アイ'ドール(上)

あさまる

文字の大きさ
84 / 137
プロッシモ村の『シスターズ』

42

しおりを挟む
ぼんやりと広がる小部屋。
不明瞭。
そして、そこに届く途切れ途切れの声。

誰かが話していることが辛うじて分かるが、その程度だ。
内容までは理解することは出来ないものであった。

アヤメとの『視聴覚の共有』。
それが、アイの『アイドル』としての能力であった。

この能力が発動している。
つまり、共有先であるアヤメは生きているということだ。
一先ず、その事実に安堵するアイ。
しかし、だからと言ってそこで留まっている場合ではない。

ここは一体どこなのか?
少なくともアヤメと一緒に出掛けた場所にこんな所はなかった。
それに、何度かアヤメが近所の子らと遊んでいるのをこっそり視聴覚の共有にて見てしまったことがある。
そこにもここに該当するものはなかった。

それならば、誘拐されたのか?
いくら小さな少女とはいえ、『アイドル』。
無抵抗のまま連れて行かれるだろうか?

何らかの抵抗があれば、近くのファンが黙っていないだろう。
しかし、現にこうしてアヤメは見知らぬ場所にいる。

分からない。
次から次へと疑問が出てくる。
しかし、それらを処理出来ない。

そんな中、更に彼女を追い詰める出来事が起きた。
アヤメの聴覚に届く声。

それも一人ではない。
恐らく複数人。
きっと、今回の事情を知る重要人物なのだろう。

その重大な状況に、更にアイはパニックに陥っていく。
どうすることも出来ない。

四の五の言っていられない。
誰かに助けを求めなければならない。

唯一無二の存在。
自身より大切な妹。
失うわけにはいかない。

「だ、誰かー……す、すみません……誰かー……。」
まるで小鳥が囀ずるように小さな声。
彼女にとっての必死な叫びは、村に来ていた観光客のざわめきに瞬く間にかき消されてしまった。

駄目だ。
もちろん、そんな些細な物、誰の耳にも届かないだろう。

せめてアルコールが入っていたら違っていたかもしれない。
同じくアヤメのファンであり、価値観を語り合ったキクリにならば思う通りに声を出せただろう。

居酒屋でのテンションで大きな声を出せただろう。
そうすれば、結果は違っていたことだろう。
しかし、現実は違う。

周囲に大勢人がいる。
しかし、そんな中でも孤独なアイ。

心が折れてしまった。
座り込んでしまう。
そして、大粒の涙が溢れて来る。

駄目だ。
泣くな。
アヤメはきっと、もっと寂しいはずだ。
もっと辛いはずだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

処理中です...