁ……」

それは街中に響いた一つのため息だった。彼は長年付き合っていた恋人に振られたのだ。街中ではため息なんて星の数ほど聞こえてくる。しかし、彼のため息を拾ってくれた人がいた。

「どうしたんですか?今日も、うちの店で花、買っていかれましたよね」

花屋の店員だった。確かに彼は今日、この店で花を買った。恋人にプレゼントするために。渡すはずだった花は先ほど振られてから屑籠に捨てたところだ。
「あ、ええ。はは、先ほど恋人に、振られて」

しまいまして、と付け足した語尾はしりすぼみだ。振られたことがよほど堪えているのだろう。その様子を見て取った店員は、男を飲みに誘った。それは慰めのためだと男は取り、行きましょう、と答えた。

気づけば、煌々とした光の下に照らされていた。俺は確かにあの店員と飲んでいたはずだ、とぼんやりとした頭で考える。そういえば勧められるがままに自分もやけになって結構な量を飲んだなあと思い返してみると、あの店員に申し訳なく思ってきた。しかし体制が妙だ、脚が大きく開かされている。と、そこで男は今自分の置かれている環境に気づいた。両手が後ろ手にまとめられ、脚が大きく開かされて高く吊り上げられている。しかも何も着ていない。己が置かれた妙な状況に周りを見回してみると、自分は大きなステージの真ん中に座しているようだった。観客はどれほどいるのかわからないが、ざわめきからして結構なものだろう。男は急に羞恥を覚えた。ふと隣を見ると、あの店員がいる。一体どういうことかと話を聞こうとすると、彼はこっちを見てにこりと笑った。

「さあ、皆さん!今日の目玉商品でございますこちらは人間花瓶!これから花を生けていきますのでその間に値段をつけていきましょう!」

唐突にアナウンスの声が響く。そこで男は気づいた。これは世に聞く裏オークションなるものではないのかと。己は窮地にいるのではないのかと。その”人間花瓶”というのは己のことではないのかと。あの男に嵌められたと気づいて臍を噛む。大方酒に薬でも入れられたのだろう。

「さあまず最初の一本です!」

店員が美しい花を後ろの花瓶から一本取り、男の丸出しにされた秘孔へと生ける。と同時に男がうめいた。

「っあ、うあ、く、苦しいっ、痛いっ」

店員は笑う。

「ええその調子です。思い切り痛がってください。そのほうがあなたの魅力が皆さまに伝わります」

あなたは苦しんでいるときがたいそう美しい、と付け足され、腸が煮えくり返る。しかし、男は無力だった。
男の様子を見てざわめいた観客たちが次々と値段をつけてゆく。
店員は次々と花を生け、男には苦しがるしか道はなかった。



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