甘え嬢ずな海部江さん。

あさまる

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「……そっかぁ。」
しょんぼり。
翔子の露骨なそれは、何も悪いことをしていないはずの真優の心をチクリと痛めた。

どうやらこちらも似たような状態なのだろうな。
二人の話を聞き、そう思う真優であった。


食後、満腹で幸福を感じている真優。
いつもは感じない満腹感。
ついつい食べ過ぎてしまったくらいだ。
それほど、梨華が作った料理は彼女の舌に合う素晴らしいものであった。

チラリ。
翔子を見る。
彼女もまた、満腹で幸せなのだろう。
満足げに微笑んでいる。
そして、なるほどと納得した。

こんな絶品を毎日食べていれば、彼女のように大きくすくすくとそだつだろう。
しかし、ではなぜだろう。
今度は梨華を見る。
真優達よりも年下の中学生だ。
それなのに、どう見ても小学生にしか見えない。

「……雨枝先輩?もしかして今、ご自身のこと棚に上げて何か失礼なこと考えてます?」

「え?い、いや、ぜ、全然……?」
勘が鋭い。
思わず声が上擦ってしまう真優であった。

ジトーッとした目。
梨華のその視線は、真っ直ぐに真優へ向けられていた。

「……?」
二人のやりとりに首をかしげる翔子。

それにしても満足だ。
入浴した後、このまま寝れたらどれほど幸せだろう。
そんなことを思う真優であった。


ブブブ……ブブブ……。
現実に引き戻されるバイブレーション。
真優の携帯電話からのものだ。
それは、先ほどと同じように、彼女の母からの電話であった。

「あっ、すみません。母からです……。何かあったのかな……?少し失礼しますね。」
真優は、そう言うと、すぐに小走りで廊下へ出た。


彼女が電話に出る。
すると、彼女の母が今どこにいるのか尋ねてきた。
久しぶりに会った友人との時間が楽しかったのだろう。
心なしか、真優にはその声が楽しげに弾んでいるように聞こえた。

今、友達の家にいる。
そう彼女が答えると、心底驚いた声を上げた。

「真優がお友達の家に邪魔するなんて珍しいわね。明日は季節外れの雪が降るかしら……?」

「……そ、そんなに珍しいかな?そんなことないと思うんだけど……。」
真優の反論。
しかし、それは力弱いものであった。
彼女自身もそう思っているからだ。

「そうよ、今までのあなたの人間関係なんて狭く浅くだったじゃない。珍しいわよ。」

「……。」
ぐうの音も出ない。
それは、まさにこのことを言うのだろう。
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