心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました

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「お嬢様、ようこそいらっしゃいました」

トーマスは白髪混じりの髪を撫でつけ、深々と頭を下げた。彼は私が幼い頃から仕えてくれている、数少ない味方だった。

「トーマス......」

「お嬢様、こちらでゆっくりお休みください。何もかも忘れて、心を癒してくださいませ」

トーマスの優しい言葉に、涙が溢れそうになった。でも、ここで泣いたら、もう立ち上がれなくなりそうで、私は必死に堪えた。

別邸での生活が始まった。

最初の一週間は、何もする気になれなかった。ベッドに横たわり、ただ天井を見つめる日々。でも、二週間目に入った頃、ふと母の形見である調香道具が目に入った。

母は、宮廷調香師として名を馳せた女性だった。貴族の令嬢でありながら、その類まれな才能で王宮に仕え、数々の名香を生み出した。私が十歳の時に病で亡くなったが、その前に調香の基礎を教えてくれていた。

アンドレとの結婚後、私は密かに母の研究を続けていた。でも、それを夫に話すことはなかった。「公爵夫人が仕事など」と嘲笑われるのが目に見えていたから。

今なら、誰にも遠慮することなく、調香に没頭できる。

私は道具箱を開け、色とりどりの小瓶を取り出した。薔薇、ジャスミン、白檀、琥珀......母が遺してくれた香りの素たち。

手始めに、春の庭園をイメージした香水を作ってみることにした。

ガラス瓶に、薔薇の精油を数滴。そこに柑橘系の軽やかさを加え、最後にムスクで深みを出す。調合の割合は、母のノートに記されたレシピを参考にしながら、自分なりにアレンジを加えた。

一時間後、淡いピンク色の液体が完成した。

香りを確かめるため、手首に一滴垂らす。

瞬間、部屋中に春の庭園が広がった。

優雅な薔薇の香りの中に、若葉の瑞々しさと、朝露の清々しさが混ざり合う。まるで、貴族の庭園を朝の光の中で散歩しているかのような、幸福な香り。

「これは......」

自分でも驚くほど、素晴らしい出来だった。母の教えと、三年間の密かな研究が、ようやく実を結んだ。

トーマスが部屋に入ってきて、目を丸くした。

「お嬢様、この香りは......!  まるで春の庭園そのものではありませんか!  」

「トーマス、これ、本当に良い香りかしら」

「素晴らしいの一言です。こんな香りは、宮廷でも滅多にお目にかかれませんぞ」

トーマスの言葉に、胸の奥が温かくなった。

そうだ。私には、これがある。

母から受け継いだ才能が、確かにここにある。

アンドレに捨てられても、父に見放されても、私には私の価値がある。
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