Empty land

膕館啻

文字の大きさ
48 / 135
Empty party

(3)

しおりを挟む
「ところで玉城は? 戻ってきてからどこに行ったんだ」
「俺ちょっと探してくる」
「あ、あそこ!」
玉城は廊下の奥にいた。呼んでみてもこちらへ来る様子はない。近くに寄ってみると、ぼうっと一点を見つめていた。
「玉城? 何かあったのか」
「……っ!」
話しかけるとこちらも驚くぐらい、体を大袈裟に揺らした。
「あ、ゴメンちょっと……一人にしてほしいんだ」
「どういうことだ? お前ジョーカーと何を話したんだ!」
「ゴメン……」
足を反対方向に動かして、階段を降りようとしている。その変わりように追いかけるのを戸惑ったけど、昨日のこともあるし、このまま放っておく方が危険だろう。肩を掴んで振り向かせた。
「なぁ、玉城!」
「……大丈夫だ……俺なら大丈夫だから……」
「ならどうしてそんなに怯えてるんだよ」
「……少し考えたいことがあるんだ」
急に態度が変わった。震えは止まり、声もしっかりしている。こちらを見る目も、力強いものになっていた。
「……玉城?」
「お前が心配してくれているのは分かってる。でも、今は信じてくれ。もうすぐ答えが出そうなんだ」
「……分かった。でも何かあったら、ちゃんと教えてくれよ」
「ああ、分かってる」
一体どういうことなんだ。どう考えても不自然だ。ジョーカーが何かやったとしか思えない。でもこれ以上話していても、玉城は口を割りそうになかった。

