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12 悪逆宰相の苦悩
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「ここまでは順調だったんだがな……」
執務室でランドルフが書類作業もそこそこにぼやく。
アシュリーを捕らえて早二週間。
さすがに拷問のネタが尽きてきて、ランドルフは行き詰っていた。
若い女が喜ぶようなものなんて、仕事一筋でやってきたランドルフにはもう思いつかないのだ。
「深刻なネタ切れですね」
応接用のテーブルで書類の精査をしていたロランが調子を合わせてくる。
「なんでこんなことに頭を悩ませなければならんのだ」
深いため息をついて仕事を再開させる。
やることは山積みなのに、敵国の王女を喜ばせる方法を考えなくてはならないなんて。
今になってランドルフは同じ内容のグレードアップ禁止なんて言葉を素直に聞くんじゃなかったと、心底後悔していた。
「だいたいなんで捕虜のクセにあいつがルールを決めてるんだ」
「今更ですね」
ぶつくさ文句を言うと、ロランがもっともな言葉を返してきた。
だが今ランドルフが聞きたいのは正論ではなかった。
「おまえも何かいい案を出せ」
「それはフェアじゃないですよ」
腹立ちまぎれに助言を求めるが、涼しい顔で断られてしまう。
ランドルフ自らが拷問手段を考えろというアシュリーの言葉を尊重しているのだろう。
「捕虜相手にフェアもクソもあるか」
「口が悪いですよ閣下」
ロランの言葉には面白がる響きがあって、真面目に取り合う気がなさそうだった。
どうやら国家間の深刻な事態だという自覚がないらしい。
まああんなふざけた拷問ごっこをしていれば無理もない話だが。
諦めに似た気持ちでそんなことを思う。
「おまえ、王女に肩入れし始めていないか」
ランドルフが指摘すると、ロランは澄ました顔で肩を竦めた。
どうやらこの半月ほどのやりとりで、ロランはアシュリーを気に入ってきたようだ。
「まったく。おまえもあの女も事の重大さを理解しているとは思えんな」
「ですがここまでの情報でもかなり引き出せた方では? 普通の拷問ではこれだけの情報を引き出す前にアシュリー様の体力が尽きていたでしょうから」
「そうだな……」
それは確かにロランの言う通りだ。
捕縛当時、美容のためかアシュリーは不健康なほどに痩せていた。
女というものは美しさのためならなんでもするのだなとランドルフは呆れたものだ。
あの状態で拷問にかけていたら一週間も持たなかっただろう。
ただ、本気で拷問する気はなかったし、あれだけの情報を持っているとも思っていなかったから、アシュリーからの提案は思いがけない幸運だった。
もっと情報があるのならいくらでもこの奇妙な拷問を続けていたいくらいだ。
今は捕らえられてからは食事以外の娯楽がないせいもあってか、与えられた分きっちり食べている。
そのおかげか、捕らえた時より少し肉付きが良くなったほどだ。
「カラプタリアは王女を捕えられてお葬式ムードらしいですよ」
「殺されるどころか肥えさせられているというのに」
ロランが苦笑しながら言うので、乾いた笑いが漏れてしまう。
解放した騎士二人は正確にアシュリーの現状を伝えてくれたようだ。
可哀想な王女様はアストラリスの悪逆宰相に囚われた、と。
「動くと思うか?」
「いいえ。やつらにそんな度胸はないでしょう」
ロランが冷静に言う。
ランドルフも同意見だ。
先王の時代ならまだしも、今のカラプタリアは何もかもが中途半端で及び腰だ。
今回のことだって、娘を囚われて奮起するでもなく悲嘆に暮れるのみ。
あの王のままでは、カラプタリアから戦争を終わらせるためのアクションを起こすことはまずないだろう。
だからこそこちらから仕掛けたいのだ。
あらゆる情報を集め、完膚なきまでに叩き潰し、二度と戦争など起こらぬように。
そのために、アシュリーの情報がことさら重要だった。
「とはいえ、何をしたら喜ぶのかもう見当もつかん」
ここのところ、アシュリーのことばかり考えている気がする。
さすがに仕事が手につかないとまではいかないが、ふとした瞬間アシュリーが拷問に陥落した瞬間の幸せそうな顔を思い出しては、次はどんな手を使おうと頭を悩ませてしまうのだ。
「まるで意中の女性を落とそうとしているみたいですね」
くすりとロランが笑う。
揶揄を含んだ言い方だ。
有能な男だが、隙あらば上司で遊ぼうとするのが悪い癖だ。
「ふん、ならデートにでも誘えばいいのか?」
動じずに冗談で返す。
がっかりするだろう。
きっとこいつは慌てふためく俺の姿を想像していたはずだから。
