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コメン村へ
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レニアはライトと一緒にコメン村に訪れていた。
先程鐘の音を一つ彼女は聞いたような気がしたが、先客はもう墓場にはいなかった。
コメン村自体広いので、すれ違わなくてもおかしいことはない。
レニアとライトは一つの石碑の前で花束を置いた。
キーファアルド夫妻の墓
「驚いたよ。レニアの方から声をかけてくるなんて」
夫妻の墓の前でライトが言った。
この場所で言おうと思っていたみたいなタイミングだった。
「本当はレニア一人で来させるべきだと思っていたんだよ。入学する前の報告として自発的な感じで。
日付を指定しなかったのもレニアが自分で選ぶべきだと思ったからだ」
ライトはレニアの方ではなく、墓石に刻まれている文字を見て言った。
レニアもライトに習って墓を見つめる。
「私も叔父さんはそう思ってるんじゃないかて思ってたの。
でも、兄さんが声をかけてみたらって言うから」
「じゃあ、レニアが思いついた訳ではないんだね」
今度はレニアの方を向いて言ったライトは、彼女の横顔から深い青色の目を見た。
その目から自分の息子クレンの顔が浮かんだが、それはすぐに彼の兄の顔に重なって消えた。
ライトはふっと一つ笑みを漏らした。
「兄さんには叔父さんの思ってることが分かるんだね。
さすが親子っていう感じかな」
「それもあるかもしれないな」
ライトはわざと思っていることとは別のことを口にした。
本当はクレンがよく家族を見ているからライトが思っていることが分かるように見えるだけなのだ。
クレンはライトたち一家とレニア、特にライトとレニアをつなぐ架け橋のような存在を担っているとライトは思っていた。
今こうしてレニアと一緒にいるのもクレンの働きのおかげだ。
レニアから声をかけられたら時は本当に驚いたが、それがクレンから促された行動ならまだ安心できたし、ライト自身コメン村に墓参りに来たくなかった訳でもない。
本当は今年も家族全員で来たいという思いもあった。
それでもそうしなかったのは、目の前で眠っている夫妻のことを思ったからだ。
このキーファアルド夫妻はレニアの生みの親、実の両親にあたる。
夫のルネス・キーファアルドはライトの実の兄だ。妻であるソフィー・キーファアルドと結婚し、レニアが産まれたのは十三年前のことになる。
ルネスたち三人はコメン村で生活をしていたが、そこでドイピローゼの襲撃に遭い、兵士であったルネスは妻と娘を庇い、ソフィーは娘を庇うかたちで亡くなった。
気を失っていたレニアは奇跡的にも助かったが、わずか二歳で両親と住んでいた家をなくした。
ライトはルネスの唯一の弟であり、ルネスたち一家とよく顔を合わせていたのでレニアを引き取ることに決めた。
当時、ライトには妻のリーサも六歳の息子クレンもいたため、レニアはライトたち一家に入っていくことになった。
育ての親としてレニアと年月を重ね、彼女が父親に似てくるのを感じながら、ライトの中では妙な切なさが胸をよぎる時があった。
本来レニアの側に立つのはライトやリーサではなく、ルネスやソフィーなのだ。
レニアがだんだん父親に似てくるのに彼女の実の両親は自分たちの面影を残した娘の顔を見ることも、隣に並ぶことさえできないのだ。
彼女がどんなに父親そっくりで、母親みたく優しい女性に成長してもその姿はこの先もずっと見せれない。
そう思った時ライトはレニアが痛々しく思えてしまい、実の兄を恋しいと思えてしまうのだ。
兵士としても兄としても尊敬していたルネスはこの世にいない。
レニアと兄の姿が重なるようになるにつれ、どうして兄は戻って来なかったのかと思う時もあった。
レニアの中に自然とルネスの影を探す自分にライトは申し訳なくなった。
毎年コメン村への墓参りは家族揃って行っていたが、それはレニアとルネスたち夫妻に対して育ての親として接っするべきであり、そうありたいと願っていたからだった。
兄の忘れ形見としてレニアを見るのではなく、大切な自身の子供のようにレニアを見るために。
それでも、それでは駄目だとライトは思い始めた。
レニアはルネスとソフィーの子供であり、ルネスの分身ではない。
レニアは一人の人間として誰の目からも写るべき存在であるのだ。
だからライトは今回レニア一人で来させようと思った。
レニアが小級学校を卒業して、ルネスやライトの母校であるギリカ・カーレに通えるまでになったことも理由の一つだが、ライトからしたら引きずっていた兄の死を振り返らないための方が大きかったかもしれない。
結局はクレンの計らいによりレニアと二人で来ることになったが、もしレニアが本当にライトのことを察して声をかけたのなら、今までライトがレニアを見る視線から全てを感じとられていたのかもしれない。
それは、ライトを予想以上に不安にさせた。 だが、ライトが兄夫婦に会いに行きたいのは本心で、自分から声をかけるよりもレニアから声をかけてもらった方が行きやすかった。
全く、愛息子の至りようには本当に感服するばかりだとライトはしみじみ感じた。
墓石を見つめるレニアの深い青い目と黒髪は父親譲りだ。
兵士として腕がたった父親に似て剣術の才能もある。
いつかレニアを見て、ほんの一時だけルネスの顔が重なる程度で、それで懐かしく感じられるようになれたらいいとライトは思う。
それまでの踏むべき段階としてレニアのギリカ・カーレへの入学なのだ。
「鐘を鳴らしに行こうか」
ライトはレニアに呼びかけた。
二人は並んで歩いていく。
兄さん、これから先もあなたの立つべき場所に立たせて下さい。
