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Who killed Cock Robin?
しおりを挟む息を呑む音が聞こえる。
一人じゃない。数人のだ。
この体の周りを囲い、目覚めるのを待っているらしい。
何の目的かは分からないが、知り合いであってもなくても、じっと寝顔を見られていると思うと居心地が悪い。意識が覚醒したなら起きてしまおう。無駄に待たせるまでもない。
芽生えた義務感に駆られ、瞼に力を込めた。何時間こうしていたのだろう。眩しい気がして一度閉じる。次に腕に力を入れた。良かった動く。
右肘を立てて、体重を乗せた。床に触れた手を集中させる。これは木だろうか、少しボコボコしている。
そうしているうちに瞼を開いた。明るいと思ったのは一瞬で、目を開けるとかなり暗い。僅かな明かりしかないようだ。それも不安定な明かり。
薄暗さの正体はロウソクか。部屋全体を照らせるまでは用意していないらしい。
ぼやぼやとした中で浮かんできたのは、人の顔。五人、いや十人はいる。どこか現実離れした美しい少年達。中には少女もいるかもしれない。少年達の上半身はぼんやりと見えるが、足の方は真っ暗で見えなかった。
ぱちぱちとまばたきを繰り返しても、景色は変わらない。この暗さで確認できた情報は、どうやらここは学校のような場所らしいということだ。今時珍しい木の校舎。椅子や机もただ木を簡単に組み立てただけのような、古臭いものだった。
「おはようございます」
少年の中の誰かが言った。自分を中心に取り囲んでいるので、私に言っているらしい。ところで、私の一人称は私で合っているだろうか? 先程から気づいてはいたが、認めたくなかった。
「……先生?」
先生――聞き覚えのない呼び方。言った覚えも、言われた覚えもない。自分には全く関係のない言葉のようにすら思う。
私は自分のことを、覚えていなかった。
「……えっと」
声は掠れていたが、出ないわけではなかった。だが声を出したことによって、喉の渇きが増した。が、今はそれを求めている場合ではない。
「何も、覚えていないという顔をしていますね」
別の少年の声だ。左斜め前辺りから聞こえた。
「その通りだ。良かったらここはどこなのかと、私が誰なのかと、君たちが誰なのか教えてほしい」
くすくすと小さな笑い声が伝染した。後ろからも聞こえる。
「あと……水を貰えたら嬉しい」
これには誰かがツボにはまったのか、豪快な笑いが一つ響いた。
「ナイン、頼めるかな」
「……うん」
ガラガラと小さな音を立てて、後ろの戸が開いた。廊下に出ていったらしい。部屋の外は暗くて何も見えないが、大丈夫だろうか。
視線を戻すと、彼らの胸元に何かがついているのに気づいた。
「ハート……?」
「ああ、これのことですか」
胸のバッジを外して、指先をこちらに近づけた。
「俺はハートの6。サイスです」
「もしかして名前かい?」
中心にいた少年が立ち上がった。
「そうですよ。ちなみに僕はエース。スペードのエースです」
初めに喋ったのも恐らく彼だ。エース、それもスペードを名乗るとは、余程の自信持ちか。
そう考えていると、少年が震える手で冷たいコップを運んできた。彼についているのはクラブのマークだ。
「……どうぞ」
お礼を言って受け取る。どこかは分からないが、綺麗な水が飲める環境ではあるらしい。ぼやけた頭にすっと冷たい水が流れ込んできたが、記憶が回復するということはなかった。
「僕らにはそれぞれトランプのマークと、その数字の名前がついていますが、これはただ判別する為につけたもの。本当の名前は知りません」
「捨てちゃったのかも」
「初めから無かったのかな」
薄暗い室内からぽつぽつと声が上がった。もしかして彼らも記憶が曖昧だったりするのだろうか。
「なぜ私を先生と呼ぶんだ?」
「その答えは先生に見つけて頂かないと」
「君達は誰?」
「僕らはただここに集まっただけの存在。それだけ」
「この場所は?」
「遠くの廃墟、誰にも見つからない場所、夢の中。お好きなのをどうぞ」
一つも真面目に答えるつもりはないらしい。再び聞いたところで、答えは貰えないだろう。
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