【完結】敵国の悪虐宰相に囚われましたが、拷問はイヤなので幸せを所望します。

当麻リコ

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41 敗者の末路

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カラプタリア侵攻は拍子抜けするほどに簡単だった。
アシュリーの情報をもとに、なんと半月ほどで決着がついてしまったのだ。

それだけ宮廷が腐りきっていたということだろう。
アストラリスが手を下すまでもなく、崩壊寸前だったのだ。
有事にまともに対応できる人間を考えなしに切り捨てていった結果だというのは自明の理だった。

潜伏中の密偵がカラプタリアの宰相ヒューゴにアシュリーの意向を伝えた時、彼はまるで信じなかったらしい。

アストラリスの手のものだと告げた瞬間、アシュリー王女を返せと鬼気迫る勢いで斬りかかってきた。
そう青褪めながら報告された時には、さすがに危険手当を弾んでやろうと心に決めた。

今回の作戦の中で、定期報告で落ち合う村まで彼を連れ出すのが一番の難関だったかもしれない。

アシュリーに引き合わせた時、安堵のあまり泣き崩れる姿を見て、ランドルフは彼を信じると決めた。
ヒューゴは必ずや役目を果たすとアシュリーに誓い、見事期待に応えてくれた。

彼は長らく雌伏の時を過ごした者たちと連絡を取り合い、国王夫妻に取り入った官僚たちを欺き、秘密裏にアストラリス兵を迎え入れる準備を整えてくれた。
アストラリス兵たちはアシュリーの情報をもとに隠し通路を利用し見張り体制の穴を尽き、ヒューゴたちの協力を得て、国王が気づく間もなくカラプタリア城を速やかに占拠、制圧した。
長年に渡る冷戦はなんだったのかと思えるほどに呆気ない幕引きだった。

その後アシュリーのリストにあった人物たちと協議を重ね、彼らを中心とした議会を置くことで合意した。
独裁的な王政で腐り落ちたカラプタリアには相応しい道だ。
彼らがまず初めにすることは、腐敗した貴族たちを厳しい監視下に置き、国民の暮らしを向上させることだろう。
国が安定するまで、アストラリスは協力を惜しまないと約束した。

アシュリーの弟である七歳の第一王子は、しばらくはお飾りの王となるだろう。
七歳といえば、アストラリスでは帝王学を受け未来の王たる自覚が出てくる年齢だ。
にも拘らず、怯えて泣くだけの少年に王の器があるとは思えなかった。
だが成人までの間、宰相を始めとした真っ当な大人たちがしっかり教育すれば、少なくとも前王のような卑怯者にはなるまいと信じている。

敗戦国への過剰な賠償請求はしないこととした。
カラプタリアはアストラリスの属国となるが、厳しい締め付けはなく、議会による自治を認めた。

本当なら王妃が流した噂を信じてアシュリーを非難した国民すべてを粛清してやりたかったが、アシュリーはきっと望まない。
それに諸悪の根源であるナタリアさえ排除すれば、徐々に正常化していくだろう。

アストラリス国王を説得するのは骨が折れたが、最終的には恨みを買うより恩を売った方が得策だと判断してくれた。冷戦状態が続いていたおかげで、ここ最近の被害額が少なかったことも重大な要因だろう。
柔軟な方でよかったと、この時ほど思ったことはない。


そうして今、アストラリス地下牢にはカラプタリア国王夫妻が囚われていた。

父親に会うか聞くと、アシュリーは冷ややかな表情で首を横に振った。
興味が失せたのだろう。無機質で美しい目をしていた。

それでいい。
親子の情など、引きずる価値もない男だ。
そんな愚かな者のことより、彼らに振り回された国民と善良な廷臣たちの今後を憂う姿に心を打たれ、またひとつアシュリーへの思慕が増した。

それに比べ、この者たちは。

「ねえ! お願いよ! ここから出してちょうだい! 私はただ陛下の判断に従っただけ!」
「ちっ、違う! 私はこの女が怖かっただけなんだ!」

隣り合わせの独房で、互いのせいにして命乞いをする彼らの醜悪さに、ランドルフは吐き気を覚えていた。

本来であれば領土争いに負けた王族は他国への亡命だけで済まされる。
だがそれもまっとうな王であればの話だ。

彼らの私利私欲による独裁的な行いは、今やアストラリスのものであるカラプタリア国民を苦しめ続けてきた。
それは追放などで済むほど軽いものではなかった。
だが表立って死罪にしてしまえば、王家を信じてきた者たちから反感を食う恐れがある。

彼らの処遇を持て余した陛下は、面倒だからとランドルフにその任を押し付けてきた。
さんざん我儘を言ったことに対する嫌がらせもあるだろう。

その判断を下すために今、ランドルフは牢獄塔の地下に来ていた。

「どうかご慈悲を……!」
「私は国民のために働いてきた! こんな扱いは不当だ!」

はらはらと涙を流し、憐れみを誘う作戦に変えたらしいナタリアと、開き直ったかのように語気を荒くする元国王に辟易する。
正直なところ、アシュリーにしてきたことを思えば今すぐにでも殺してやりたい。
だが地下牢に閉じ込められてもこうして反省の一つも見せない彼らを、あっさり殺してしまうことに疑問を感じてもいた。

「さて、どうしてくれようか……」
「閣下の手を汚すまでもありません」

ランドルフの葛藤を見抜いたように、ロランが薄く笑いながら言う。

「ひっ」

薄暗い通路の隅で、気配を殺し静かに控えていた彼に、今気づいた様子でナタリア達がびくりと身体を竦ませた。

「というか、私の楽しみを取らないでくださいよ」

そう言って牢に歩み寄り、品定めをするように元国王とナタリアをじっくり眺める。
うっとり恍惚の表情を浮かべる部下を見て、ランドルフは寒気を感じた。

脅しなんかではない。本心から言っている。

どうやら保身に必死な彼らを見て、スイッチが入ってしまったらしい。
ロランにただならぬものを感じたのはランドルフだけではなかったらしく、二人の虜囚が不安の色を濃くした。
その表情を見て少しだけ溜飲が下がる。

ロランの申し出は正直なところありがたかった。
ランドルフ自ら制裁を与えてやりたい気持ちはもちろんあるが、彼らの返り血を浴びた身体でアシュリーに触れたくはない。

それにこの世には適材適所というものがある。ロランならば、ランドルフよりもずっと上手く彼らを苦しめることができるはずだ。

「殺すなよ」

ランドルフの言葉に二人は希望を見い出したらしく、ホッとした顔になる。
彼らの言を信じて、ランドルフが慈悲を見せたとでも思ったのだろうか。

馬鹿な奴らだ。
ロランが本気になっている怖さも知らずに。

きっとすぐにでも「殺してくれ」と自ら頼むことになるだろう。そして死ねないことを恨むはずだ。

「長く楽しんでいいということですね?」
「まあ、そういうことだ」

ランドルフの意図を汲み取って、嬉々とした顔で問うロランに頷いてみせる。

少なくとも、アシュリーが苦しんできた年数分くらいは苦しんでもらいたい。

どうやら自分にも噂と違わぬ嗜虐的な一面があったらしい。

その発見に戸惑いはしたが、悪い気分ではなかった。
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