【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

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82.テオは優しくて少しこわい

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「テオは美容師さんじゃなかったのね」

ベッドごと移動して、病室内の洗面台でテオに髪を洗ってもらいながら尋ねる。

私の生存確認が済んだ後、疲労がピークだったので一度寝させてもらうことにした。
夕方に目が覚めるとテオ以外は出払っていて、夕食を食べに言ったのだと教えてくれた。
船員たちが交代で私についていてくれるらしい。

寝ている間に看護師さんが身体を拭いていってくれたらしくスッキリしていたが、頭はベタベタしたままだった。
それでテオに洗髪をお願いしたのだ。

「実家が床屋だったんだ。手伝ってるうちに覚えた」
「それだけでこんなに上手になる? すっかり勘違いしていたわ」

指先の動きは繊細で、頭皮にたまった一週間分の汚れを丁寧に洗い落としてくれている。
その気持ち良さに、また眠ってしまいそうだった。

「海軍にいたころは練習台がいくらでもいたから。みんな休みを潰して床屋に行くのがもったいないからって俺のところに来るんだ」
「あはは。エミリオが丸坊主になったっていうのも海軍のころの話?」
「あいつ軍規違反ギリギリのところを狙って悪さをするから。業を煮やした隊長の命令で」
「隊長ってウィル?」
「そう。厳しくていい上司だった」
「過去形ね。今は?」
「今は上司って感じじゃないかな。戦友とか共犯者とかそんな感じ」

穏やかな声が耳に心地いい。
ウィルの過去を語るテオは嬉しそうで、尊敬や憧れがダイレクトに伝わってきた。
皆海軍を捨てて海賊になるくらいだ、余程信頼されていたのだろう。

「みんなウィルが大好きなのね」
「すごい人だったからね。シャルロなんてもはや信奉者だよ」
「本当に? いつも冷静に見えるのに」
「それに女性兵のほとんどが隊長に惚れてたと思う。なんだかんだ優しかったし」
「ふぅん」
「……気になる?」
「別に?」

強がって答えると、テオが意地の悪い顔で笑った。
ウィルがモテるのなんてわかりきっている。
むくれてみせると、テオが「ごめん」と苦笑した。

「隊長に嫌気がさしたら俺のとこおいで」
「あははありがとう。そうならないように頑張るわ」
「ま、浮気はありえないと思うけど。よし、おしまい。気持ち悪いところはない?」
「大丈夫。ありがとう、すごくさっぱりしたわ」

最後に丁寧に拭いてくれて、頭に乾いたタオルを巻かれた状態で枕に戻される。
ベッドの場所を再び移動して、病室の中が元通りになった。

外はもう薄暗く、細く開いた窓から涼しい風が吹き込んでいた。

「まだしばらくは体力が戻らないだろうからまた寝るといい。ここにいるから安心して目を閉じてて。食事は明日の朝からだって」
「お腹が空きすぎて力が出ないんだと思うわ」
「はは、もう少しの辛抱だよ」
「もう入院するような怪我はしないことにする……」
「うん。二度としないで」

口調は穏やかなままなのに、声のトーンが変わってひやりとする。

「……怒ってる?」
「すごく。みんなね」
「…………ごめんなさい」
「うん。じっくり反省して。元気になったらみんなのお説教が待ってるから」
「うう……はい……」

にこやかに辛辣なことを言われて布団に潜りこむ。
被った毛布の上から頭を撫でられて、笑い声が聞こえ始めた。
そっと顔を出すと、テオがおかしくてたまらないという顔をしている。

「からかったのね?」
「いや本気だけど。反応がかわいくてつい」
「ううー」
「ほら唸ってないで寝なさい。お腹冷やさないようにね」
「テオお母さんみたい」
「こんな命知らずな娘はいらないよ」
「ひどい!」
「おやすみレーナ。良い夢を」

強引に目を塞がれて、さっさと電気が消されてしまった。
近くの椅子に座る気配がしたが、あっという間に眠気が訪れて、身体の感覚があやふやになっていく。

「おやすみテオ……」

なんとかそれだけ言って、ストンと眠りに落ちた。
夢は見なかった。
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