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10.子供はお眠の時間です
しおりを挟む「……なんのためにこんなところまで連れてきたのです」
ストレートに疑問をぶつけてみる。
とりあえずレイプ目的ではなさそうだというのはもうわかった。
ならば余計に分からない。無知なお嬢様をからかうためだけに連れてきたとでも言うのか。
「明日説明する。今日はもう遅い。寝な」
嫌味のない声と笑みで言って、ポンと頭に手を置かれる。
どこか子供扱いを受けているようでムッとする。
それが伝わったのだろう、男が吐息だけで笑った。
「あ、そうそう」
「ちょっ、なに、」
思い出したように言って、男の腕が私の身体を抱き込んだ。
「あッ!」
右手が私の太腿を這って、ぞくりと肌が粟立った。
いきなりなんなの、やっぱりそういうつもりだったの、と混乱して硬直する私をよそに、その手がゴソゴソと太腿を探って、すぐに身体ごと離れた。
その手にある物に気付いて目を瞠る。
「ああっ!」
「これは物騒だから没収な」
ニカッと豪快な笑みを見せて、レッグホルスターのナイフを手の平でくるりと回して見せた。
ドレスを脱いだ時点で丸見えだっただろうソレの存在に、今更思い至ってがくりと力が抜ける。
冷静なつもりでいても、実のところ相当にテンパっていたらしい。
唯一の武器を、隠すどころか忘れているなんて。
「かっ、返して! ……くださいっ」
「やなこった」
精一杯下手に出てみたが返答は素気無く、ナイフはあっさり懐にしまわれた。
あれがなくては逃げ出すチャンスなんてもういくらも作れない。
なけなしの可能性でも、ゼロよりマシだったものが本当にゼロになってしまうのだ。
「おとなしくしてりゃ悪いようにはしねぇ」
「完全に悪者のセリフじゃない!」
「ふはっ、それもそうだ」
何を言っても返してくれるつもりはないらしい。
思わず唇を噛んで睨みつけると、男はニマッと笑って、懐から奪ったナイフとは別の何かを取り出した。
「かわりにこれやるからいい子にしてな」
手の平に落とされたものは、棒付きの砂糖菓子だった。
「こっの……!」
今度こそ完全に子供扱いされているのだと解って、思わずお菓子ごとこぶしを握り締めた。
「そんじゃまた明日な」
ひらひらと手を振って、私が何か言い返す前にさっさと部屋を出ていく。
どこか飄々とした背中を憤然と見送って、無駄に力んだ身体から力を抜いて肩を落とす。
握りしめた安っぽい砂糖菓子を、ポイッとベッドに放り、そのまま倒れこむように崩れ落ちた。
埃とカビの匂いがひどかったが、気にしている余裕はなかった。
ノロノロと背中に手をやって、コルセットの紐を解く。
ホッと呼吸が楽になって、もぞもぞと下着姿のまま薄っぺらい毛布に潜りこむ。
身体を休めると、パーティ会場からずっと張りつめていた精神が、少しずつ緩んでいった。
あの男は本当になんなのだろう。
海賊であるらしいということ以外何もわからない。
マイペースで強引で、犯罪者だというのに後ろ暗いとこを感じさせない。どこかカラッとした性質の男。
ここの船員達もそうだ。
誘拐事件なんて私にとっては一大事だというのに、日常のほんの一幕みたいな反応をしただけだった。
また明日、とあの男は言った。
明日私は一体どうなるんだろう。
何をされるんだろう。
動きの鈍り始めた頭でなんとか考える。
目を閉じると、急激に眠気が襲ってきた。
どうなるにしても、疲れすぎているせいか、何故かもうあまり悪い想像は浮かんでこなかった。
けれど明日からは、本当は悲惨な日々が待っているのかもしれない。
それでも今は、ただ深く眠りたかった。
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