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25.豹変
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ミランダが来てから二週間が経った。
エドガーは相変わらず忙しいようで、顔を合わせるのは食事の時くらいになっていた。
書類仕事が溜まっているようで、自室にこもっている時間が長い。
「何か私に手伝えることはありませんか?」
「ああ、いいんだシェリル。むしろ今までが頑張らせ過ぎていたくらいだ」
エドガーはそう言って、今どんなことをしているのかすら教えてくれない。
もうでしゃばらないと決めたから強く聞くこともできず、引き下がるしかないのが情けなかった。
それとなくマイクに様子を聞いても、「なんか色々あるみたいですよ」と答えるだけでどんな様子かも分からない。
けれど眠る時間が遅いのは確からしく、どこか疲れた顔をしていた。
「寂しいですよねぇ」
ソファの隣に座ったミランダが呟きを漏らす。
まるで私の心中を言い当てられたようなドキリとした。
「お兄様ったらお仕事ばっかり。たまには私たちに構ってくださってもよろしいのに」
ねえ? と可愛らしく小首を傾げながら言われて、苦笑をこぼす。
「本当にそうね。少しでもお役に立てたらいいのだけど」
「昔からなんでも抱え込んでしまう人でしたから。ああなったらテコでも動きませんよ」
拗ねたように言って、私の肩に頭を乗せて凭れてくる。
スキンシップにもだいぶ慣れて、もう驚いて身を固くすることもない。
そういえば他の御令嬢方も手を繋いだり腕を組んだりしていたっけ。
思い出して自然と唇が緩む。
同じ年頃の女性との距離感をようやく掴めたような気がして、なんだか少し嬉しい。
もしかしたら初対面の時のアンバーも、こんな風に距離を縮めてくれようとしていたのかもしれない。
友人がいなかったばかりに失礼なことをしてしまった。
今更思い当たって申し訳ない気持ちになってくる。
「きっとよっぽどお仕事が楽しいのでしょう。私たちは私たちで楽しみましょうね」
にこにこと言うミランダが、テーブルの上の焼き菓子に手を伸ばす。
いつもならそこで一緒にお菓子を味わうのだけど、なんとなく食欲が湧かなかった。
「……大丈夫ですか? お元気がないようですけど」
その様子を見て、励ますようにミランダが私の手にそっと触れた。
「大丈夫よ」
気遣いに感謝しながら、微笑みを返す。
それから安心させるように焼き菓子を口に放り込み咀嚼する。
アンバーの焼いてくれたお菓子は、いつもより少し甘く作られていて、そこにも気遣いを感じて胸が温かくなった。
私は二人の存在のありがたさに心から感謝しながら、ゆっくりと紅茶のカップに口をつけた。
エドガーとの関係は家族以上の何かにはどうしたってなれないけれど、彼女たちとのこの関係を大切にしよう。
そう思った。
だというのに。
* * * * *
「どっ」
「ど?」
明かりを消した自室の中。
ベッドの上で思わず声を上げた私に、昼間と同じように可愛らしく小首を傾げたミランダが、可愛らしい声で同じ発音を繰り返す。
「どういうことなのかしら!?」
「どういうことって、夜這いですわシェリル様」
仰向けの私の上から覆いかぶさる格好のまま、ミランダは動じることなく言い切った。
いつの間に忍び込んだのだろう。
睡魔の誘惑に今まさに負けようとしていた私には気付くことができなかった。
「お寂しいのでしょう? 慰めて差し上げようと思って」
「けっ、結構です!」
青褪めながら言う。
全く経験のない私にも、さすがにミランダの言っていることがそういう意味合いのことだということは理解できた。
「あら、遠慮なさらないで? シェリル様って女性がお好きなのでしょう」
つう、と細い指先が私の頬をなぞる。
どこかあどけない雰囲気を残していた彼女が、窓から差し込む月明かりに照らされ妖艶に笑う。
下着同然の姿は女性の目から見ても煽情的で、後ろめたい気持ちになって思わず目を逸らしたくなる。
「実は私もそうなんです。だからきっと、とっても楽しい夜になりますよ」
妙に色気のある声で言って、その愛らしい唇が私の首筋に触れた。
ぞわりと肌が粟立って、身体が竦む。
こわい。
私よりも小柄で華奢な少女に乗っかられて、どかそうと思えば簡単なはずなのにどうしてかそうできなかった。
