【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

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15.業務内容は調理です

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よく考えてみればこれはラッキーなことなのではないか。

食堂に向かう道すがら考える。

家を失い婚約者を失い親友を失い。
人権まで失うかと思っていた誘拐事件で、まさかの職を得てしまった。
それによく考えてみれば、どさくさに紛れて国外脱出まで達成してしまっている。
お給金や休日などの待遇面での不安はあるが、職歴なし保証人なしの自分に、他の職がすぐに見つかるとも思えない。
それにそうだ、住むところも保証されている。船の中の狭い一室ではあるが。

うん。これはお得な案件だ。
こう考えよう。海賊船に就職したのだと。つまりウィルという男は上司であり社長なのだ。
ならば多少の理不尽も耐えうることが出来る。

思い返してみれば学生時代は飲食店でアルバイトをしていたこともあるし、船員達への対応もお客様に対するものと思えばなんの苦もない。

すっかりやる気になって食堂の扉を開けると、アランが片づけをしている最中だった。

「あ! レーナ! 聞いた? 一緒に食事当番だって」

こちらに気付いてパッと表情を明るくしたアランに、嬉しそうに言われて自然と笑顔になる。
なんだか懐いてくれたようで面映ゆかった。

「うん、よろしくね。頑張って美味しいごはん作ろうね」
「できるかな? オレいっつも掃除とか片付け担当だからわかんないんだ」

困ったように言うアランだが、喋りながらも手元はテキパキ動いていて手際もいい。
今は料理のいろはを知らなくても、教えればすぐにでも覚えてくれそうな頼もしさがあった。

私も片づけを手伝いながら、食堂のつくりや物の場所を把握していく。
今日は助手をしてくれるようだが、アランにも別の仕事があるだろうし、そのうち一人でやらなくてはいけなくなるはずだ。
出来る限り早く、どこに何がしまってあるか覚えておかねばならないだろう。

あらかた綺麗にしてから、アランに連れられ厨房へと入る。
全体的にきちんと磨かれてはいたが、調理器具は最低限しかそろっていないようだ。

「ごめんなさい、正直男所帯だからもっと汚れてるのかと思ったわ」
「他の海賊船はどうかわからないけど、うちは掃除に厳しいんだ」
「船長さんの方針で?」
「そ。手を抜くと船首に足から吊るされる」
「あはは、そんなこと言うの? ひどい人ね」
「ううん、冗談じゃなくて本当に。エミリオなんてもう三回は吊るされてるよ」

脅し文句と思って笑うと、アランが真剣な顔で首を振った。
本気で吊るされるとは驚きだ。でもあの男ならやりそうだとも思ってしまう。豪胆で快活で裏がないように見えるが、どこか底知れない凄みがある。

それにしてもエミリオというのが誰かはまだ分からないが、二回吊るされたあたりで懲りなかったのだろうかと少し呆れてしまう。

「エミリオさん? て人はよくサボったりしているの?」
「うん。サボるのが上手いんだ。100回に1回くらいしかお頭に見つからない」
「つまり少なくとも300回はサボってるのね……」

調理準備をしながら話を続ける。
アランは何を聞いても楽しそうにしてくれるから、私も話すのが楽しくなってくる。
他の人の話も色々と聞かせてくれる。知らない人の話なのに、アランが嬉しそうに話すので大好きなのがよく伝わってくる。きっと良い人たちなんだろうなと、容易に想像できた。

続き部屋になっている食材倉庫と厨房を何往復かして材料をそろえ、本格的に調理に取り掛かる。
気合を入れて髪を一つにまとめようと、手で束ねた瞬間、厨房のドアが開いた。

「テオ! どうしたの?」

アランが入ってきた人物に声をかける。
テオと呼ばれた男は、穏やかな笑みを浮かべて「やあ」と右手を上げた。

「皮剥きとか必要なら手を貸すよ」
「手伝ってくれるの? やった!」
「うん。二十人分いきなりやれって言われても大変だろう?」
「助かりますけど……いいんですか?」

サボると吊るされるのではないか。心配になって問うと、テオはきょとんとして、アランが小さく笑った。

「エミリオが吊るされた話をしたんだ」
「……ああ。あいつも懲りないよな。けど大丈夫、これ船長命令だから」
「そうなんですか。じゃあお願いしてもいいですか?」

ホッとして髪を束ねていた手を下ろす。
ぺこりと頭を下げた後で、「レーナです」と右手を差し出す。

「テオドールだ。よろしくね」

軽く握手をして笑みを交わし合う。
柔和な笑顔だ。この人もやはり海賊らしくない。

「髪、やってあげようか」
「え?」
「まとめるんだろう? やってあげるよ」
「え、でも」
「テオは器用なんだ。アルもたまに髪やってもらってるよ」
「ほらそこ座って。すぐだから」

戸惑っているうちに肩を押されて椅子に座らされる。
現世では髪は全部侍女のマリーがやってくれたし、前世ではいつも短くしていたから、自分ではひとつにまとめるくらいしか出来ない。ありがたくはあるが、任せてしまって大丈夫だろうか。
自身も短髪であるテオが、いくら器用だからと言って女性の髪を結えるとも思えなかった。
本当に大丈夫なのか、助けを求めるような目でアランを見てもニコニコ笑うばかりだ。

「うわ、すごい綺麗な髪だね。アルフレッドとは大違い」
「アルは髪伸ばしてるくせに無頓着だよね。せっかく綺麗な金髪なのにもったいない」
「陸に上がれば女の目を気にしてマシになるけどね」
「レーナがいるから身綺麗になるかな?」
「なるに1万」
「えーオレも!」

アランとテオが笑いながら話している間に、どんどん髪が編まれていく。迷いなく動く手の動きは的確に髪の毛を掬い上げ、あっという間に編み込みが完成してしまった。

「はい、できたよ」
「うわぁ、レーナそういうのも似合うね!」

ポンと背中を叩かれて、頭に手をやる。
きっちり編み込まれた髪は、簡単に崩れそうにはない。背中の中頃まである髪は、綺麗な三つ編みになって揺れていた。

「すごい……! 本当に上手なんですね!」
「ね!? テオはすごいんだ!」

素直に感心してみせると、何故かアランが誇らしげに返事をして思わず笑う。
テオは「お気に召したようで良かった」と言った後で「あ」と声を上げた。

「まずい、さわっちゃダメなんだっけ。殺されるかな」

焦るというより「しまったなー」という軽い口調で頬を掻く。
そのマイペースさに、どこか和むものを感じて、人間的な好ましさを覚えた。

私、この人好きだなぁ。

ほっこりしながら「じゃあこうしましょう」と提案してみる。

「これは私たち3人の秘密ということで。口外無用です」

人差し指を口許に当てて、神妙な顔で言う。
アランは目をぱちくりと瞬いたあとで、テオと顔を見合わせにやりと笑い合った。

「了解。内緒にします」

そう言って私を真似て、二人も人差し指を口許に立てた。
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