Empty land

膕館啻

文字の大きさ
101 / 135
Empty dream

ANM

しおりを挟む
皆寝静まった頃に、突如鳴り出すミュージック。今宵も乙女の為のラジオが始まる。

「オォールナィーーーットマァアメイドォオオ! 略してANM! どうもーカリスマーメイドでーっす。今宵も乙女のお悩みをぎゅんぎゅん解決していっちゃうぞ!」
ショッキングピンクのヘッドフォン。ベビーピンクのメガネ。派手な格好の女が岩に降り立った。
「やっほー元気してるー? 今宵の悩めるプリンセスは……ハァーイ、こんばんマーメイド!」
「こ、こんばんまーめいど?」
岩に足を組んで座り、一人の少女の肩を抱き寄せた。
「既に姫からはお悩みを頂いておりまーす。マーメイドネーム、ガラスの馬車で迎えに来てさん。靴だけじゃなくて、馬車もガラスにしてほしいのね。さてさて……私は未だに絵本のような恋に憧れてしまいます。王子様が迎えに来てくれるだけでは物足りません。動物としか仲良くなれない女の子が歌っていたら、王子様と運命の出会いをして、二人は恋に落ちます。そこから魔女が私を襲ってきたり、別の魔女が私を助けてくれたり、なんやかんやそんなゴタゴタが起きた後、やっと二人が結ばれます。そこまでしないと、ハッピーエンドに繋がらないと思ってしまうのです。私もさすがに分かってはきているのですが、このレベルまで再現してくれる人はいないでしょうか。マーメイド様お願いします。ちなみにさっき顔だけは王子様っぽい外国人に告白したら、フラれました」
目を合わせようと近づくと、少女は避けるように下を向いた。
「……えっと。あー失恋のレベルが低いっていうか。リスナーさんじゃなかったのかしら? ほらもっと普段は王道の悩みっていうか……ああ! ま、失恋したのは確かだし。ちゃっちゃっといきますか」
岩の真ん中に立つと、メガネを外した。突然風が吹き、髪の毛を揺らす。口を開くと、美しい歌声が辺りに響いた。
「ガラスの馬車で迎えに来てちゃん。大丈夫よ……王子様も含めてまるごと全部、刺激的な出会いをプレゼントしてあげるわ。告白した相手のことは忘れてしまいなさい」
空の隙間から、光の線が何本か現れた。それを見ている少女の目元で、指を鳴らす。
「はい、これでオッケー。お悩みまるっと解決! こちらのプリンセスちゃんは運命の相手に出会えますよ。さっすがカリスマーメイド。あたしの手にかかれば不可能なことなんてないわ。じゃあ次のプリンセスに聞いてみましょう」
端っこの方に座っていた青年のところに駆け寄った。
「ハァーイ、プリンセス。ここにいる子は、みーんな恋するプリンセスよ! さて、この姫のお悩みは……」
「待ってください! マーメイド様」
「な、なにかしら……」
「僕はまだ正確にはフラれていません! ただ限りなく失恋に近いのです」
「もうとにかく座りなさい。こっちにも手順があるのよ……マーメイドネーム、女神様親衛隊?」
青年は再び立ち上がった。もう座る気はないようだ。
「は、はい! マーメイド様……いや、女神様! あなたが好きです! 世界で一番美しいです! 世界で一番麗しくて優しくて美しくて可愛くて歌がうま」
「あーあーたまにいるのよねー。こういうやつー。ちょっと、ちゃんとこういうお便りは避けておいてって言ったでしょ? あーもー今日の放送ヤバイわよ。ある意味伝説に残っちゃう回よ。なんでもっとピュアピュアな可愛いやつ用意しないのよ!」
「あ、あの……僕にはアレやらないんですか」
「あなたまだフラれてないじゃない」
「はひ! ふぇ、え、どういうことですか!」
「私にフラれたら慰めてあげるけど、このままなら私は何もできないわね」
「そ、それってつまり……!」
女はにっこりと笑う。
「両思いなら……ってそんな訳ないでしょ! ここまで来るなんてファンの風上にもおけないやつねぇ。あんたみたいなのは、まずこの岩を毎日磨くことから始めなさい!」
「は、はい……!」
「ま、一生懸命やってくれたら……どうなるか分からないけどねー」
わざと聞こえるように呟いてから、背を向けてほくそ笑む。
「こうすりゃファンも増えるし、聞いてるファンも岩綺麗にしてくれるし……ああーあたしって罪な女ねぇ」
ラジオとは言ったが、撮影もしているらしい。カメラマンの腕を掴むと、画面に顔を寄せた。
「今日のオールナイトマーメイドはここまで! ちょっと変わった回になっちゃったわね。まぁでもあたしは懐が広いから、どんなお悩みもどんどん募集しちゃうわよ。どんと来なさい! ってことで、また明日も会いましょうね。恋するプリンセス達。さよなマーメイドー」
町では様々な声が、夜な夜な響き続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...