琥珀は紅玉の夢を見る

真城詩

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提案と気づき

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かえでは躊躇なく切り出した。

「朱火さま……これは私の勝手な推測でございますが、朱火さまは龍神様のことを好いてはいらっしゃいませんわね?」

対して朱火はいきなり核心を突かれて動揺している。

「えっ?どうしてそんなこと思うんだ?」

たらりと冷や汗が背中を伝う。この質問にどう答えるかで己の命運が決まる気がした。

「これはただの女の勘でございます。どうなのですか?」
「えっと……うん、その通りだ。あいつは俺を妻だとか嫁だとか言って愛してるなんていうけど、俺はそんなこと思ってない」

そんなあいまいな返事をする朱火にかえではふぅとため息をつき、その言葉もどこまで本当なのやら、そうつぶやいた。え?と聞き返す朱火に何でもありませんと返してこちらの核心を話すことに決めた。
琥珀が水浴びから帰ってきていてすぐそこで立ち聞きしていることにも気づかずに。

「朱火さま……これはわたくしがお父様より頂いた龍をも殺すと言われている猛毒を塗った短刀です。もしもの時自害できるよう持たされましたがここにあなた様のような人間がいるのは予想外でした。この短刀で、どうかどうかあの龍神を殺してくださいまし。毎夜一緒に眠っているあなた様なら可能でしょう。そして私とここから下の村へ逃げましょう。どうか、龍神を殺してくださいまし」

最後に絞り出すように言われた言葉。かえでは真白な布に包まれた短刀を朱火に差し出した。

「な、何言ってんだよ、相手は曲がりなりにも神だぜ?そんなもので、殺せるわけない」

朱火はその短刀を受け取れずにいた。殺せるわけない、と繰り返す。

「怪我を負わせるだけでも良いのです。だからどうか……」

祈るように深く頭を下げられて朱火は戸惑う。

「いや、できない……」

何故できないのか、朱火は考える。その気になればできるはずだ。それでも琥珀の笑顔が脳裏に浮かぶ。その笑顔を、殺したくないと思った。

「かえで、俺はできないんじゃない。できないんじゃなくて、したくないんだ」
「え、朱火さま、今なんと……」
「かえで、俺は琥珀を殺したくないよ。好きなんだ、きっと……好きなんだ」
「朱火さま!そんな事を思ってはなりません、あの龍神なのですよ!?龍神ですよ!」
「うん、でも俺はもうお前が言ったことなんかできない、今更気づくなんて馬鹿だよな、ははっ。でも、この思いは変わらない。かえで、俺は琥珀が好きだ。殺すなんてできない。殺させもしない」
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