【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

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12.いざ出陣

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船内を少年の先導で歩き、食堂へと案内される。

「オレ、アランっていいます。一番年下だからすげーこき使われてんだ」

アランは私に気を遣っているのか、ただ単にお喋りなのか、絶えず何か話をしている。
その言葉は中途半端に丁寧で、普段から敬語を使い慣れていないのがすぐにわかった。

「あの、普通に喋ってくれていいんだけど」

対する私は前世の庶民人格にズルズルと引き摺られて、あっという間にお嬢言葉が抜けつつある。
服も庶民仕様になったことだし、宮廷内どころか国内ですらない場所で畏まった態度を取られると、なんだかむず痒い。

「でもお頭から、偉いとこのお嬢様だから失礼な口きくと踏まれるぞって」
「なっ、ふ、踏むわけないでしょう!」

あいつ、なんてことを……!
私だけでなく部下であるアランまで巻き込んでおちょくるなんて。
絶対性格悪いわあいつ。

「……踏まないの?」
「踏まないってば」

上目遣いに問われて力強く肯定する。あいつは踏みつけてやりたいが。

「そっか! じゃあ普通に話す!」

喋りにくくって! とアランが表情を崩す。
本当に、海賊船に乗ってさえいなければただの爽やか美少年だ。

「オレ、昨日お嬢さんが来たとき船の中にいたからさ。後から聞かされてびっくりしちゃった」
「……なんて聞いたの?」
「すっげー美人が船に来たって。実際会ったら本当に綺麗だったから驚いた! しかもなんかいい人だし」

にこーっと全開の笑顔をこちらに向ける。
屈託のない、本当にただ嬉しいだけの裏のない笑顔だった。
いささか大袈裟な誉め言葉ではあるが、昨夜あの男に散々馬鹿にされたばかりだったので、ありがたく受け取ることにする。

「あなた、私の扱いについて何か聞いていない?」
「何かって?」

少年がきょとんとした顔をする。
どうやら何も知らないらしい。

年齢的に私より下だ。きっとこの船で一番若い。ということは下っ端中の下っ端ということか。
食堂までの案内を押し付けられているあたり、雑用ばかりやらされているのだろう。

もはや開き直りの境地でグッと顔を上げる。

女は度胸だ。

覚悟を決めて、食堂の扉を開けたアランの後ろの続いた。


食堂に入ると、とたんに歓声が上がって面食らう。
だけどどうやら嫌な種類のものではない。
内容をよく聞けば、冷やかしたり煽ったりするのではなく、べっぴんだの気品があるだの、私を過剰に褒めるようなものばかりだ。

前世の父の会社の同僚たちが、家に遊びに来た時のことを思い出す。
なんとなく、船員たちに似通った雰囲気を感じた。
つまり、気のいいおっさん達、みたいな。

明るい食堂の中で見ると、昨夜甲板の上で感じた物々しさは払拭されてしまった。
総勢二十人ほどの男連中は、皆一様に明るい表情だ。日に焼けた精悍な顔つきをしているが、下卑たところのない気風の良さを感じさせた。
肩透かしを食らって、ぽかんとしてしまう。

アランに手を引かれて、狭い通路を進んで上座に近い席に座らされる。
正面には私を攫った男が座っていて、私を見るなり「船酔いは収まったか」なんてごく普通のことを聞いてくる。

好奇の目に晒されてはいるが、品定めをするような視線ではない。
戸惑いながら身を小さくして黙っていると、目の前に食事が運ばれてきた。

「食いな」

どうしていいのか分からず固まっていると、短く促されておずおずとフォークを掴んだ。
作りたてなのか、目の前の料理からは湯気が上がっている。
パンと芋と豆のスープ。肉が少し。あとはなんだかわからない魚の焼いたやつ。
王宮で出された食事とは、比べるまでもない粗末なものだ。

「こんなメシ、お嬢さまが食えるのかよ」
「食いもんて認識するかすら危ういだろ」
「残飯持ってくんなとか切れられたらどうする」

心配半分、茶化し半分といったざわめきが周囲から聞こえる。
椅子から転げ落ちそうなほど身を乗り出して、私の様子を観察する目はどこか心配そうだ。

「いいからさっさと食え!」
「へぇい」

船長が威嚇するように周囲に吼えて、船員たちの食事が始まる。

どうやら私が席に着くのを待ってくれていたらしい。

「お前も食え」
「……いただきます」

急かされて、フォークでふかした芋を割る。
割ろうとした。
割れなかった。
柔らかそうなのは見た目だけで、中まで火が通っていないのだ。
仕方なくフォークを突き刺して、行儀は悪いがそのまま噛り付く。
飾り気のない塩味に、シャリっとした食感。
なんとも言えなくて咀嚼を止める。
視線を感じてちらりと船長を見ると、妙に真面目腐った顔をして私のコメントを待っているようだった。

それをあえて無視して、今度はスープに手を付ける。
塩味だった。
ただの塩味。
びっくりするくらい塩味。
それだけ。

パンに手を伸ばす。
カチカチで、ちぎれも噛み切れもしない。

謎の肉にはフォークが刺さらなかった。

魚は一見まともに見えたが、嫌な予感がして裏返してみると真っ黒焦げで、それなのに中は生というギャグみたいな出来栄えだった。

それでも出された以上はとなんとか食事を進めるがどれも大味で、お世辞にも美味いとは言えず顔をしかめっぱなしだ。

けれどなんだか懐かしい。
目に涙が浮かぶ。
思い出すのは、前世での父との二人暮らしの記憶だ。

前世では中学生の時に母が死に、父子家庭になった。
父は働きながら家事を頑張ったが、得手不得手ある。仕事はそれなりに出来たが、家事全般は全く向いていなかったらしい。急に男手一つで娘を育てなければならなくなったプレッシャーで、疲れているせいもあっただろう。

洗濯物はしわくちゃだったし、料理はまさにこんな感じだった。
焼いただけ茹でただけ。味付けは塩胡椒のみ。それさえも濃すぎたり薄すぎたり。
私が家事全般を進んで担当するようになるまで、時間はかからなかった。

再び視線を感じて顔を上げると、船長がじっとこちらを見ていた。

「……なんですか」

少し気恥ずかしくて、ズ、と鼻をすすって、泣きそうなのを誤魔化すように睨みつけると、船長が「別に」とつまらなそうに答えて自分の食事に戻った。
高級料理との違いに涙する高慢なお嬢様に見えて、機嫌を損ねさせてしまっただろうか。

また視線を感じて顔を上げると、再び目が合った。
今度こそ何か言われるのかと身構えるが、結局は何も言われずに逸らされた。
なんだか良くわからないが、どこか労りを感じる表情に見えた。
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