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25 捕虜による拷問③
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「うーん、拷問、拷問……」
「いやそんな真剣に考えるようなことでは…」
アシュリーが真剣に考え始めるのを見て、冗談のつもりだったと言いづらくなってしまった。
困ったことになったなと思いつつ、腕組みをして考え込むアシュリーを眺める。
いつも余裕の笑みを浮かべてばかりの彼女がそういう表情をしているのが新鮮で、ついじっと見入ってしまう。
「……案外難しいものですわね」
ふ、と息を吐き出して、諦めたように腕組みを解く。
「俺の苦労が分かっただろう」
「不慣れなだけですわ」
いい拷問が思いつけなかったのが悔しいのだろう。眉間にシワを寄せて、アシュリーが唇を尖らせる。
「これを機に俺への態度を改めるといい」
子供っぽい仕草に微笑ましい気持ちになりながら言う。
彼女の仕草のひとつひとつに仕事の疲れが癒えていく気がして、気分が良かった。
「まあ! いつもきちんと感謝していましてよ?」
「捕虜が拷問官に感謝するな」
アシュリーのズレた反応に思わず笑う。
彼女が来てから、つられるように自分も表情が増えたように思う。
ここにくると自然と笑顔になるのだ。
これまで何度もアシュリーの幸せレートが低すぎると思っていたが、人のこと言えないなと思わず苦笑いになる。
「閣下はアシュリー様の拷問に屈されたようですよ」
「ゴホッ」
ロランがいい笑顔で言って、ランドルフがむせる。
まるで見透かしたようなタイミングだ。
「え?」
アシュリーが不思議そうに首を傾げる。
「わたくしまだなんの拷問もしていませんわ」
訳が分からないという顔のアシュリーと、同じような表情のジゼルが顔を見合わせている。
なんとかしろという圧をかけながらギロリと睨むが、ロランは涼しい顔をしている。
「減給するぞ」
「閣下は激務でお疲れなのです。アシュリー様とのんびりお過ごしの間に癒やされたんですよ」
直截的な脅しにあっさりと手のひらを返したロランがフォローを入れる。
だがそれもギリギリのところを攻めるスタイルのせいで、どんな顔をしていいのか分からない。
「まあ、そうですの……では今日はわたくしがなかなか屈さなかったということで、しばらくここでゆっくりなさるといいわ」
ロランの言葉をそのまま受け取ったらしいアシュリーが気の毒そうな顔で言う。
「ああ、助かる……」
ボソボソと話を合わせる。
もう一度ロランを睨むと、なぜか褒めてほしそうな顔をされた。
「なんでしたら膝枕もお付けいたしましょうか?」
「ゲホッ!……ごほ、ンンッ」
予想外の言葉に今度は盛大にむせる。
「過剰な拷問は死期を早めますので」
咳が止まらなくなったランドルフの背をさすりながら、気遣わし気にロランが言う。
こいつ完全に面白がってやがる。
恨みがましい視線を送るが、堪えた様子はない。
「はあ……癒やしの拷問なのに……?」
まったく分かっていない顔のアシュリーが、納得のいかない顔で言う。
「まあともかく、わたくしの勝ちということでよろしいですわね?」
気を取り直すようにウキウキで問われて気が抜けた。
「勝手にしろ」
ようやく落ち着いて、ランドルフが苦笑で答える。
「といっても、おまえが喜ぶような情報は持っていないぞ?」
国家機密を話したところでアシュリーはアストラリスに囚われているのだし、そもそもそんなものを知りたがっているようにも見えない。
「わたくしが知りたいことはひとつだけ」
ピッと人差し指を立てて、真剣な顔になる。
「なぜあなたは悪虐宰相なんて大それた二つ名になったんです?」
思いがけない質問にランドルフは目をぱちくりと瞬かせた。
「そんなことが知りたいのか」
隣で噴き出すのを堪えているロランの足を、視線もやらずに蹴飛ばしながら問う。
「私も気になります……」
アシュリーの斜め後ろにおとなしく控えていたジゼルが遠慮がちに言う。
国内の人間と言えど、噂の出処を知る者は少ない。
大抵の国民はランドルフが血も涙もない恐ろしい宰相だと信じているので、もしかしたらジゼルも最初の頃は恐れていたのだろうか。
「わたくしが囚われてからずっと、一度も本当の意味での拷問なんてされてないでしょう?」
「いやそれはおまえがそう望んだんだろ」
厚かましくも痛い拷問は嫌だの幸せにしろだの言ってきた張本人が何を言うのか。
「それはそうですが、噂通りの悪逆宰相ならそんなとんでもない望みを叶えてくれるわけもありません」
その自覚はあったのか。
ぶっとんだ要求をするわりに、案外常識はあるらしい。
「本性を隠しているだけだとは思わないのか」
「一ヶ月以上もお話してきましたけど、残虐性のカケラも見えませんでしたわ」
ジゼルが同意するようにコクコクと頷く。
「一生懸命威圧的に見せようとしているようですけど、人柄の良さが滲み出ていますもの」
言われてランドルフはむっつりと黙り込んだ。
見た目のおかげでずいぶんと恐れられてきたという自負がある。
一生懸命と言われるとなんだか恥ずかしいではないか。
隣でロランが堪えきれずに噴き出した。
足を踏んでも効果はない。
「閣下。もったいぶると余計話しづらくなると思いますが」
話すのを渋るランドルフに、ロランが笑いを滲ませながら助言してくる。
「……分かった。すごくくだらない話だがいいか」
「くだらない話こそ聞きたいですわ!」
