【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました

er

文字の大きさ
7 / 14

第七章

しおりを挟む

「何だ?」
「クレア嬢が魔法を使ったという直接的な証拠がない。
母親の能力の記録だけでは、娘が同じ能力を持っているとは断定できません」

「しかし――」
「それに」

グレゴリー卿は続けた。

「仮にクレア嬢が特殊な能力を持っていたとして、それを今日の演奏で使用したという証明ができますか?」

バートンは言葉に詰まった。

「私は審査員として、彼女の演奏を最初から最後まで見ていました。魔法の痕跡など、一切ありませんでした」

他の審査員たちも頷いた。

「その通りです」

一人の審査員が立ち上がった。

「私は王室魔導師団の元顧問を務めていました。
魔法の使用を見抜く目には自信があります。クレア嬢の演奏に、魔法の気配は一切感じられませんでした」
「それは――」
「それに」

別の審査員が言った。

「バートン男爵、あなたは音楽の専門家ではないでしょう。
我々審査員は、全員が長年音楽に携わってきた者たちです。
クレア嬢の演奏が純粋な技術と感性によるものだと、すぐにわかりました」

観客席から、同意の声が上がる。

「確かに」
「あの演奏は、魔法などではなく、本物の才能だった」
「バートン男爵は、姪の才能を認めたくないだけではないのか」

バートンの顔が、さらに赤くなった。

「貴様ら――」
「父上」

ペトラが立ち上がった。

「クレアは確かに不正をしたのです。私は知っています。彼女は昨夜、怪しい光を放っていました。あれは絶対に魔法です」

観客席が、再びざわめいた。
だが――。

「ペトラ嬢」

マーガレットが口を開いた。
彼女は首席に次ぐ二席で合格した令嬢だ。

「私は昨夜、クレア様が音楽堂で練習しているのを見ました。でも、怪しい光など見ませんでしたわ」
「え?」

ペトラが驚いた顔をした。

「それに」

エリザベスも言った。

「私も偶然、廊下で見かけましたが、クレア様はただ真摯に練習されていました。
魔法を使っているようには見えませんでしたわ」
「そんな......」

ペトラは言葉を失った。

「ペトラ様」

アナスタシアが冷たい声で言った。

「あなたは選考会で不合格になった。
それが悔しくて、クレア様に濡れ衣を着せようとしているのではありませんか?」
「違います」

ペトラは必死に否定した。

「私は本当のことを――」
「ペトラ嬢」

グレゴリー卿が厳しい口調で言った。

「あなたの演奏を、私は覚えています。確かに技術は一定水準に達していました。しかし――」

彼は一呼吸置いた。

「あなたの演奏には、魂がありませんでした。
師匠たちが教えた型を、ただなぞっているだけ。音楽への愛も、情熱も感じられなかった」

ペトラの顔が青ざめた。

「それに比べて、クレア嬢の演奏は――」

グレゴリー卿は私を見た。

「技術、感性、そして何より、音楽への深い愛情が感じられました。彼女の父君、私の旧友が遺した曲を、これほどまでに美しく奏でる。それは魔法などではなく、彼女の努力と才能の結晶です」

観客席から、拍手が起こった。

「よくぞ言ってくださった」
「その通りだ」
「クレア嬢の演奏は、本物だった」

バートンとペトラは、完全に孤立していた。

「バートン男爵」

アーロンが立ち上がった。
彼は舞台へと歩み、私の傍に立った。

「あなたは姪御を貶めようとした。それも、何の証拠もなく。これは名誉毀損に当たります」
「な――」
「近衛騎士団として、この件を正式に記録します。あなたが今後、クレアに対して同様の行為を行った場合、法的措置を取ることになるでしょう」

アーロンの声は、冷たく鋭かった。
バートンは震え始めた。

「それから」

グレゴリー卿が追い打ちをかけた。

「バートン男爵、あなたは先日、クレア嬢を選考会に出場させまいと妨害しましたね。後見人としての義務を放棄し、彼女を不当に扱った」
「それは――」
「宮廷はそのような行為を看過しません。
今後、あなたが王宮で開催される音楽行事に出席することを禁じます」

観客席から、どよめきが起こった。
王宮の音楽行事への参加禁止――それは社交界において、大きな汚点となる。

「グレゴリー卿、お待ちを」

バートンは慌てた。

「私は――私はただ、ペトラの将来を心配して――」
「ペトラ嬢の将来を心配するのは結構です」

グレゴリー卿は冷たく言った。

「しかし、それを理由に他人を貶めることは許されません。それが血縁者であっても、です」

バートンは完全に言葉を失った。

彼は蒼白な顔で、よろめきながら観客席へと戻っていった。
ペトラも、泣きながら後を追った。
会場が、再び静まり返った。

「では」

グレゴリー卿が声を張り上げた。

「改めて、今年度の宮廷楽師首席合格者、クレア・エヴァンス嬢に祝福の拍手を」

音楽堂全体が、拍手と歓声に包まれた。
私は涙を流しながら、深々と頭を下げた。

これで――全てが終わった。
叔父も、義妹も、もう私に手出しはできない。

私は自由だ。
本当の意味で、自由になったのだ。




式典が終わり、私は控室で一息ついていた。
扉がノックされ、アーロンが入ってきた。

「お疲れ様」
「ありがとうございます」

私は微笑んだ。

「あなたが助けてくださったおかげです」
「俺は当然のことをしただけだ」

アーロンは私の隣に座った。

「それより、クレア。話がある」
「何でしょう?」
「俺の専属楽師になってくれないか」

私は驚いて、彼を見た。

「専属、ですか?」
「ああ」

アーロンは真剣な表情で続けた。

「近衛騎士団には、式典や重要な儀式で演奏する専属楽師が必要だ。
今までは外部に委託していたが――お前なら、完璧にこなせる」
「でも、私は宮廷楽師として――」
「宮廷楽師の職務は続けてもらう。専属楽師は、それに加えての役割だ」

アーロンは私の手を取った。

「正直に言う。俺は――お前の音楽をもっと聴きたい。お前の演奏は、俺の心を揺さぶる。だから、傍にいてほしい」

私の心臓が、激しく打ち始めた。
これは――告白なのだろうか? いいえ、違う。
アーロンは音楽の話をしているだけ。
でも――。

「傍に、いてほしい」

その言葉が、私の胸に響く。

「わかりました」

私は頷いた。

「本当か?」

アーロンの顔が、ほんの少しだけ緩んだ。
彼がこんな表情を見せるのは、初めてだった。

「ああ――良かった」

彼は私の手を、優しく握りしめた。

「これからも、よろしく頼む。クレア」
「こちらこそ。アーロン様」

私たちは見つめ合った。
窓から差し込む夕日が、私たちを照らしている。
この瞬間が、永遠に続けばいいのに。
そんな風に思ってしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。  王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。  教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。  惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。  簡単に裏切る人になんてもう未練はない。  むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募しています。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。 ※小説内容にはAI不使用です。

処理中です...