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第六章
しおりを挟む三日後。
王宮の大広間は、貴族や商人たちで埋め尽くされていた。
クラウス・ヴェルナーの不正が王都中に知れ渡り、彼と関係のあった者たちが、証言を聞くために集まっていた。
私は、ロザリンドと共に、証人席に座っていた。
広間の中央には、三つの椅子が置かれている。被告人席だ。
やがて、騎士たちに連行されて、三人が入ってきた。
クラウス・ヴェルナー。手錠をかけられ、顔色は土気色だった。
マデリン。いつもの高慢な表情は消え、怯えた目で周囲を見回していた。
セシリア。泣きはらした目で、床を見つめている。
彼女たちは椅子に座らされた。
高座に、ヴァレンタインが立った。
「これより、クラウス・ヴェルナー、マデリン・フォレスト、セシリア・フォレストに対する査問会を開始する」
彼の声が、広間に響き渡った。
「まず、クラウス・ヴェルナー。貴殿は、違法な魔法具の製造と販売、強制契約による人身売買、奴隷労働の強要、以上三つの罪で告発されている」
「それは......誤解です」
クラウスが、震える声で答えた。
「誤解? では、貴殿の屋敷から押収された、支配の首輪十五個は何か? 強制契約書の束は? 奴隷労働者のリストは?」
ヴァレンタインが、証拠品を次々と示す。
クラウスは言葉に詰まった。
「それは......私が作らせたのではない。私は、ただ......」
「黙れ」
ヴァレンタインの声が、鋭く響いた。
「証拠は揃っている。貴殿の犯罪は明白だ。爵位剥奪、全財産没収、二十年の強制労働。これが貴殿の刑罰だ」
クラウスの顔が、真っ青になった。
会場から、拍手が起こった。
「そんな......私は貴族だぞ! こんな扱いは......」
「貴族だからこそ、より重い責任がある」
ヴァレンタインが冷たく言い放った。
「貴族の特権を悪用した者には、それ相応の罰が下される。連れて行け」
騎士たちがクラウスを引きずっていく。
彼の悲鳴が、広間に響いた。
私は、その姿を静かに見つめていた。
ざまあみろ、とは思わなかった。
ただ、これで終わったのだ、という安堵があった。
次に、ヴァレンタインはマデリンとセシリアに視線を向けた。
「マデリン・フォレスト、セシリア・フォレスト。
貴女方は、エリス・フォレストを虐待し、詐欺行為を働き、クラウス・ヴェルナーと共謀して人身売買に加担した」
「違いますわ!」
マデリンが叫んだ。
だが、その声は以前のような高圧的なものではなく、怯えた響きがあった。
「あの娘が、セシリアに嫉妬して! 工房を台無しにして!」
「お黙りなさい」
ヴァレンタインが手を上げた。
「エリス・フォレスト、前へ」
私は立ち上がり、中央へと歩いた。
マデリンとセシリアが、私を睨みつけてくる。
だが、もう怖くなかった。
「エリス、貴女が作った魔法具を、ここに持ってきたか?」
「はい」
私は、懐から小さな光の球体を取り出した。
昨夜、ロザリンドの工房で作ったものだ。照明の刻印を施した、簡単な魔法具。
「これを、会場の者たちに見せて差し上げて」
私は魔力を込めた。
光の球体が輝き、広間全体を柔らかな光で満たす。
会場から、感嘆の声が上がった。
「美しい......」
「なんて安定した魔力の流れだ」
「これが、【刻印の紡ぎ手】の技か」
ヴァレンタインが頷いた。
「では次に、セシリア・フォレスト。貴女が作った魔法具を見せていただこうか」
セシリアの顔が、蒼白になった。
「わ、私は......今は、道具を持っておりません」
「では、今ここで作りなさい」
ヴァレンタインが、刻印用の道具を用意させた。
羊皮紙、インク、刻印針。全て、標準的な道具だ。
「さあ、何か作ってみなさい。簡単なものでよい」
セシリアは、震える手で道具を取った。
だが、何もできなかった。
羊皮紙に古代文字を描こうとするが、手が震えて線が歪む。
魔力を込めようとするが、制御できず霧散する。
五分、十分、十五分。
会場は、静まり返っていた。
やがて、セシリアは羊皮紙を床に落とした。
「できません......」
小さな声だった。
「私には......才能がございません」
会場がざわめいた。
ヴァレンタインが、マデリンを見つめた。
「どうです、マデリン・フォレスト。まだ言い訳をなさるか?」
マデリンは、崩れ落ちそうになっていた。
「私は......娘のために......」
「娘のため? 違うでしょう」
ヴァレンタインが、書簡を取り出した。
「クラウスとの往復書簡。
ここには、貴女がエリスを売り渡す対価として、金貨五百枚を要求したと書いてある。
娘のためではない。自分の欲のためだ」
マデリンの顔が、絶望に染まった。
「貴女方の罪は、詐欺、虐待、人身売買への加担。財産は全て没収、五年の追放刑とする」
会場から、大きな拍手が起こった。
マデリンは膝をつき、床に額をつけた。
「お許しください......お許しください......」
だが、誰も彼女に同情しなかった。
セシリアは、ただ泣いていた。
私は、その姿を見て、複雑な気持ちになった。
これが、私が望んだ結末だったのだろうか。
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