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しおりを挟む私、セリーヌ・ド・ロシュフォールが夫アンドレから離縁を言い渡されたのは、春の訪れを告げる風が屋敷の庭を吹き抜けた日のことだった。
「セリーヌ、お前とはもう一緒にいられない」
執務室で書類仕事をしていた私に、アンドレは冷たい声でそう告げた。結婚して三年、夫婦の寝室は別々で、会話らしい会話もほとんどなかった。それでも、私は公爵夫人としての務めを果たしてきたつもりだった。
「......どういう、ことですか」
手にしていた羽根ペンが、震える指からこぼれ落ちそうになる。
「お前は公爵夫人として相応しくない。社交界でも評判が悪いし、屋敷の運営も満足にできていない」
アンドレの青い瞳には、まるで不要な家具でも見るような冷淡さが宿っていた。整った顔立ちと優雅な物腰で社交界の華と称される夫は、私にだけはいつもこんな表情を向ける。
「ですが、私は......」
「言い訳は聞きたくない。それに、お前には精神的な問題があるようだ。使用人たちからも、お前が独り言を言ったり、夜中に徘徊したりしているという報告を受けている」
心臓が凍りつく。そんな事実はない。私は毎晩、亡き母が遺してくれた調香の研究をしているだけだ。
「そんなこと、していません」
「使用人全員が証言している。お前の精神状態を考えると、このまま公爵夫人の座にいてもらうわけにはいかない」
アンドレは淀みなく、まるで事前に用意していた台詞を述べるように言葉を紡ぐ。
「お前の父、ブルトン子爵にも話は通してある。子爵家に戻るといい。慰謝料も用意した」
机の上に、分厚い書類の束が置かれた。離縁状だ。
「待ってください。私には身に覚えが......」
「署名を」
アンドレの声には、有無を言わさぬ威圧感があった。公爵家の権力を背景にした、絶対的な命令。逆らえば、父の子爵家にまで累が及ぶかもしれない。
私は震える手で羽根ペンを取り、離縁状に署名した。インクが紙に染み込む音が、やけに大きく聞こえた。
「明日までに荷物をまとめて出て行け。最低限の私物だけだ。公爵夫人として使っていた宝飾品やドレスは、全て屋敷に置いていけ」
「......はい」
私は書類を握りしめたまま、執務室を後にした。
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