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第五章
しおりを挟む翌朝、私は小鳥のさえずりで目を覚ました。
窓を開けると、爽やかな朝の空気が部屋に流れ込んできた。
部屋の前には、すでに侍女が待っていた。
「おはようございます、エリス様。朝食の準備ができております」
食堂では、ロザリンドが待っていた。
「よく眠れた?」
「はい。久しぶりに、ぐっすりと」
朝食は、焼きたてのクロワッサン、フルーツ、オムレツ、紅茶。
どれも美味しくて、私は思わず頬が緩んだ。
「今日、王国騎士団の副団長、ヴァレンタイン・アストレアに会わせるわ」
ロザリンドが、紅茶を飲みながら言った。
「彼は、銀月商会の顧客でもあり、私の友人でもあるの。クラウスの件を相談すれば、力になってくれるはずよ」
「騎士団の副団長が......」
「ええ。彼は正義感が強くて、不正を許さない人なの。きっと、あなたの味方になってくれるわ」
ロザリンドが立ち上がった。
「さあ、支度をしましょう。午前中に騎士団を訪ねるわ」
侍女たちが、私に綺麗な服を選んでくれた。
深い青色のドレス。シンプルだけれど、上品なデザイン。
「エリス様、お美しいですわ」
侍女が、私の髪を丁寧にセットしてくれた。
鏡を見ると、そこには見違えるような自分がいた。
地下室で囚われていた、みすぼらしい私ではない。
一人の女性として、凛とした姿。
「ロザリンドさん、本当にありがとうございます」
「礼はいらないわ。さあ、行きましょう」
王宮の騎士団詰所は、重厚な石造りの建物だった。
訓練場では、若い騎士たちが剣を振るっている。その中央に、一人の男が立っていた。
黒い髪、鋭い銀色の瞳。長身で引き締まった体躯。腰には騎士団の紋章が刻まれた剣を佩いている。
ヴァレンタイン・アストレア。
彼は訓練を終えると、私たちに気づいて歩み寄ってきた。
「ロザリンド、珍しいな。こんな朝早くから」
低く、心地よい声だった。
「ヴァレンタイン、紹介するわ。この子がエリス。アデリアの娘よ」
ヴァレンタインの目が、僅かに見開かれた。
「アデリアの......まさか、あの伝説の刻印師の?」
「ええ。そして、彼女もまた【刻印の紡ぎ手】なの」
ヴァレンタインは私を見つめた。その視線は、値踏みするようでもあり、興味深そうでもあった。
「ふむ......確かに、魔力の質が違うな」
彼が一歩近づく。
「俺はヴァレンタイン・アストレア。この国の騎士団で、副団長をやっている」
「エリスです」
私は礼をした。
「ロザリンドから聞いた。クラウス・ヴェルナーの件だろう?」
「はい......」
「詳しく話してくれ。俺が必ず、力になる」
ヴァレンタインの目は、真剣だった。
私は、再び全てを話した。
継母の虐待、セシリアの妨害、地下室での監禁、クラウスとの強制契約。
ヴァレンタインは、黙って聞いていた。だが、その目は次第に険しくなっていった。
「......許せんな」
彼が、低い声で呟いた。
「クラウス・ヴェルナー。あの男の悪行は、前々から噂になっていた。
だが、貴族だからと、誰も手を出せなかった」
ヴァレンタインが、私を見つめた。
「だが、今回は証拠がある。契約書と、違法魔法具の製造教唆。これなら、確実に動ける」
彼が部下を呼んだ。
「今夜、クラウス・ヴェルナーの屋敷を捜索する。お前たち、準備をしろ」
「はっ!」
騎士たちが、一斉に敬礼した。
「エリス」
ヴァレンタインが、私の肩に手を置いた。
「安心しろ。お前を、必ず守る」
その温かさに、私の胸が熱くなった。
「ありがとうございます......」
「礼はいらん。これが、俺の仕事だ」
彼が、優しく微笑んだ。
その夜、騎士団はクラウスの屋敷を急襲した。
翌朝、ロザリンドから報告を受けた。
「大成功よ、エリス」
ロザリンドが、嬉しそうに言った。
「クラウスの屋敷から、違法な魔法具が大量に見つかったわ。
支配の首輪、洗脳の指輪、拷問用の道具。どれも、王国法で禁じられているものばかり」
「本当に......」
「ええ。それに、もっと重要な証拠が見つかったの」
ロザリンドが、一冊の帳簿を見せた。
「クラウスと、あなたの継母との往復書簡。二人は共謀して、あなたを陥れる計画を立てていたのよ」
私の拳が、震えた。
「継母が......」
「そうよ。マデリンは、最初からあなたをクラウスに売る計画だった。
セシリアに才能がないことも知っていた。全ては、あなたの技術を奪って、金に変えるためだったのよ」
怒りよりも、虚しさが込み上げた。
やはり、継母は最初から私を利用するつもりだったのだ。
「三日後、王宮で公開査問会が開かれるわ」
ロザリンドが、私の手を握った。
「あなたの無実を証明する場よ。ヴァレンタインが、全て手配してくれたわ」
「私も、出席するんですか?」
「ええ。あなたが、直接証言する必要があるの」
ロザリンドが、優しく微笑んだ。
「でも、心配しないで。私たちが、ずっとあなたの隣にいるから」
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