頭の中は盛大にパニックを起こしていて、この場をスマートに切り抜けることはできなさそうだった。
エドガーは相変わらず忙しいようで、顔を合わせるのは食事の時くらいになっていた。
書類仕事が溜まっているようで、自室にこもっている時間が長い。
「何か私に手伝えることはありませんか?」
「ああ、いいんだシェリル。むしろ今までが頑張らせ過ぎていたくらいだ」
エドガーはそう言って、今どんなことをしているのかすら教えてくれない。
もうでしゃばらないと決めたから強く聞くこともできず、引き下がるしかないのが情けなかった。
それとなくマイクに様子を聞いても、「なんか色々あるみたいですよ」と答えるだけでどんな様子かも分からない。
けれど眠る時間が遅いのは確からしく、どこか疲れた顔をしていた。
「寂しいですよねぇ」
ソファの隣に座ったミランダが呟きを漏らす。
まるで私の心中を言い当てられたようなドキリとした。
「お兄様ったらお仕事ばっかり。たまには私たちに構ってくださってもよろしいのに」
ねえ? と可愛らしく小首を傾げながら言われて、苦笑をこぼす。
「本当にそうね。少しでもお役に立てたらいいのだけど」
「昔からなんでも抱え込んでしまう人でしたから。ああなったらテコでも動きませんよ」
拗ねたように言って、私の肩に頭を乗せて凭れてくる。
スキンシップにもだいぶ慣れて、もう驚いて身を固くすることもない。
そういえば他の御令嬢方も手を繋いだり腕を組んだりしていたっけ。
思い出して自然と唇が緩む。
同じ年頃の女性との距離感をようやく掴めたような気がして、なんだか少し嬉しい。
もしかしたら初対面の時のアンバーも、こんな風に距離を縮めてくれようとしていたのかもしれない。
友人がいなかったばかりに失礼なことをしてしまった。
今更思い当たって申し訳ない気持ちになってくる。
「きっとよっぽどお仕事が楽しいのでしょう。私たちは私たちで楽しみましょうね」
にこにこと言うミランダが、テーブルの上の焼き菓子に手を伸ばす。
いつもならそこで一緒にお菓子を味わうのだけど、なんとなく食欲が湧かなかった。
「……大丈夫ですか? お元気がないようですけど」
その様子を見て、励ますようにミランダが私の手にそっと触れた。
「大丈夫よ」
気遣いに感謝しながら、微笑みを返す。
それから安心させるように焼き菓子を口に放り込み咀嚼する。
アンバーの焼いてくれたお菓子は、いつもより少し甘く作られていて、そこにも気遣いを感じて胸が温かくなった。
私は二人の存在のありがたさに心から感謝しながら、ゆっくりと紅茶のカップに口をつけた。
エドガーとの関係は家族以上の何かにはどうしたってなれないけれど、彼女たちとのこの関係を大切にしよう。
そう思った。
だというのに。
* * * * *
「どっ」
「ど?」
明かりを消した自室の中。
ベッドの上で思わず声を上げた私に、昼間と同じように可愛らしく小首を傾げたミランダが、可愛らしい声で同じ発音を繰り返す。
「どういうことなのかしら!?」
「どういうことって、夜這いですわシェリル様」
仰向けの私の上から覆いかぶさる格好のまま、ミランダは動じることなく言い切った。
いつの間に忍び込んだのだろう。
睡魔の誘惑に今まさに負けようとしていた私には気付くことができなかった。
「お寂しいのでしょう? 慰めて差し上げようと思って」
「けっ、結構です!」
青褪めながら言う。
全く経験のない私にも、さすがにミランダの言っていることがそういう意味合いのことだということは理解できた。
「あら、遠慮なさらないで? シェリル様って女性がお好きなのでしょう」
つう、と細い指先が私の頬をなぞる。
どこかあどけない雰囲気を残していた彼女が、窓から差し込む月明かりに照らされ妖艶に笑う。
下着同然の姿は女性の目から見ても煽情的で、後ろめたい気持ちになって思わず目を逸らしたくなる。
「実は私もそうなんです。だからきっと、とっても楽しい夜になりますよ」
妙に色気のある声で言って、その愛らしい唇が私の首筋に触れた。
ぞわりと肌が粟立って、身体が竦む。
こわい。
私よりも小柄で華奢な少女に乗っかられて、どかそうと思えば簡単なはずなのにどうしてかそうできなかった。
頭の中は盛大にパニックを起こしていて、この場をスマートに切り抜けることはできなさそうだった。
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