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しおりを挟むその夜、店を閉めようとした時、見知らぬ男が入ってきた。
「セリーヌ・ド・ロシュフォール嬢ですね」
男は、冷たい笑みを浮かべていた。
「......はい」
「ロシュフォール公爵からの伝言です。あなたが『春風の工房』の店主であることが判明しました。元公爵夫人が商売をしているなど、我が家の恥です。即座に店を畳むように」
血の気が引いた。
「それは......」
「従わなければ、あなたの父君の子爵位を剥奪するよう、陛下に働きかけます」
男は書状を置いて、去っていった。
手が震える。
アンドレは、私から何もかも奪おうとしている。
「お嬢様! 」
エマが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか? 今の人......」
「エマ、ごめんなさい。店を、畳まなければならないかもしれない」
「そんな! どうしてですか! 」
エマの目に涙が浮かんだ。
「元夫が、妨害してきたの」
「ひどい! お嬢様は何も悪いことをしていないのに! 」
リリィも奥から出てきて、私の手を握った。
「お嬢様、諦めないでください。何か方法があるはずです」
でも、私には分からなかった。
公爵家の権力に、一介の商人が対抗できるはずがない。
その夜、私は眠れなかった。
せっかく掴んだ新しい人生。母から受け継いだ才能を活かせる場所。それが、またアンドレに奪われようとしている。
翌朝、店の前に黒い馬車が止まった。
マグナスだった。
「どうした。顔色が悪いぞ」
彼の鋭い視線が、私を見抜く。
「......実は」
私は、昨夜のことを話した。
マグナスの表情が、凍りついた。
「ロシュフォールが、そんなことを」
「彼には、公爵家の権力があります。私には、何もありません」
「お前には、才能がある」
マグナスは、断言した。
「それに、お前には俺がいる」
「え......」
「来週、王宮で舞踏会がある。王妃陛下の主催だ。そこで、お前を宮廷調香師として正式に紹介する」
「でも、アンドレも出席するでしょう」
「構わん。いや、むしろ好都合だ」
マグナスの灰色の瞳が、鋭く光った。
「あの男には、思い知らせてやる必要がある」
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