【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

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65.ウィルという男

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ウィルの部屋の前で深呼吸をする。
しっかり気配と足音を消してきたから、驚くことだろう。
いたずら心を胸に、勢いよくドアを開ける。

「きゃっ」

驚いたのは私の方だった。慌ててドアを閉める。
だって目の前に上半身裸のウィルがいたのだ。
どうやら着替え中だったらしい。

だが次の瞬間気付いた。

もったいなくね?

そう思い直して再度ドア開ける。

「おい」

目が合うとウィルは呆れたように笑った。

「いやせっかくの機会なんでじっくり堪能させていただこうかと」
「すけべ」

言って乙女のように胸元を隠すウィルに笑う。

「また惚れなおしちまったか?」
「毎日惚れ続けてるので今更だわ」

好きアピールにすっかり慣れられて、今やただの軽口扱いしかされていない。
好きって言われると好きになっちゃうという情報は残念ながらデマのようだ。

笑いながら着替えを続けようと、胸元から手を外したその下に、タトゥーがあることに気付いた。

そんなところにタトゥーがあったのか。
もう半年以上も一緒にいるが、初めて知る事実だ。

錨のマークなのは海の男だからか、とスルーしそうになるが、どこかで見覚えがある気がして視線を止める。

それに気付いたのか、ウィルが私の視線を追って自分のタトゥーに目を向けた。

「ああ」

言って何気ない仕草で左胸のタトゥーを撫でる。

それが意味するものに気付いて顔が強張った。

「これが何か知ってるのか」

私の表情の変化に気付いたらしいウィルが、僅かに歪んだ顔で笑う。

そう、左胸に錨。

――それは確か海軍入隊時の儀礼のひとつだ。

たしか、海軍学校を卒業して正式に従軍するときに彫られるもののはずだ。
一度見せてもらったことがある。
それは確かにウィルの胸にあるのと同じデザインのタトゥーだった。

その錨のマークの中央に、引き攣れたような傷跡があって、絵の一部が消えているが確かにあれは海軍の印だ。

「海軍、の、人なの」
「そういう過去もあったかな」

曖昧に笑って服を着る。
どこかよそよそしい声だった。

「その傷跡は海軍に居たころのもの?」
「いや」

確かめるように服の上からタトゥーのあったあたりをなでる。

「自分で焼いた」

皮肉げに笑う。
あっさり吐かれたセリフは、けれど簡単に看過出来るものではなかった。

「自分で……」

誰にともなく呟いて、少し考える。

あの傷があった場所。
消えた絵の一部。

あそこにはそう、確か【正義】を意味する言葉が彫られるはずではなかったか。

それを自分で焼いたことに、どういう意味があるのか。

「海軍だったのに、どうして海賊になんかなったの?」

単純な疑問だ。深い意味はなかった。

海賊は海軍の敵。
それは子供でも知っていることだ。
なのにどうして。

けれどウィルの空気がビリッと殺気立った。
思わず身を竦めてしまうほどに。

「海賊なんか、ね」

吐き捨てるように言う。
怖い顔をしていた。
初めて目にする雰囲気に、わずかにたじろぐ。

どうやら私は地雷を踏んでしまったらしい。

「さぁな。もともとの気性に合ってたんだろ。海軍なんかよりな」

貶すように言って舌打ちをする。

「ご……ごめん……」
「別に謝るこたねぇよ」

ウィルは笑ってくれたが、荒れた気配はそのままだ。

そうして数か月前のことを思い出す。

いや、忘れたことなんてなかった。
海軍からの執拗で容赦のない攻撃。
あれは彼が海軍の兵士だったことに関係があるのだろうか。
おそらくそうだ。
どんな因縁があるのか知りたい。けれど果たして聞いたところで答えてくれるものか。
いや、きっと無理だ。
だって私を見るその顔。
笑みが張り付いているが、どこか能面みたいだ。

これ以上は口に出すことさえ許されないような空気がそこにあった。
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