この手を

真城詩

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「あっあぁぁ、うああ、はっあっ」

青年が二人体を重ねていた。
下で喘いでいる彼の手はシーツの海をはるか遠く泳ぎ続ける。
上で動いている彼の手は下になっている彼の体の横に置かれたまま、触れようとはしない。

下になっている彼は思っていた。せめて抱きしめられないかなと。そうすれば己はこの手を彼の背に回せるのにと。
しかしけして抱きしめてはもらえない。どうせ自分は彼の性処理の相手をさせられているだけなのだ。そこに愛は介在しない。それでも、一度でもと望んだ結果がこれだった。彼らの淫猥な関係はずるずると引き延ばされ、いつまでも愛してもらえないまま、彼は抱かれる。

彼を抱く男は思っていた。せめて手が回されないかなと。そうすれば己はこの手で彼をかき抱いてやるのにと。
しかし消してその腕は彼の背には回されない。自分が悪いのだ。好きなのに、好きなのに彼がこの提案をしてきたときに愛を伝えなかった自分。そして伝えられないままこの関係をずるずると引き延ばした自分。心では深く愛しているというのに、それを表に出すことができない。だから相手からのアプローチを待ち続ける。それは決してこないというのに。

二人の想いは交差する。望んでいることは同じなのに、その望みはずっと叶えられないまま。
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