はりぼてスケバン

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「今までは武蔵野が……。」

「武蔵野？」
当たり前のように出てきた人物名に戸惑う。

「ほら、ウチのクラスの武蔵野の兄のあいつと尾谷がまとめてくれてたからな……。」

「……武蔵野……武蔵野……。……あぁ、あの子か……。」
武蔵野。
そうか。
やけに突っかかってくる彼女の兄か。
ぼんやりと三花の顔を思い浮かべる華子。

あくまでぼんやり。
彼女にとって、三花はその程度の存在であったのだ。

「だがな……。」
ここまで来て、急に言いづらそうにする飛鳥。

「先生？」

「これはその……確証のないことだぞ？あくまで噂だぞ？実は俺も半信半疑なんだがな？」

「は、はい……。」
これほどの念押し。
さぞおかしなことを言うのだろう。
ごくり。
唾を飲む華子。

「なんでもその件の武蔵野がタイマンで負けたらしいんだ。」

「……へ？」

「あくまで噂な、噂！」
更なる念押し。
もう押し過ぎなくらいの念押しだ。

「は、はい……分かってますよ……。」
最早その念押しに気圧され始める華子であった。

「それで武蔵野派……というかここの大半の生徒があいつに従っていたんだが、そんな噂が広まっちゃってな……。これも噂なんだが、もうすでにいくつか派閥が生まれてるみたいなんだ。」

「……。」
無言の華子。

学内の平穏を壊しかねない派閥。
まさかそんなものの一つを、目の前の真面目な女子生徒が成り行きとはいえ作っているなど思っていないのだろう。
更にはその代表になっているとは想像すらしていないはずだ。
彼女は、心の中で謝罪するのであった。

「あくまで男子同士のいざこざだと思うから関係ないと思うが、用心しておいてくれな。」

「は、はい……。」
今まさに、目の前に男子に紛れ、派閥を作っていた華子。
再び心の中での謝罪をする。


その後の授業はいつも通りであった。
いつも通り。
つまり、授業中でも構わず彼女の周りは騒がしく、全く集中出来る環境ではなかったということだ。

これでは彼らのように成績が下がっていってしまう。
危機感に苛まれる華子。

昼になり、教室から出ようとする華子。
しかし、そんな彼女の肩を強引に抱き寄せるクラスメイトの男子。

戸惑う彼女に、昼食は何か奢るから一緒に食べようと半ば脅しに近い提案をした。
本来ならしどろもどろになるであろう彼女だが、今回は違っていた。