結局作戦は中途半端で、モヤモヤの方が多くが残ったまま投票の時間になってしまった。不安が募るけど、とりあえずこの投票は大丈夫だろう。皆平和にやり過ごせた方が良いはずだ。
「お待ちかねのー投票ターイムだよ! じゃんじゃじゃじゃーん!」
箱が目の前をちらつく。紐で繋がれているかのように、普通に投げていたらあり得ない飛び方をしている。
「今回は誰になるのかなー? 楽しみですねー!ちゃんと間違わないように書くんですよ、あと読める字でね。……ふんふむ早いですね。皆さん本当にそれでよろしいのですか?」
全員が書き終わると早業で回収して、一気に紙を開いた。
「……ック……ハハッ、アハハハハ! ハハッ、ヒーッ」
紙まみれになったジョーカーは、突然お腹を抱えて笑い出した。足でバタバタと床を叩いている。
「はぁ私としたことが、はしたなかったですねぇ……でもこんなの見せられたら、ねぇ? 楽しませてくれたお礼に、良いこと教えてあげましょうか」
立ち上がって全員を見渡すと、腕を高らかに上げた。
「でーも、その前に投票が気になってると思うので、いっちゃいましょう! ドーンッ」
投票用紙が一気に黒板に貼られた。前の方がざわざわとしている。
「……え?」
席が遠いからよく見えないんだと思って、立ちあがる。
「……嘘だろ、なんだこれ……っ」
黒板の前まで行っても、書かれていたのは俺の名前ばかりだった。
「森下くんはどんな魔法を使ったんですかぁ? ちょー人気者ですね、うらやましいなぁ」
「待てよ。どういうことだ……」
「えーっと森下くん十六票、篠宮くん七票あとはポチポチ一票ずつ……と」
こんなことをする意味が分からない。誰かが俺をはめようとしている? それとも俺以外は皆、繋がっていた? 俺の知らないところで……でもそんなことしていたなら、普通に俺を落とせばいいじゃないか。この票数を集められる人物が、どうして俺を残すのかが分からない。落とす人間も、残す人間も自由に選べるだろう。篠宮なら分かるけど、俺を残すメリットがない。悪意しか感じられなかった。
「二人は決定で良いですかね。まぁ二人以外を一気に落とすってワケにもいかないのでぇ、この二人を除いて、投票し直しましょう。あ、君たちには選ばれた特権として、ここで高見の見物でもしててくだーい」
前にあった椅子に座らされた。皆の方は見れない。この中のほとんどが、今の不自然な投票に参加しているんだ。じゃあ二回目はどうなる? もしかしてもう一人ぐらいいるのか? 誰かがクラスを纏めてるはず……誰だ。委員長? いや昨日はずっと一緒にいた。他の生徒も注意して見てはいなかったけど、可能性としたら……篠宮? 疑いたくはないけど、あの図書室にいたという時間が怪しい。時間は結構あった。あそこで女子にでも声をかけていたら、彼女たちは協力するだろう。票を集めることぐらいは容易だ。
横にいる篠宮を見ても変わった様子はない。いつも通りだ……怖いぐらいに。
「森下くーん考察タイムは終わりましたかー? ほらほら、切り替えていきましょう。ちゃんと今を見ることも大事ですよ? はーい回収しまーす」
二回目に入ったけど、上手く考えられなかった。今も誰かが企んでいる気がする。目的はなんだ? どうして俺なんだ。俺じゃなくちゃいけなかった理由は……。
「ほう……これはこれで面白いですね。いや形としては面白くないんですけど。富永さんは中村さん、佐藤くんは柳瀬くん……」
「えっ……」
どうして二回目で隣の奴の名前を書くんだ? 一度目しか決められていなかったのか? まぁいいや、これで誰も落ちないなら。二人が抜けたけど、そこを抜かして書けばいいだけだ。
「柿沼くんは……風間くん」
……風間? まさか……なんでもっとちゃんと確認しておかなかったんだ。一番端の奴ら……廊下側の端から始まって窓側の端まで回った後、その次に来るのは? そのまま真後ろの奴にいくのか、廊下側の端に戻るのか。それは人によって認識が違うだろう。そしたら二票にダブって落ちる奴が出てくる。
玉城は端じゃない……いや俺が抜けたから端になるのか。しかもその列は篠宮も既に抜けてしまった上に、藤沢が座っていた席もある。前の列の奴らは、問題のありそうなメンバーだ。隣が俺のままだったら、そのまま間違えずに玉城に入れてあげられたのに、これでは……どうしようもない。もう投票は終わってしまった。
ジョーカーが読み上げていく中で……間違いが三人分起こった。
「では、呼ばれなかった渡辺さんと羽下さんと、玉城くんは……」
「待て、おかしいだろ。俺にも投票させろ!」
「もう終わってしまいました。篠宮くんと、今呼ばれた方に入れて上げますか? 誰か一人を君の判断で落としますか? また投票をやり直したら、三回目はどうなるでしょう。もっと脱落者が増えるかもしれませんね? 恐らく何度やったところで、君の思い通りにはなりませんよ」
「だからって、玉城……」
後ろを向いてその席を見ると、やけに穏やかな顔をしていた。
「なんで、どうしたんだよ……」
「彼だけを救う為に、他の方を犠牲にしますか?」
「……分かった。少し話をさせてくれないか」
「……ええ、良いですよ」
玉城が、茫然としている俺を廊下に連れ出した。
「正直最後まで残るなんて全然思ってなかったから、別にショックじゃないんだ」
「……だってお前っ」
「こんなこと言っちゃ悪いかもしれないけど、正直ホッとしてるんだ。誰が敵か味方かとか考えたくない。だからこの先も見たくないんだ……それをお前に任せちゃうことになるけど、ごめんな」
「なんで、そんなに落ち着いてるんだよ! お前は落ちるような奴じゃない……っまだ必要だろ……ここに! それにこんな投票で、納得できるのか? 事故みたいなものだろ。今度はちゃんと話し合って、間違いが起こらないようにするから……っ」
「ありがとな。そんなに怒ってくれて。でも俺は弱い人間だよ。終わるって聞いて、自分でも不思議なぐらい心が穏やかなんだ。思えばもっとずっと前から……誰かに終わらせてもらいたかったんだ。お前には会えて良かった。じゃなきゃもっと喚いて疑って、自分まで信じられなくなってたと思うんだ……。少しでも自信が持てたのは、お前のおかげだよ」
「玉城……っ」
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「ま、待ってくれ……本当にもう終わりなのか……? 会えなくなる、のか……そんなの……っ」
「もーうストップストップ! なっがいですよ! いつまでクサい芝居してるんですかー。こないだ見た自費制作の映画より酷いですよー……見てませんけどね! ほらほら早くしましょう」
「うるさい! 全部お前のせいだろっ、今すぐやめさせてくれよ……こんなの。誰が何の為に……」
「もーう、君は主人公をしたがりますねぇ。大丈夫です、もう充分伝わってきました。でも、玉城くんには落ちてもらいまーす! ごめんね!」
「……っ」
後ろから体の動きを封じられた。もがこうとする俺の耳に、彼の顔をよく見てくださいとジョーカーが囁く。
前はあんなに怖がってたのに、笑みを浮かべたまま何の躊躇なく落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...