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抱いて抱いて抱いて
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課長が、新入社員の若い女の子を使われていない、そして使われる予定のない会議室へ連れ込んだ。連れ込んだってのはまあそういうことで。つまりセックスですよ。あの課長は女好きで、この間も可愛い女の子としけこんでいた。嗚呼、ほら。聞こえてくるよ、嬌声がさ。
「あっ、かちょぉっ、いいですっ」
「それは嬉しいな」
それに水音もだ。肉と肉のぶつかり合う音とか。で、なんで俺が盗聴なんて趣味わるいことをしているかというと。
俺は課長が好きなんだ。別に同性愛者じゃない。ただ、好きになってしまっただけなんだ。で、課長をこっそり盗み見したりしてる間に、課長が時々姿を消すことに気づいた。そして女の子もだ。相手にする子は、その時々で違って、まあ課長はイケメンだから、女の子もそこんとこでOKと判断してるんじゃないかな。それでついに課長が女の子を連れ込むところを目撃してしまったわけだ。で、どうしようもなくその場を離れられないでいる。もう少ししたら、つまり二人の行為が終わる前にはここを離れないといけないな。ああ、今あの栗色の髪の女の子は課長に抱かれてるんだ。課長の腕の中で、甘い声を上げている。課長の腕の中は、いったいどんな心地がするだろう。あの唇でする口づけは、どんな味がするだろう。あの手のひらで撫でられたら、俺はどうなってしまうだろう。想像が妄想になってゆく。でも、俺は課長が女の子を抱くのなんて、勿論見たことがない。だからあの女の子がどんなふうに抱かれているのかなんて、聞こえてくる声でしか想像のしようがない。あーあ、あんなに女好きなんだから尻に入れるなんてきっと嫌だろうな。でも俺には、尻穴でしか交わる手段がない。やっぱり課長はそんなところは嫌だろうか。でも俺は、抱き合いたい。交わりたい。体を重ねて、愛を確かめたい。まあ課長にしてみたら、男はないよなあ。胸もないし、子供だってできない。柔らかくない体を抱いても、きっと楽しくないだろうな。つまり俺は女に生まれればよかったのか。いや、女に生まれても課長は俺なんか愛してくれないかもしれない。出会えていたかもわからない。それでも、それでももしかしたら。もしかしたら、一度くらいは抱いてもらえたかもしれない。結婚なんて贅沢なこと言わないから。もしかしたら歯牙くらいにはかけてもらえたかもしれない。もしかしたら。もしかしたら。もしかしたら。そんな保証のないもしかしたらを夢想し続ける。俺が女に生まれた世界で、俺を愛してくれる課長のこと。俺を愛する課長は俺の頭をなでたり、俺と手をつないだり、キスをしたり、躰を重ねたりする。女の俺は、嬉しそうにそれに応える。課長の愛の中で幸せに暮らす自分が酷く羨ましい。頭の中で課長が微笑むたびに、俺の心臓はきゅうと痛む。俺を抱く課長を想像する度に、切なさが俺を襲う。大の男がそんなことを考えては、泣きそうになる。女の俺は、ここにいる男の俺とはかけ離れていて、夢想は所詮夢想であることを知る。現実を認識した瞬間、非現実的な妄想は音もなく崩れ去った。さらさらとどこかに流れていく妄想のかけらを名残惜しく見送る。できることなら、女々しく夢の世界へいつまでも浸っていたかった。この恋の末は、好きな男の女の趣味を見せられることに終わり、どんなに望んでもあの目が俺を見てくれることはない。
ハッと気づいたら、会議室のドアが開く音が聞こえた。まずい、ここにたたずんでいたら俺は間違いなく不審者だ。と思う間に栗色の髪の女の子が前を通り過ぎて行った。俺に気づくこともなく、きっと情事の余韻に浸って。その横顔は、きれいだった。きっと課長とは時間をずらして仕事に戻るのだろう。なら、早くここを立ち去って、課長が来る前に、仕事に戻らなければ。ああ、課長。そんな女の子を抱くくらいなら、俺を犯してください。そんな女なんかより、一度くらい、俺を愛してください。
