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17.うれしはずかし
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船長の号令とともに食事が始まる。
船員たちはものすごい勢いで料理を平らげ、口々に私を称えては自らおかわりをよそいに行った。
テオの言う通り、多めに作っておいて正解だったようだ。
さすが乗組員、みんなのことを分かっている。
感謝の意を伝えようとテオを探すと、ちょうどテオもこちらを見ていたようで目が合った。
お互い無言で頷き合って、アイコンタクトのようなものを交わす。
次いで隣のアランに目を向けると、私の言いたいことを察知したのか「やったね」と小さく言ってガッツポーズを作った。その動作がかわいらしく、真似てガッツポーズを作って笑い合う。
大量に用意された料理はあっという間になくなり、空になった鍋を名残惜しそうに覗き込む船員もいる。中にはむせび泣いている人までいて驚いた。
この船の乗員は、感情表現が豊かすぎるようだ。
私も食べ終えて一息つくと、目の前にぬっと大きな手が現れた。
何事かと視線を上げると、真剣な顔をした船長が手を差し出していた。
「握手」
「は?」
「いいから握手」
「ええ……」
戸惑いながらそっと手を出すと、すかさず強く握られ無言でブンブンと上下に振られる。
騒がしかった船員たちがそれに気付くと、我も我もと私たちを取り囲み、お礼の言葉と共に拝まれた。
どうやら今まで相当に食事事情がひどかったらしい。
あまりの持ち上げられっぷりに、思わず苦笑してしまう。
「晩飯も頼む」
「はい、もちろん」
「ありがとう。本当にありがとう」
「この船に来てくれてありがとう」
「美味しい食事をありがとう」
あちこちから何度も礼を言われ、そんな大袈裟なと思いつつも頬が熱くなる。
だって、こんなにも手放しで褒められ礼を言われたのなんて、今回の人生では初めてだ。
いつも何をしても嫌な顔をされ、褒めるどころか貶されるばかりだった。
良かれと思ってしたことが周囲の顰蹙を買い、疎まれ、愛されない人生だったのだ。
「あの、こちらこそその、……ありがとうございます」
精一杯の笑みで礼を言う。
本心からの言葉だった。
ありがたいのは私の方だ。この人たちは、認められる喜びを思い出させてくれた。
それはとても幸福なことだった。
照れくささに思わずはにかむと、船員たちがざわついた。逆にお礼を言ったことがおかしかったのかもしれない。
船長が握手をしていた手を離し、無言で私の頭に置いた。
「うわ、ちょ、なんですかっ」
そのまま頭やら頬やらを無遠慮に撫でられる。逃げるように身を捩っても、しつこく手が追ってきた。
「……もう、なんなんですかほんと……」
逃げられないと悟り、面倒になって大人しくされるがままにする。
撫でる手はまだ止まらなかった。
せっかくテオに整えてもらった髪が乱れるが、諦めるしかない。
「船長ずりー」
「でもちょっと気持ちわかる」
「な」
「俺も撫で回してぇわ」
「実家の犬が褒められた時の顔してた」
ぼそぼそ聞こえる声に肩が落ちる。
やはり私は珍獣かゆるキャラポジションにいるようだ。
船長は一通り私を撫で終えると、ようやく満足したように手を離した。
それからちょいちょいと申し訳程度に髪の毛を整えてくれる。
「なんだったんですか一体……」
「いや褒めたんだろうが」
「言葉だけで十分です」
自分でも髪を整えながら言うと、船長は「それもそうか」と笑った。
「良く出来ました」
子供にするみたいに誉め言葉を口にして、最後にもう一度頬を撫でる。
微笑む顔が、あまりにも優しくてまた頬が熱くなった。
船員たちはものすごい勢いで料理を平らげ、口々に私を称えては自らおかわりをよそいに行った。
テオの言う通り、多めに作っておいて正解だったようだ。
さすが乗組員、みんなのことを分かっている。
感謝の意を伝えようとテオを探すと、ちょうどテオもこちらを見ていたようで目が合った。
お互い無言で頷き合って、アイコンタクトのようなものを交わす。
次いで隣のアランに目を向けると、私の言いたいことを察知したのか「やったね」と小さく言ってガッツポーズを作った。その動作がかわいらしく、真似てガッツポーズを作って笑い合う。
大量に用意された料理はあっという間になくなり、空になった鍋を名残惜しそうに覗き込む船員もいる。中にはむせび泣いている人までいて驚いた。
この船の乗員は、感情表現が豊かすぎるようだ。
私も食べ終えて一息つくと、目の前にぬっと大きな手が現れた。
何事かと視線を上げると、真剣な顔をした船長が手を差し出していた。
「握手」
「は?」
「いいから握手」
「ええ……」
戸惑いながらそっと手を出すと、すかさず強く握られ無言でブンブンと上下に振られる。
騒がしかった船員たちがそれに気付くと、我も我もと私たちを取り囲み、お礼の言葉と共に拝まれた。
どうやら今まで相当に食事事情がひどかったらしい。
あまりの持ち上げられっぷりに、思わず苦笑してしまう。
「晩飯も頼む」
「はい、もちろん」
「ありがとう。本当にありがとう」
「この船に来てくれてありがとう」
「美味しい食事をありがとう」
あちこちから何度も礼を言われ、そんな大袈裟なと思いつつも頬が熱くなる。
だって、こんなにも手放しで褒められ礼を言われたのなんて、今回の人生では初めてだ。
いつも何をしても嫌な顔をされ、褒めるどころか貶されるばかりだった。
良かれと思ってしたことが周囲の顰蹙を買い、疎まれ、愛されない人生だったのだ。
「あの、こちらこそその、……ありがとうございます」
精一杯の笑みで礼を言う。
本心からの言葉だった。
ありがたいのは私の方だ。この人たちは、認められる喜びを思い出させてくれた。
それはとても幸福なことだった。
照れくささに思わずはにかむと、船員たちがざわついた。逆にお礼を言ったことがおかしかったのかもしれない。
船長が握手をしていた手を離し、無言で私の頭に置いた。
「うわ、ちょ、なんですかっ」
そのまま頭やら頬やらを無遠慮に撫でられる。逃げるように身を捩っても、しつこく手が追ってきた。
「……もう、なんなんですかほんと……」
逃げられないと悟り、面倒になって大人しくされるがままにする。
撫でる手はまだ止まらなかった。
せっかくテオに整えてもらった髪が乱れるが、諦めるしかない。
「船長ずりー」
「でもちょっと気持ちわかる」
「な」
「俺も撫で回してぇわ」
「実家の犬が褒められた時の顔してた」
ぼそぼそ聞こえる声に肩が落ちる。
やはり私は珍獣かゆるキャラポジションにいるようだ。
船長は一通り私を撫で終えると、ようやく満足したように手を離した。
それからちょいちょいと申し訳程度に髪の毛を整えてくれる。
「なんだったんですか一体……」
「いや褒めたんだろうが」
「言葉だけで十分です」
自分でも髪を整えながら言うと、船長は「それもそうか」と笑った。
「良く出来ました」
子供にするみたいに誉め言葉を口にして、最後にもう一度頬を撫でる。
微笑む顔が、あまりにも優しくてまた頬が熱くなった。
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