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何も言えないままでいる私に、アーロンは呆れた様子もなく、穏やかな声で続ける。
「父からの手紙で、ミュスカーがリリィばかり優先してアメリアを悲しませていると知った。後悔したよ。あの時、無理やりにでも気持ちを伝えていればと。ミュスカーの言葉を頭から信じず、ちゃんとキミに聞けばよかったと。けど、そんなのはもう今更言ってもしょうがないから」
そこで一度言葉を切って、力なく笑みを浮かべた。
心臓がきゅうっと痛みを訴えて、涙がこぼれそうになる。
「今度こそちゃんと伝えたいんだ。アメリアが好きだと」
「……っ、うんっ……、」
喉から絞り出した声は震えていて、上手く声に出ていたかもわからない。
それでもアーロンは嬉しそうに笑って、私の手を握る力を強くした。
「父は手紙に「一ヵ月しか猶予はない、それ以上は知らん」と書いてきた。俺の気持ちなんてお見通しだったんだろう。ミュスカーもそうだったはずだ。だからこそ婚約を決めるときにアメリアに選択を委ねたんだ。俺たちが嫌がるはずないと知っていてね」
「でも、ミュスカーは……」
私のことなんて好きじゃなかった。
そう言おうとした私に、アーロンが難しい顔で首を振った。
「今はまだ直接話していないからわからないけど、あの時は確かにあいつもアメリアを好きだったはずだ。そうじゃなきゃ俺ももう少し頑張った」
苦笑してアーロンが言う。
「二人が両想いだと思って諦めてしまった俺に父はチャンスをくれたんだ。……まぁ、アメリアをすごく可愛がっていたから父の私情もたっぷり挟まっていたんだろうけど。デイジーに励まされてようやく決心がついて、大急ぎで仕事を片付けて馬車を飛ばして戻ってきた。その間に、キミをこの家に縛り付けて苦しませることになるかもしれないって葛藤は乗り越えた。自分勝手で強引なのは百も承知だ。けど、アメリアが頷いてくれるなら絶対に後悔させない」
それからアーロンは姿勢を正して、私の顔を真っ直ぐに見て言った。
「全力で幸せにすると誓う。ミュスカーとのことなんか忘れるくらいに。だからどうか、俺と結婚してほしい」
彼の決意が詰まった言葉に、胸が苦しくなる。
言葉の代わりにハラハラと涙が落ちて、何度も頷くことしか出来なかった。
そんな風に愛してもらえて嬉しい。
私もずっとアーロンのことが好きだった。
伝えたいことはたくさんあるのに、しゃくり上げるばかりで言葉にならないのがもどかしかった。
「ありがとう、アメリア」
私の無言の了承に、ホッとした顔でアーロンが私の頬を優しく拭う。
ぐしゃぐしゃの顔で恥ずかしかったけれど、アーロンが幸せそうに笑うから、私も自然と笑顔になれた。
頬に触れる手に自分の手を重ねて目を閉じる。
深く呼吸を繰り返すと、少しずつ気持ちが落ち着いていった。
「……アーロン」
ようやく彼の名前を呼べたことが嬉しくて、もう一度深く息を吐く。
「私も、絶対にあなたを幸せにすると誓うわ」
涙に濡れた顔のまま、挑むように笑いかけると、泣きそうな顔でアーロンが私を強く抱きしめた。
失恋した日よりも多くの涙を流して、過去のどんな日よりも幸せな一日だった。
「父からの手紙で、ミュスカーがリリィばかり優先してアメリアを悲しませていると知った。後悔したよ。あの時、無理やりにでも気持ちを伝えていればと。ミュスカーの言葉を頭から信じず、ちゃんとキミに聞けばよかったと。けど、そんなのはもう今更言ってもしょうがないから」
そこで一度言葉を切って、力なく笑みを浮かべた。
心臓がきゅうっと痛みを訴えて、涙がこぼれそうになる。
「今度こそちゃんと伝えたいんだ。アメリアが好きだと」
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喉から絞り出した声は震えていて、上手く声に出ていたかもわからない。
それでもアーロンは嬉しそうに笑って、私の手を握る力を強くした。
「父は手紙に「一ヵ月しか猶予はない、それ以上は知らん」と書いてきた。俺の気持ちなんてお見通しだったんだろう。ミュスカーもそうだったはずだ。だからこそ婚約を決めるときにアメリアに選択を委ねたんだ。俺たちが嫌がるはずないと知っていてね」
「でも、ミュスカーは……」
私のことなんて好きじゃなかった。
そう言おうとした私に、アーロンが難しい顔で首を振った。
「今はまだ直接話していないからわからないけど、あの時は確かにあいつもアメリアを好きだったはずだ。そうじゃなきゃ俺ももう少し頑張った」
苦笑してアーロンが言う。
「二人が両想いだと思って諦めてしまった俺に父はチャンスをくれたんだ。……まぁ、アメリアをすごく可愛がっていたから父の私情もたっぷり挟まっていたんだろうけど。デイジーに励まされてようやく決心がついて、大急ぎで仕事を片付けて馬車を飛ばして戻ってきた。その間に、キミをこの家に縛り付けて苦しませることになるかもしれないって葛藤は乗り越えた。自分勝手で強引なのは百も承知だ。けど、アメリアが頷いてくれるなら絶対に後悔させない」
それからアーロンは姿勢を正して、私の顔を真っ直ぐに見て言った。
「全力で幸せにすると誓う。ミュスカーとのことなんか忘れるくらいに。だからどうか、俺と結婚してほしい」
彼の決意が詰まった言葉に、胸が苦しくなる。
言葉の代わりにハラハラと涙が落ちて、何度も頷くことしか出来なかった。
そんな風に愛してもらえて嬉しい。
私もずっとアーロンのことが好きだった。
伝えたいことはたくさんあるのに、しゃくり上げるばかりで言葉にならないのがもどかしかった。
「ありがとう、アメリア」
私の無言の了承に、ホッとした顔でアーロンが私の頬を優しく拭う。
ぐしゃぐしゃの顔で恥ずかしかったけれど、アーロンが幸せそうに笑うから、私も自然と笑顔になれた。
頬に触れる手に自分の手を重ねて目を閉じる。
深く呼吸を繰り返すと、少しずつ気持ちが落ち着いていった。
「……アーロン」
ようやく彼の名前を呼べたことが嬉しくて、もう一度深く息を吐く。
「私も、絶対にあなたを幸せにすると誓うわ」
涙に濡れた顔のまま、挑むように笑いかけると、泣きそうな顔でアーロンが私を強く抱きしめた。
失恋した日よりも多くの涙を流して、過去のどんな日よりも幸せな一日だった。
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