「あっ、かちょぉっ、いいですっ」
「それは嬉しいな」
それに水音もだ。肉と肉のぶつかり合う音とか。で、なんで俺が盗聴なんて趣味わるいことをしているかというと。
俺は課長が好きなんだ。別に同性愛者じゃない。ただ、好きになってしまっただけなんだ。で、課長をこっそり盗み見したりしてる間に、課長が時々姿を消すことに気づいた。そして女の子もだ。相手にする子は、その時々で違って、まあ課長はイケメンだから、女の子もそこんとこでOKと判断してるんじゃないかな。それでついに課長が女の子を連れ込むところを目撃してしまったわけだ。で、どうしようもなくその場を離れられないでいる。もう少ししたら、つまり二人の行為が終わる前にはここを離れないといけないな。ああ、今あの栗色の髪の女の子は課長に抱かれてるんだ。課長の腕の中で、甘い声を上げている。課長の腕の中は、いったいどんな心地がするだろう。あの唇でする口づけは、どんな味がするだろう。あの手のひらで撫でられたら、俺はどうなってしまうだろう。想像が妄想になってゆく。でも、俺は課長が女の子を抱くのなんて、勿論見たことがない。だからあの女の子がどんなふうに抱かれているのかなんて、聞こえてくる声でしか想像のしようがない。あーあ、あんなに女好きなんだから尻に入れるなんてきっと嫌だろうな。でも俺には、尻穴でしか交わる手段がない。やっぱり課長はそんなところは嫌だろうか。でも俺は、抱き合いたい。交わりたい。体を重ねて、愛を確かめたい。まあ課長にしてみたら、男はないよなあ。胸もないし、子供だってできない。柔らかくない体を抱いても、きっと楽しくないだろうな。つまり俺は女に生まれればよかったのか。いや、女に生まれても課長は俺なんか愛してくれないかもしれない。出会えていたかもわからない。それでも、それでももしかしたら。もしかしたら、一度くらいは抱いてもらえたかもしれない。結婚なんて贅沢なこと言わないから。もしかしたら歯牙くらいにはかけてもらえたかもしれない。もしかしたら。もしかしたら。もしかしたら。そんな保証のないもしかしたらを夢想し続ける。俺が女に生まれた世界で、俺を愛してくれる課長のこと。俺を愛する課長は俺の頭をなでたり、俺と手をつないだり、キスをしたり、躰を重ねたりする。女の俺は、嬉しそうにそれに応える。課長の愛の中で幸せに暮らす自分が酷く羨ましい。頭の中で課長が微笑むたびに、俺の心臓はきゅうと痛む。俺を抱く課長を想像する度に、切なさが俺を襲う。大の男がそんなことを考えては、泣きそうになる。女の俺は、ここにいる男の俺とはかけ離れていて、夢想は所詮夢想であることを知る。現実を認識した瞬間、非現実的な妄想は音もなく崩れ去った。さらさらとどこかに流れていく妄想のかけらを名残惜しく見送る。できることなら、女々しく夢の世界へいつまでも浸っていたかった。この恋の末は、好きな男の女の趣味を見せられることに終わり、どんなに望んでもあの目が俺を見てくれることはない。
ハッと気づいたら、会議室のドアが開く音が聞こえた。まずい、ここにたたずんでいたら俺は間違いなく不審者だ。と思う間に栗色の髪の女の子が前を通り過ぎて行った。俺に気づくこともなく、きっと情事の余韻に浸って。その横顔は、きれいだった。きっと課長とは時間をずらして仕事に戻るのだろう。なら、早くここを立ち去って、課長が来る前に、仕事に戻らなければ。ああ、課長。そんな女の子を抱くくらいなら、俺を犯してください。そんな女なんかより、一度くらい、俺を愛してください。
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