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ANM
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皆寝静まった頃に、突如鳴り出すミュージック。今宵も乙女の為のラジオが始まる。
「オォールナィーーーットマァアメイドォオオ! 略してANM! どうもーカリスマーメイドでーっす。今宵も乙女のお悩みをぎゅんぎゅん解決していっちゃうぞ!」
ショッキングピンクのヘッドフォン。ベビーピンクのメガネ。派手な格好の女が岩に降り立った。
「やっほー元気してるー? 今宵の悩めるプリンセスは……ハァーイ、こんばんマーメイド!」
「こ、こんばんまーめいど?」
岩に足を組んで座り、一人の少女の肩を抱き寄せた。
「既に姫からはお悩みを頂いておりまーす。マーメイドネーム、ガラスの馬車で迎えに来てさん。靴だけじゃなくて、馬車もガラスにしてほしいのね。さてさて……私は未だに絵本のような恋に憧れてしまいます。王子様が迎えに来てくれるだけでは物足りません。動物としか仲良くなれない女の子が歌っていたら、王子様と運命の出会いをして、二人は恋に落ちます。そこから魔女が私を襲ってきたり、別の魔女が私を助けてくれたり、なんやかんやそんなゴタゴタが起きた後、やっと二人が結ばれます。そこまでしないと、ハッピーエンドに繋がらないと思ってしまうのです。私もさすがに分かってはきているのですが、このレベルまで再現してくれる人はいないでしょうか。マーメイド様お願いします。ちなみにさっき顔だけは王子様っぽい外国人に告白したら、フラれました」
目を合わせようと近づくと、少女は避けるように下を向いた。
「……えっと。あー失恋のレベルが低いっていうか。リスナーさんじゃなかったのかしら? ほらもっと普段は王道の悩みっていうか……ああ! ま、失恋したのは確かだし。ちゃっちゃっといきますか」
岩の真ん中に立つと、メガネを外した。突然風が吹き、髪の毛を揺らす。口を開くと、美しい歌声が辺りに響いた。
「ガラスの馬車で迎えに来てちゃん。大丈夫よ……王子様も含めてまるごと全部、刺激的な出会いをプレゼントしてあげるわ。告白した相手のことは忘れてしまいなさい」
空の隙間から、光の線が何本か現れた。それを見ている少女の目元で、指を鳴らす。
「はい、これでオッケー。お悩みまるっと解決! こちらのプリンセスちゃんは運命の相手に出会えますよ。さっすがカリスマーメイド。あたしの手にかかれば不可能なことなんてないわ。じゃあ次のプリンセスに聞いてみましょう」
端っこの方に座っていた青年のところに駆け寄った。
「ハァーイ、プリンセス。ここにいる子は、みーんな恋するプリンセスよ! さて、この姫のお悩みは……」
「待ってください! マーメイド様」
「な、なにかしら……」
「僕はまだ正確にはフラれていません! ただ限りなく失恋に近いのです」
「もうとにかく座りなさい。こっちにも手順があるのよ……マーメイドネーム、女神様親衛隊?」
青年は再び立ち上がった。もう座る気はないようだ。
「は、はい! マーメイド様……いや、女神様! あなたが好きです! 世界で一番美しいです! 世界で一番麗しくて優しくて美しくて可愛くて歌がうま」
「あーあーたまにいるのよねー。こういうやつー。ちょっと、ちゃんとこういうお便りは避けておいてって言ったでしょ? あーもー今日の放送ヤバイわよ。ある意味伝説に残っちゃう回よ。なんでもっとピュアピュアな可愛いやつ用意しないのよ!」
「あ、あの……僕にはアレやらないんですか」
「あなたまだフラれてないじゃない」
「はひ! ふぇ、え、どういうことですか!」
「私にフラれたら慰めてあげるけど、このままなら私は何もできないわね」
「そ、それってつまり……!」
女はにっこりと笑う。
「両思いなら……ってそんな訳ないでしょ! ここまで来るなんてファンの風上にもおけないやつねぇ。あんたみたいなのは、まずこの岩を毎日磨くことから始めなさい!」
「は、はい……!」
「ま、一生懸命やってくれたら……どうなるか分からないけどねー」
わざと聞こえるように呟いてから、背を向けてほくそ笑む。
「こうすりゃファンも増えるし、聞いてるファンも岩綺麗にしてくれるし……ああーあたしって罪な女ねぇ」
ラジオとは言ったが、撮影もしているらしい。カメラマンの腕を掴むと、画面に顔を寄せた。
「今日のオールナイトマーメイドはここまで! ちょっと変わった回になっちゃったわね。まぁでもあたしは懐が広いから、どんなお悩みもどんどん募集しちゃうわよ。どんと来なさい! ってことで、また明日も会いましょうね。恋するプリンセス達。さよなマーメイドー」
