甘え嬢ずな海部江さん。

あさまる

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それは、今から二年ほど前のことであった。
桜の花びらがヒラヒラと舞っている。

当時の翔子。
彼女は、中学二年生へ進級したばかりで、少し浮かれている時期であった。


ある日の朝。
彼女は、今までのように登校していた。

一際視線を集めている翔子。
それでもそれは、今ほどではない。
しかし、当時の彼女の美貌も、中学生のそれとは思えないほどのものであった。
そして、背丈は今と大差ないすらりと長いものであり、体型もモデルのようなものであった。

立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
傾国美女。
高嶺の花。

それらの意味を簡単に説明しなければならない。
もしも、そのようなことが起きたとする。
彼女を知っている者ならば、必ず彼女の名前を口にするだろう。
それほどの美貌を彼女持っていたのだ。


「おはよう、翔子!」
明るい少女の挨拶。
それは、翔子へ向けられたものだ。

「あ、おはよう、弓浜さん。今日も良い天気だね。」
彼女とは違い、決して明るいものではない。

微笑むだけ。
しかし、その翔子のそれは、それだけで人々の気持ちを晴れやかにさせるものであった。

美しい彼女が、美しい表情を見せている。
その最高の組み合わせに虜になってしまう者がいても責めることは出来ないだろう。

「……今はまだ誰もいないよ?」
ふふふ。
弓浜と呼ばれた彼女も微笑む。
その笑みは、翔子の見せたものとは少し意味合いが違うものであった。

「……本当?」

「うん。私が翔子に嘘ついたことある?」

「ないよ。」

「ほら、誰も見てないよ?」
辺りを二、三度見る弓浜。

「……な、なら……。」
先ほどまでの彼女とは違い、弱々しい声。
聞こえるか聞こえないか。
それは、そんな小さなものであった。

弓浜の袖を引っ張る翔子。
彼女が言わんとしていることは分かる。

「うん、良いよ。」

「……。」
コクン。
頷く翔子。
嬉しさを隠せていない。

「行こっか。」
妖艶な笑み。
全てが思い通り。
そう言いたげな表情を見せる弓浜。

「……うん、美成実ちゃん。」
頬を染め、俯きがちに言う翔子。

弓浜美成実。
翔子の友人であり、家族を除き唯一翔子の素の姿を知る人物である。


二人が進む方向。
そちらは、彼女らの通う中学校とは違う方角であった。

二人の辿り着いた場所。
そこは、木に囲まれた森林公園であった。
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