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その時、マグナスが私の隣に立った。
「セリーヌ」
「はい」
「お前は、これからどうしたい」
その問いに、私は少し考えた。
「母のように、多くの人に喜んでもらえる香りを作りたい。それが、私の夢です」
「そうか」
マグナスは、珍しく穏やかな表情を浮かべた。
「なら、俺が支援する」
「え? 」
「お前の工房を、もっと大きくしろ。もっと多くの香水を作れ。そして、俺の屋敷にも専属で香水を納めろ」
それは、命令のような、でもどこか不器用な申し出だった。
「マグナス様、それは......」
「断るのか」
「いえ、そうではなくて......どうして、そこまでしてくださるんですか」
マグナスは、少し顔を背けた。
「......お前の香水が、気に入っているからだ」
その横顔が、わずかに赤く染まっているように見えた。
その様子を見ていたエマが、くすくすと笑った。
「まあまあ、北方公爵様ったら! 」
「エマ! 」
私は慌ててエマを窘めた。
「いいじゃないですか、お嬢様。公爵様は、お嬢様のことを......」
「黙れ」
マグナスの低い声が響き、エマは口を押さえて笑いを堪えた。
「とにかく、契約書は後日送る。断るな」
マグナスは、そう言い残して足早に立ち去った。
その背中を見送りながら、私は小さく微笑んだ。
王妃陛下が、優しく笑われた。
「セリーヌ嬢、北方公爵は不器用な方ですが、心優しい人です。良い友人になれるでしょう」
「はい、陛下」
その後、舞踏会は盛大に続いた。
多くの貴族たちが、私に声をかけてきた。
「セリーヌ様、ぜひ私にも香水を! 」
「次の社交界で使いたいのですが! 」
かつて私を冷たく見ていた人たちが、今は笑顔で近づいてくる。
でも、私はもう、彼らの評価に一喜一憂しない。
私には、私の才能がある。
それを信じて、自分の道を歩いていく。
舞踏会が終わり、マグナスの馬車で屋敷まで送ってもらった。
「今日は、ありがとうございました」
「礼を言うな。お前の才能が、正当に評価されただけだ」
マグナスは、相変わらず無愛想だった。
「でも......」
「セリーヌ」
彼は、私の名を呼んだ。
「お前は、もっと自分を信じろ。お前には、価値がある」
その言葉が、胸に深く染み込んだ。
「......はい」
私は、深く頭を下げた。
馬車を降りる前、マグナスが小さな箱を差し出した。
「これは? 」
「開けてみろ」
箱を開けると、美しいブローチが入っていた。北の氷原を思わせる、青い宝石。
「これを、お前にやる」
「でも、こんな高価なもの......」
「お前の香水の代金だ。受け取れ」
マグナスの口調は、相変わらず命令的だった。
でも、その目は、優しかった。
「......ありがとうございます」
私は、ブローチを胸に抱きしめた。
その夜、工房に戻ると、トーマス、エマ、リリィが待っていてくれた。
「お嬢様! 本当に良かったです! 」
エマが泣きながら抱きついてきた。
「これから、もっと忙しくなるわよ」
「はい! 頑張ります! 」
リリィも、目に涙を浮かべて微笑んだ。
「お嬢様なら、きっと素晴らしい宮廷調香師になれます」
トーマスは、深く頭を下げた。
「お嬢様、亡き奥様も、天国できっとお喜びです」
その言葉に、私の目からも涙がこぼれた。
「みんな、ありがとう」
私は、仲間たちと抱き合った。
窓の外では、月が美しく輝いていた。
新しい人生の、始まり。
私、セリーヌ・ブルトンは、自分の才能を信じて、これから歩いていく。
母から受け継いだ香りと共に。
そして、不器用だけれど優しい友人たちと共に。
春風が、工房の窓を優しく叩いた。
それは、まるで祝福のようだった。
「セリーヌ」
「はい」
「お前は、これからどうしたい」
その問いに、私は少し考えた。
「母のように、多くの人に喜んでもらえる香りを作りたい。それが、私の夢です」
「そうか」
マグナスは、珍しく穏やかな表情を浮かべた。
「なら、俺が支援する」
「え? 」
「お前の工房を、もっと大きくしろ。もっと多くの香水を作れ。そして、俺の屋敷にも専属で香水を納めろ」
それは、命令のような、でもどこか不器用な申し出だった。
「マグナス様、それは......」
「断るのか」
「いえ、そうではなくて......どうして、そこまでしてくださるんですか」
マグナスは、少し顔を背けた。
「......お前の香水が、気に入っているからだ」
その横顔が、わずかに赤く染まっているように見えた。
その様子を見ていたエマが、くすくすと笑った。
「まあまあ、北方公爵様ったら! 」
「エマ! 」
私は慌ててエマを窘めた。
「いいじゃないですか、お嬢様。公爵様は、お嬢様のことを......」
「黙れ」
マグナスの低い声が響き、エマは口を押さえて笑いを堪えた。
「とにかく、契約書は後日送る。断るな」
マグナスは、そう言い残して足早に立ち去った。
その背中を見送りながら、私は小さく微笑んだ。
王妃陛下が、優しく笑われた。
「セリーヌ嬢、北方公爵は不器用な方ですが、心優しい人です。良い友人になれるでしょう」
「はい、陛下」
その後、舞踏会は盛大に続いた。
多くの貴族たちが、私に声をかけてきた。
「セリーヌ様、ぜひ私にも香水を! 」
「次の社交界で使いたいのですが! 」
かつて私を冷たく見ていた人たちが、今は笑顔で近づいてくる。
でも、私はもう、彼らの評価に一喜一憂しない。
私には、私の才能がある。
それを信じて、自分の道を歩いていく。
舞踏会が終わり、マグナスの馬車で屋敷まで送ってもらった。
「今日は、ありがとうございました」
「礼を言うな。お前の才能が、正当に評価されただけだ」
マグナスは、相変わらず無愛想だった。
「でも......」
「セリーヌ」
彼は、私の名を呼んだ。
「お前は、もっと自分を信じろ。お前には、価値がある」
その言葉が、胸に深く染み込んだ。
「......はい」
私は、深く頭を下げた。
馬車を降りる前、マグナスが小さな箱を差し出した。
「これは? 」
「開けてみろ」
箱を開けると、美しいブローチが入っていた。北の氷原を思わせる、青い宝石。
「これを、お前にやる」
「でも、こんな高価なもの......」
「お前の香水の代金だ。受け取れ」
マグナスの口調は、相変わらず命令的だった。
でも、その目は、優しかった。
「......ありがとうございます」
私は、ブローチを胸に抱きしめた。
その夜、工房に戻ると、トーマス、エマ、リリィが待っていてくれた。
「お嬢様! 本当に良かったです! 」
エマが泣きながら抱きついてきた。
「これから、もっと忙しくなるわよ」
「はい! 頑張ります! 」
リリィも、目に涙を浮かべて微笑んだ。
「お嬢様なら、きっと素晴らしい宮廷調香師になれます」
トーマスは、深く頭を下げた。
「お嬢様、亡き奥様も、天国できっとお喜びです」
その言葉に、私の目からも涙がこぼれた。
「みんな、ありがとう」
私は、仲間たちと抱き合った。
窓の外では、月が美しく輝いていた。
新しい人生の、始まり。
私、セリーヌ・ブルトンは、自分の才能を信じて、これから歩いていく。
母から受け継いだ香りと共に。
そして、不器用だけれど優しい友人たちと共に。
春風が、工房の窓を優しく叩いた。
それは、まるで祝福のようだった。
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