けれどロランはランドルフの予想通りの表情にはならず、目をパチパチと瞬いたあとでこう言った。
「それ、名案です」
執務室でランドルフが書類作業もそこそこにぼやく。
アシュリーを捕らえて早二週間。
さすがに拷問のネタが尽きてきて、ランドルフは行き詰っていた。
若い女が喜ぶようなものなんて、仕事一筋でやってきたランドルフにはもう思いつかないのだ。
「深刻なネタ切れですね」
応接用のテーブルで書類の精査をしていたロランが調子を合わせてくる。
「なんでこんなことに頭を悩ませなければならんのだ」
深いため息をついて仕事を再開させる。
やることは山積みなのに、敵国の王女を喜ばせる方法を考えなくてはならないなんて。
今になってランドルフは同じ内容のグレードアップ禁止なんて言葉を素直に聞くんじゃなかったと、心底後悔していた。
「だいたいなんで捕虜のクセにあいつがルールを決めてるんだ」
「今更ですね」
ぶつくさ文句を言うと、ロランがもっともな言葉を返してきた。
だが今ランドルフが聞きたいのは正論ではなかった。
「おまえも何かいい案を出せ」
「それはフェアじゃないですよ」
腹立ちまぎれに助言を求めるが、涼しい顔で断られてしまう。
ランドルフ自らが拷問手段を考えろというアシュリーの言葉を尊重しているのだろう。
「捕虜相手にフェアもクソもあるか」
「口が悪いですよ閣下」
ロランの言葉には面白がる響きがあって、真面目に取り合う気がなさそうだった。
どうやら国家間の深刻な事態だという自覚がないらしい。
まああんなふざけた拷問ごっこをしていれば無理もない話だが。
諦めに似た気持ちでそんなことを思う。
「おまえ、王女に肩入れし始めていないか」
ランドルフが指摘すると、ロランは澄ました顔で肩を竦めた。
どうやらこの半月ほどのやりとりで、ロランはアシュリーを気に入ってきたようだ。
「まったく。おまえもあの女も事の重大さを理解しているとは思えんな」
「ですがここまでの情報でもかなり引き出せた方では? 普通の拷問ではこれだけの情報を引き出す前にアシュリー様の体力が尽きていたでしょうから」
「そうだな……」
それは確かにロランの言う通りだ。
捕縛当時、美容のためかアシュリーは不健康なほどに痩せていた。
女というものは美しさのためならなんでもするのだなとランドルフは呆れたものだ。
あの状態で拷問にかけていたら一週間も持たなかっただろう。
ただ、本気で拷問する気はなかったし、あれだけの情報を持っているとも思っていなかったから、アシュリーからの提案は思いがけない幸運だった。
もっと情報があるのならいくらでもこの奇妙な拷問を続けていたいくらいだ。
今は捕らえられてからは食事以外の娯楽がないせいもあってか、与えられた分きっちり食べている。
そのおかげか、捕らえた時より少し肉付きが良くなったほどだ。
「カラプタリアは王女を捕えられてお葬式ムードらしいですよ」
「殺されるどころか肥えさせられているというのに」
ロランが苦笑しながら言うので、乾いた笑いが漏れてしまう。
解放した騎士二人は正確にアシュリーの現状を伝えてくれたようだ。
可哀想な王女様はアストラリスの悪逆宰相に囚われた、と。
「動くと思うか?」
「いいえ。やつらにそんな度胸はないでしょう」
ロランが冷静に言う。
ランドルフも同意見だ。
先王の時代ならまだしも、今のカラプタリアは何もかもが中途半端で及び腰だ。
今回のことだって、娘を囚われて奮起するでもなく悲嘆に暮れるのみ。
あの王のままでは、カラプタリアから戦争を終わらせるためのアクションを起こすことはまずないだろう。
だからこそこちらから仕掛けたいのだ。
あらゆる情報を集め、完膚なきまでに叩き潰し、二度と戦争など起こらぬように。
そのために、アシュリーの情報がことさら重要だった。
「とはいえ、何をしたら喜ぶのかもう見当もつかん」
ここのところ、アシュリーのことばかり考えている気がする。
さすがに仕事が手につかないとまではいかないが、ふとした瞬間アシュリーが拷問に陥落した瞬間の幸せそうな顔を思い出しては、次はどんな手を使おうと頭を悩ませてしまうのだ。
「まるで意中の女性を落とそうとしているみたいですね」
くすりとロランが笑う。
揶揄を含んだ言い方だ。
有能な男だが、隙あらば上司で遊ぼうとするのが悪い癖だ。
「ふん、ならデートにでも誘えばいいのか?」
動じずに冗談で返す。
がっかりするだろう。
きっとこいつは慌てふためく俺の姿を想像していたはずだから。
けれどロランはランドルフの予想通りの表情にはならず、目をパチパチと瞬いたあとでこう言った。
「それ、名案です」
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