頼りなくても、せめてあなたの弟として
祈るように見上げた鐘はライトが思ったより高く、長く響いた。
先程鐘の音を一つ彼女は聞いたような気がしたが、先客はもう墓場にはいなかった。
コメン村自体広いので、すれ違わなくてもおかしいことはない。
レニアとライトは一つの石碑の前で花束を置いた。
キーファアルド夫妻の墓
「驚いたよ。レニアの方から声をかけてくるなんて」
夫妻の墓の前でライトが言った。
この場所で言おうと思っていたみたいなタイミングだった。
「本当はレニア一人で来させるべきだと思っていたんだよ。入学する前の報告として自発的な感じで。
日付を指定しなかったのもレニアが自分で選ぶべきだと思ったからだ」
ライトはレニアの方ではなく、墓石に刻まれている文字を見て言った。
レニアもライトに習って墓を見つめる。
「私も叔父さんはそう思ってるんじゃないかて思ってたの。
でも、兄さんが声をかけてみたらって言うから」
「じゃあ、レニアが思いついた訳ではないんだね」
今度はレニアの方を向いて言ったライトは、彼女の横顔から深い青色の目を見た。
その目から自分の息子クレンの顔が浮かんだが、それはすぐに彼の兄の顔に重なって消えた。
ライトはふっと一つ笑みを漏らした。
「兄さんには叔父さんの思ってることが分かるんだね。
さすが親子っていう感じかな」
「それもあるかもしれないな」
ライトはわざと思っていることとは別のことを口にした。
本当はクレンがよく家族を見ているからライトが思っていることが分かるように見えるだけなのだ。
クレンはライトたち一家とレニア、特にライトとレニアをつなぐ架け橋のような存在を担っているとライトは思っていた。
今こうしてレニアと一緒にいるのもクレンの働きのおかげだ。
レニアから声をかけられたら時は本当に驚いたが、それがクレンから促された行動ならまだ安心できたし、ライト自身コメン村に墓参りに来たくなかった訳でもない。
本当は今年も家族全員で来たいという思いもあった。
それでもそうしなかったのは、目の前で眠っている夫妻のことを思ったからだ。
このキーファアルド夫妻はレニアの生みの親、実の両親にあたる。
夫のルネス・キーファアルドはライトの実の兄だ。妻であるソフィー・キーファアルドと結婚し、レニアが産まれたのは十三年前のことになる。
ルネスたち三人はコメン村で生活をしていたが、そこでドイピローゼの襲撃に遭い、兵士であったルネスは妻と娘を庇い、ソフィーは娘を庇うかたちで亡くなった。
気を失っていたレニアは奇跡的にも助かったが、わずか二歳で両親と住んでいた家をなくした。
ライトはルネスの唯一の弟であり、ルネスたち一家とよく顔を合わせていたのでレニアを引き取ることに決めた。
当時、ライトには妻のリーサも六歳の息子クレンもいたため、レニアはライトたち一家に入っていくことになった。
育ての親としてレニアと年月を重ね、彼女が父親に似てくるのを感じながら、ライトの中では妙な切なさが胸をよぎる時があった。
本来レニアの側に立つのはライトやリーサではなく、ルネスやソフィーなのだ。
レニアがだんだん父親に似てくるのに彼女の実の両親は自分たちの面影を残した娘の顔を見ることも、隣に並ぶことさえできないのだ。
彼女がどんなに父親そっくりで、母親みたく優しい女性に成長してもその姿はこの先もずっと見せれない。
そう思った時ライトはレニアが痛々しく思えてしまい、実の兄を恋しいと思えてしまうのだ。
兵士としても兄としても尊敬していたルネスはこの世にいない。
レニアと兄の姿が重なるようになるにつれ、どうして兄は戻って来なかったのかと思う時もあった。
レニアの中に自然とルネスの影を探す自分にライトは申し訳なくなった。
毎年コメン村への墓参りは家族揃って行っていたが、それはレニアとルネスたち夫妻に対して育ての親として接っするべきであり、そうありたいと願っていたからだった。
兄の忘れ形見としてレニアを見るのではなく、大切な自身の子供のようにレニアを見るために。
それでも、それでは駄目だとライトは思い始めた。
レニアはルネスとソフィーの子供であり、ルネスの分身ではない。
レニアは一人の人間として誰の目からも写るべき存在であるのだ。
だからライトは今回レニア一人で来させようと思った。
レニアが小級学校を卒業して、ルネスやライトの母校であるギリカ・カーレに通えるまでになったことも理由の一つだが、ライトからしたら引きずっていた兄の死を振り返らないための方が大きかったかもしれない。
結局はクレンの計らいによりレニアと二人で来ることになったが、もしレニアが本当にライトのことを察して声をかけたのなら、今までライトがレニアを見る視線から全てを感じとられていたのかもしれない。
それは、ライトを予想以上に不安にさせた。 だが、ライトが兄夫婦に会いに行きたいのは本心で、自分から声をかけるよりもレニアから声をかけてもらった方が行きやすかった。
全く、愛息子の至りようには本当に感服するばかりだとライトはしみじみ感じた。
墓石を見つめるレニアの深い青い目と黒髪は父親譲りだ。
兵士として腕がたった父親に似て剣術の才能もある。
いつかレニアを見て、ほんの一時だけルネスの顔が重なる程度で、それで懐かしく感じられるようになれたらいいとライトは思う。
それまでの踏むべき段階としてレニアのギリカ・カーレへの入学なのだ。
「鐘を鳴らしに行こうか」
ライトはレニアに呼びかけた。
二人は並んで歩いていく。
兄さん、これから先もあなたの立つべき場所に立たせて下さい。
頼りなくても、せめてあなたの弟として
祈るように見上げた鐘はライトが思ったより高く、長く響いた。
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