なぜだか俄然興味が湧いたらしく、アシュリーの目が輝き出した。
ランドルフは観念して、失笑される覚悟で悪逆宰相と呼ばれるに至る経緯を説明し始めた。
「いやそんな真剣に考えるようなことでは…」
アシュリーが真剣に考え始めるのを見て、冗談のつもりだったと言いづらくなってしまった。
困ったことになったなと思いつつ、腕組みをして考え込むアシュリーを眺める。
いつも余裕の笑みを浮かべてばかりの彼女がそういう表情をしているのが新鮮で、ついじっと見入ってしまう。
「……案外難しいものですわね」
ふ、と息を吐き出して、諦めたように腕組みを解く。
「俺の苦労が分かっただろう」
「不慣れなだけですわ」
いい拷問が思いつけなかったのが悔しいのだろう。眉間にシワを寄せて、アシュリーが唇を尖らせる。
「これを機に俺への態度を改めるといい」
子供っぽい仕草に微笑ましい気持ちになりながら言う。
彼女の仕草のひとつひとつに仕事の疲れが癒えていく気がして、気分が良かった。
「まあ! いつもきちんと感謝していましてよ?」
「捕虜が拷問官に感謝するな」
アシュリーのズレた反応に思わず笑う。
彼女が来てから、つられるように自分も表情が増えたように思う。
ここにくると自然と笑顔になるのだ。
これまで何度もアシュリーの幸せレートが低すぎると思っていたが、人のこと言えないなと思わず苦笑いになる。
「閣下はアシュリー様の拷問に屈されたようですよ」
「ゴホッ」
ロランがいい笑顔で言って、ランドルフがむせる。
まるで見透かしたようなタイミングだ。
「え?」
アシュリーが不思議そうに首を傾げる。
「わたくしまだなんの拷問もしていませんわ」
訳が分からないという顔のアシュリーと、同じような表情のジゼルが顔を見合わせている。
なんとかしろという圧をかけながらギロリと睨むが、ロランは涼しい顔をしている。
「減給するぞ」
「閣下は激務でお疲れなのです。アシュリー様とのんびりお過ごしの間に癒やされたんですよ」
直截的な脅しにあっさりと手のひらを返したロランがフォローを入れる。
だがそれもギリギリのところを攻めるスタイルのせいで、どんな顔をしていいのか分からない。
「まあ、そうですの……では今日はわたくしがなかなか屈さなかったということで、しばらくここでゆっくりなさるといいわ」
ロランの言葉をそのまま受け取ったらしいアシュリーが気の毒そうな顔で言う。
「ああ、助かる……」
ボソボソと話を合わせる。
もう一度ロランを睨むと、なぜか褒めてほしそうな顔をされた。
「なんでしたら膝枕もお付けいたしましょうか?」
「ゲホッ!……ごほ、ンンッ」
予想外の言葉に今度は盛大にむせる。
「過剰な拷問は死期を早めますので」
咳が止まらなくなったランドルフの背をさすりながら、気遣わし気にロランが言う。
こいつ完全に面白がってやがる。
恨みがましい視線を送るが、堪えた様子はない。
「はあ……癒やしの拷問なのに……?」
まったく分かっていない顔のアシュリーが、納得のいかない顔で言う。
「まあともかく、わたくしの勝ちということでよろしいですわね?」
気を取り直すようにウキウキで問われて気が抜けた。
「勝手にしろ」
ようやく落ち着いて、ランドルフが苦笑で答える。
「といっても、おまえが喜ぶような情報は持っていないぞ?」
国家機密を話したところでアシュリーはアストラリスに囚われているのだし、そもそもそんなものを知りたがっているようにも見えない。
「わたくしが知りたいことはひとつだけ」
ピッと人差し指を立てて、真剣な顔になる。
「なぜあなたは悪虐宰相なんて大それた二つ名になったんです?」
思いがけない質問にランドルフは目をぱちくりと瞬かせた。
「そんなことが知りたいのか」
隣で噴き出すのを堪えているロランの足を、視線もやらずに蹴飛ばしながら問う。
「私も気になります……」
アシュリーの斜め後ろにおとなしく控えていたジゼルが遠慮がちに言う。
国内の人間と言えど、噂の出処を知る者は少ない。
大抵の国民はランドルフが血も涙もない恐ろしい宰相だと信じているので、もしかしたらジゼルも最初の頃は恐れていたのだろうか。
「わたくしが囚われてからずっと、一度も本当の意味での拷問なんてされてないでしょう?」
「いやそれはおまえがそう望んだんだろ」
厚かましくも痛い拷問は嫌だの幸せにしろだの言ってきた張本人が何を言うのか。
「それはそうですが、噂通りの悪逆宰相ならそんなとんでもない望みを叶えてくれるわけもありません」
その自覚はあったのか。
ぶっとんだ要求をするわりに、案外常識はあるらしい。
「本性を隠しているだけだとは思わないのか」
「一ヶ月以上もお話してきましたけど、残虐性のカケラも見えませんでしたわ」
ジゼルが同意するようにコクコクと頷く。
「一生懸命威圧的に見せようとしているようですけど、人柄の良さが滲み出ていますもの」
言われてランドルフはむっつりと黙り込んだ。
見た目のおかげでずいぶんと恐れられてきたという自負がある。
一生懸命と言われるとなんだか恥ずかしいではないか。
隣でロランが堪えきれずに噴き出した。
足を踏んでも効果はない。
「閣下。もったいぶると余計話しづらくなると思いますが」
話すのを渋るランドルフに、ロランが笑いを滲ませながら助言してくる。
「……分かった。すごくくだらない話だがいいか」
「くだらない話こそ聞きたいですわ!」
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