町では様々な声が、夜な夜な響き続けていた。
「オォールナィーーーットマァアメイドォオオ! 略してANM! どうもーカリスマーメイドでーっす。今宵も乙女のお悩みをぎゅんぎゅん解決していっちゃうぞ!」
ショッキングピンクのヘッドフォン。ベビーピンクのメガネ。派手な格好の女が岩に降り立った。
「やっほー元気してるー? 今宵の悩めるプリンセスは……ハァーイ、こんばんマーメイド!」
「こ、こんばんまーめいど?」
岩に足を組んで座り、一人の少女の肩を抱き寄せた。
「既に姫からはお悩みを頂いておりまーす。マーメイドネーム、ガラスの馬車で迎えに来てさん。靴だけじゃなくて、馬車もガラスにしてほしいのね。さてさて……私は未だに絵本のような恋に憧れてしまいます。王子様が迎えに来てくれるだけでは物足りません。動物としか仲良くなれない女の子が歌っていたら、王子様と運命の出会いをして、二人は恋に落ちます。そこから魔女が私を襲ってきたり、別の魔女が私を助けてくれたり、なんやかんやそんなゴタゴタが起きた後、やっと二人が結ばれます。そこまでしないと、ハッピーエンドに繋がらないと思ってしまうのです。私もさすがに分かってはきているのですが、このレベルまで再現してくれる人はいないでしょうか。マーメイド様お願いします。ちなみにさっき顔だけは王子様っぽい外国人に告白したら、フラれました」
目を合わせようと近づくと、少女は避けるように下を向いた。
「……えっと。あー失恋のレベルが低いっていうか。リスナーさんじゃなかったのかしら? ほらもっと普段は王道の悩みっていうか……ああ! ま、失恋したのは確かだし。ちゃっちゃっといきますか」
岩の真ん中に立つと、メガネを外した。突然風が吹き、髪の毛を揺らす。口を開くと、美しい歌声が辺りに響いた。
「ガラスの馬車で迎えに来てちゃん。大丈夫よ……王子様も含めてまるごと全部、刺激的な出会いをプレゼントしてあげるわ。告白した相手のことは忘れてしまいなさい」
空の隙間から、光の線が何本か現れた。それを見ている少女の目元で、指を鳴らす。
「はい、これでオッケー。お悩みまるっと解決! こちらのプリンセスちゃんは運命の相手に出会えますよ。さっすがカリスマーメイド。あたしの手にかかれば不可能なことなんてないわ。じゃあ次のプリンセスに聞いてみましょう」
端っこの方に座っていた青年のところに駆け寄った。
「ハァーイ、プリンセス。ここにいる子は、みーんな恋するプリンセスよ! さて、この姫のお悩みは……」
「待ってください! マーメイド様」
「な、なにかしら……」
「僕はまだ正確にはフラれていません! ただ限りなく失恋に近いのです」
「もうとにかく座りなさい。こっちにも手順があるのよ……マーメイドネーム、女神様親衛隊?」
青年は再び立ち上がった。もう座る気はないようだ。
「は、はい! マーメイド様……いや、女神様! あなたが好きです! 世界で一番美しいです! 世界で一番麗しくて優しくて美しくて可愛くて歌がうま」
「あーあーたまにいるのよねー。こういうやつー。ちょっと、ちゃんとこういうお便りは避けておいてって言ったでしょ? あーもー今日の放送ヤバイわよ。ある意味伝説に残っちゃう回よ。なんでもっとピュアピュアな可愛いやつ用意しないのよ!」
「あ、あの……僕にはアレやらないんですか」
「あなたまだフラれてないじゃない」
「はひ! ふぇ、え、どういうことですか!」
「私にフラれたら慰めてあげるけど、このままなら私は何もできないわね」
「そ、それってつまり……!」
女はにっこりと笑う。
「両思いなら……ってそんな訳ないでしょ! ここまで来るなんてファンの風上にもおけないやつねぇ。あんたみたいなのは、まずこの岩を毎日磨くことから始めなさい!」
「は、はい……!」
「ま、一生懸命やってくれたら……どうなるか分からないけどねー」
わざと聞こえるように呟いてから、背を向けてほくそ笑む。
「こうすりゃファンも増えるし、聞いてるファンも岩綺麗にしてくれるし……ああーあたしって罪な女ねぇ」
ラジオとは言ったが、撮影もしているらしい。カメラマンの腕を掴むと、画面に顔を寄せた。
「今日のオールナイトマーメイドはここまで! ちょっと変わった回になっちゃったわね。まぁでもあたしは懐が広いから、どんなお悩みもどんどん募集しちゃうわよ。どんと来なさい! ってことで、また明日も会いましょうね。恋するプリンセス達。さよなマーメイドー」
町では様々な声が、夜な夜な響き続けていた。
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