【完結】メンヘラ製造機の侯爵令息様は、愛のない結婚を望んでいる

当麻リコ

文字の大きさ
26 / 35

25.豹変

しおりを挟む
ミランダが来てから二週間が経った。

エドガーは相変わらず忙しいようで、顔を合わせるのは食事の時くらいになっていた。
書類仕事が溜まっているようで、自室にこもっている時間が長い。

「何か私に手伝えることはありませんか?」
「ああ、いいんだシェリル。むしろ今までが頑張らせ過ぎていたくらいだ」

エドガーはそう言って、今どんなことをしているのかすら教えてくれない。
もうでしゃばらないと決めたから強く聞くこともできず、引き下がるしかないのが情けなかった。

それとなくマイクに様子を聞いても、「なんか色々あるみたいですよ」と答えるだけでどんな様子かも分からない。
けれど眠る時間が遅いのは確からしく、どこか疲れた顔をしていた。


「寂しいですよねぇ」

ソファの隣に座ったミランダが呟きを漏らす。
まるで私の心中を言い当てられたようなドキリとした。

「お兄様ったらお仕事ばっかり。たまには私たちに構ってくださってもよろしいのに」

ねえ? と可愛らしく小首を傾げながら言われて、苦笑をこぼす。

「本当にそうね。少しでもお役に立てたらいいのだけど」
「昔からなんでも抱え込んでしまう人でしたから。ああなったらテコでも動きませんよ」

拗ねたように言って、私の肩に頭を乗せて凭れてくる。
スキンシップにもだいぶ慣れて、もう驚いて身を固くすることもない。

そういえば他の御令嬢方も手を繋いだり腕を組んだりしていたっけ。

思い出して自然と唇が緩む。

同じ年頃の女性との距離感をようやく掴めたような気がして、なんだか少し嬉しい。

もしかしたら初対面の時のアンバーも、こんな風に距離を縮めてくれようとしていたのかもしれない。
友人がいなかったばかりに失礼なことをしてしまった。
今更思い当たって申し訳ない気持ちになってくる。

「きっとよっぽどお仕事が楽しいのでしょう。私たちは私たちで楽しみましょうね」

にこにこと言うミランダが、テーブルの上の焼き菓子に手を伸ばす。
いつもならそこで一緒にお菓子を味わうのだけど、なんとなく食欲が湧かなかった。

「……大丈夫ですか? お元気がないようですけど」

その様子を見て、励ますようにミランダが私の手にそっと触れた。

「大丈夫よ」

気遣いに感謝しながら、微笑みを返す。
それから安心させるように焼き菓子を口に放り込み咀嚼する。

アンバーの焼いてくれたお菓子は、いつもより少し甘く作られていて、そこにも気遣いを感じて胸が温かくなった。

私は二人の存在のありがたさに心から感謝しながら、ゆっくりと紅茶のカップに口をつけた。

エドガーとの関係は家族以上の何かにはどうしたってなれないけれど、彼女たちとのこの関係を大切にしよう。
そう思った。


だというのに。


* * * * *


「どっ」
「ど?」

明かりを消した自室の中。

ベッドの上で思わず声を上げた私に、昼間と同じように可愛らしく小首を傾げたミランダが、可愛らしい声で同じ発音を繰り返す。

「どういうことなのかしら!?」
「どういうことって、夜這いですわシェリル様」

仰向けの私の上から覆いかぶさる格好のまま、ミランダは動じることなく言い切った。

いつの間に忍び込んだのだろう。
睡魔の誘惑に今まさに負けようとしていた私には気付くことができなかった。

「お寂しいのでしょう? 慰めて差し上げようと思って」
「けっ、結構です!」

青褪めながら言う。

全く経験のない私にも、さすがにミランダの言っていることがそういう意味合いのことだということは理解できた。

「あら、遠慮なさらないで? シェリル様って女性がお好きなのでしょう」

つう、と細い指先が私の頬をなぞる。
どこかあどけない雰囲気を残していた彼女が、窓から差し込む月明かりに照らされ妖艶に笑う。

下着同然の姿は女性の目から見ても煽情的で、後ろめたい気持ちになって思わず目を逸らしたくなる。

「実は私もそうなんです。だからきっと、とっても楽しい夜になりますよ」

妙に色気のある声で言って、その愛らしい唇が私の首筋に触れた。

ぞわりと肌が粟立って、身体が竦む。

こわい。

私よりも小柄で華奢な少女に乗っかられて、どかそうと思えば簡単なはずなのにどうしてかそうできなかった。

頭の中は盛大にパニックを起こしていて、この場をスマートに切り抜けることはできなさそうだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』

ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、 王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。 しかし彼女に返ってきたのは、 「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。 感情論と神託に振り回され、 これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。 けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。 「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」 冷静に、淡々と、 彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、 やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。 感情で選んだ王太子は静かに失墜し、 理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。 これは、 怒鳴らない、晒さない、断罪しない。 それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。 婚約破棄の先に待っていたのは、 恋愛の勝利ではなく、 「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。 ――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

【完結】ヒーローとヒロインの為に殺される脇役令嬢ですが、その運命変えさせて頂きます!

Rohdea
恋愛
──“私”がいなくなれば、あなたには幸せが待っている……でも、このまま大人しく殺されるのはごめんです!! 男爵令嬢のソフィアは、ある日、この世界がかつての自分が愛読していた小説の世界である事を思い出した。 そんな今の自分はなんと物語の序盤で殺されてしまう脇役令嬢! そして、そんな自分の“死”が物語の主人公であるヒーローとヒロインを結び付けるきっかけとなるらしい。 どうして私が見ず知らずのヒーローとヒロインの為に殺されなくてはならないの? ヒーローとヒロインには悪いけど……この運命、変えさせて頂きます! しかし、物語通りに話が進もうとしていて困ったソフィアは、 物語のヒーローにあるお願いをする為に会いにいく事にしたけれど…… 2022.4.7 予定より長くなったので短編から長編に変更しました!(スミマセン) 《追記》たくさんの感想コメントありがとうございます! とても嬉しくて、全部楽しく笑いながら読んでいます。 ですが、実は今週は仕事がとても忙しくて(休みが……)その為、現在全く返信が出来ず……本当にすみません。 よければ、もう少しこのフニフニ話にお付き合い下さい。

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

処理中です...