甘え嬢ずな海部江さん。

あさまる

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「まさか、真優ちゃんが、翔子ちゃんがいないだけでここまで駄目になるなんて思わなかったよ……。」

クラスメイト達が話している。
そんな彼女らの視線は真優に向けられていた。


「……枝……!……雨……さん!雨枝さん!」


「え?あっ、え?」
ハッと、我に帰る真優。

いつの間にこれほど時間が過ぎていたのだろう?
真優の机には、古典の教科書。
一時限目のものだ。
しかし、今教壇に立っている担当教諭、そして黒板に書かれているものは数式。
数学の授業中だ。

真優の記憶が正しければ、今日の数学は三時限目だ。
彼女には一時限目、二時限目の記憶がなかった。

コンコン……。
黒板を叩く。
そして、咳払い。
真優に前に出て答えを書けと伝えたいのだろう。

どうしよう。
いつもならば、何の問題なく解けるようなものだ。
しかし、今の彼女の焦る頭ではそれも難しいようだ。

どうしよう。
困りに困った真優。

そんな彼女を見て、隣の席のクラスメイトがさりげなく自身のノートを見せた。
しかし、肝心の真優本人は気づいていない。

「す、すみません……。」
か細い声で謝罪する真優であった。


「真優ちゃん、大丈夫?やっぱり今日変だよ。」

「……うっ、で、ですよね……。」

時は進み、昼休み。
真優を心配したクラスメイトが彼女の元へ駆け寄った。

真優自身も、今日自分がおかしいのには気づいていた。
しかし、その原因が分からなかった。

「翔子ちゃんがいないのが寂しいのかー?」
ツンツン。
真優の頬を突っつく。

寂しい?
「……そう……なのでしょうか?」

「自分でも分かってないみたいだねぇ……。」

「……え?ど、どういうことでしょう?」

「……はぁ、分からないのかぁ……。」
ぽりぽり。
頬をかくクラスメイト。
そう言う彼女は苦笑いしていた。

「……も、もしかして私が今日おかしい原因の検討ついてるんですか?」

「検討というか……ねぇ?」

周りを見る真優。
皆、似たような表情で彼女を見ている。
なんということだ。
この場にいる者達全員分かっているのか?
もしかして、気がついていないのは、自分だけなのか?
「……教えて頂けませんか?」

「まぁまぁ。放課後になったら分かるよ。」
ニヤニヤ。
腹の立つような笑み。

「……そ、そうですか。」
あぁ、むかつく。
内心そう思う真優であった。
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