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不利な状況に追い込まれ始めたことに気付いたのか、エステルが両拳を顎のあたりに当てて目を潤ませた。
「そんなことないもん! 私はみんな同じように仲良くしようとしてるもん! 女の子たちが私を仲間外れにしてるだけだもん!」
もんもんうるさいな。
公平なのは貴族の男に対してだけだろ。
わめくエステルに取り巻きたちが疑惑の目を向け始める。
「エステルさん、は、その……女の子があんまり好きじゃない、のかな?」
最大限に言葉を選んで取り巻きその三が引き攣った笑みで問う。
「違うもん違うもん! みんなが私をいじめるんだもん!」
「いじめの現場を目撃した人が一人でもいますか?」
すかさず口を挟むと、取り巻きその一が悩まし気な顔で首を振る。
「いや、そういえば一度も……」
「そうでしょうね。まぁ私はこの通り積極的にジョーンズさんをいじめていますけど」
「散々迷惑被ってるもんねぇ」
エステルに向かって、ヨシュアと揃ってにっこり笑って見せると、彼女はわずかにたじろいだ。
「でもそれも私くらいのものでは? なのに女子のお友達がいない。あなた方にはこんなに社交的に接することが出来る人なのに。おかしいですわね?」
「ちがうの……ねぇ信じてみんな……」
縋るような目で取り巻きたちを見る。
どうやら弁明するのではなく、可哀想な私作戦に変更したらしい。
けれどその視線を受けて、取り巻きたちは逃げるように後退った。
エステルのやばさを理解しつつあるのだろう。
「だいたい嫉妬するほどの女性かしら? 顔がいいだけでお姫様気取りで男性を選り好みして。べちゃべちゃした喋り方に学年最下位レベルの学力。服のセンスもイマイチだし十七にもなってすぐ泣いて。程度が低すぎて誰の話題にも上りませんわ」
おっとさすがに言いすぎか。
こんな言い方ではエステルと同レベルかそれ以下だ。
途中で気付いたけれど、止められなかった。
どうやら自分が思っている以上に鬱憤が溜まっていたらしい。
冷静なつもりでいても、ヨシュアへのちょっかいが実は物凄く腹に据えかねているのかもしれない。
改めるべきか。
少し考えてすぐにやめる。
まぁいっか。
どうせ悪役なのだし。
今更取り繕ったって手遅れだ。
「しいて女性たちの話題でジョーンズさんの名前が挙がるときがあるとするならば、」
見下す視線で唇を吊り上げる。
「ジョーンズさんに恋人を奪われた女性たちが嘆いている時くらいかしら」
「そうなのか!?」
「恋人のいる男に手を出して……?」
「あらご存じない? 昨日だってひとつ上の男子生徒に粉かけてらしたわよ。もちろん彼女もちの」
エステルはチヤホヤされるほかに、略奪愛にも目覚めてしまったようだ。
トリスタンを奪った快感が忘れられないのだろう。
あれは私が捨てたものをエステルが拾ったというだけなのだけど。
「そんな言い方ひどいです! 委員会の先輩とお話ししてただけですぅ!」
「腕に絡みついて? わざわざ耳元に囁きかけて?」
まったく馬鹿の一つ覚えにも程がある。
トリスタンの時もアルバートの時もそうだった。
必要以上に近い距離と全く不必要なスキンシップ過剰。
これだけでチョロい男は落とせるのだから、手段を変える意味もないのだろうけれど。
「あなた方も身に覚えがあるのではなくて?」
揶揄するように問いかけると、心当たりがばっちりあったのか、取り巻きたちが険しい顔になった。
きっとそれぞれが見ていないところで、それぞれに距離を縮めた気でいたのだろう。
自分だけが取り巻きたちの中で特別だなんて思い込まされていたはずだ。
完全にドン引き顔で、彼らは押し黙ったままエステルを見た。
「……ふぇ~んひどぉい」
その視線を受けて、予備動作もなく涙を溢れさせエステルがしゃがみ込む。
すごい。涙が出るスイッチでもあるのだろうか。
「聞いたお嬢。ふぇーんて言ったよこの人。俺も真似するべき?」
「おやめなさい」
取り巻きたちはオロオロとして、エステルを宥めるように取り囲んだ。
エステルはメソメソ泣くばかりだ。
万策尽きて、この場をうやむやにしたいのだろう。
これは実質エステルの白旗だ。
今回も私達の勝ちということで、ここらで終わりにしてやろう。
「あースッキリした。ずらかるわよヨシュア」
さらりと髪をかき上げて踵を返す。
「へい! 合点です!」
ヨシュアが調子に乗って安っぽい返事をする。
今日のは完全にストレス解消だったけどまあいいだろう。
これに懲りて二度と私のヨシュアに手を出すなよと思いながら、颯爽と教室へ戻った。
「そんなことないもん! 私はみんな同じように仲良くしようとしてるもん! 女の子たちが私を仲間外れにしてるだけだもん!」
もんもんうるさいな。
公平なのは貴族の男に対してだけだろ。
わめくエステルに取り巻きたちが疑惑の目を向け始める。
「エステルさん、は、その……女の子があんまり好きじゃない、のかな?」
最大限に言葉を選んで取り巻きその三が引き攣った笑みで問う。
「違うもん違うもん! みんなが私をいじめるんだもん!」
「いじめの現場を目撃した人が一人でもいますか?」
すかさず口を挟むと、取り巻きその一が悩まし気な顔で首を振る。
「いや、そういえば一度も……」
「そうでしょうね。まぁ私はこの通り積極的にジョーンズさんをいじめていますけど」
「散々迷惑被ってるもんねぇ」
エステルに向かって、ヨシュアと揃ってにっこり笑って見せると、彼女はわずかにたじろいだ。
「でもそれも私くらいのものでは? なのに女子のお友達がいない。あなた方にはこんなに社交的に接することが出来る人なのに。おかしいですわね?」
「ちがうの……ねぇ信じてみんな……」
縋るような目で取り巻きたちを見る。
どうやら弁明するのではなく、可哀想な私作戦に変更したらしい。
けれどその視線を受けて、取り巻きたちは逃げるように後退った。
エステルのやばさを理解しつつあるのだろう。
「だいたい嫉妬するほどの女性かしら? 顔がいいだけでお姫様気取りで男性を選り好みして。べちゃべちゃした喋り方に学年最下位レベルの学力。服のセンスもイマイチだし十七にもなってすぐ泣いて。程度が低すぎて誰の話題にも上りませんわ」
おっとさすがに言いすぎか。
こんな言い方ではエステルと同レベルかそれ以下だ。
途中で気付いたけれど、止められなかった。
どうやら自分が思っている以上に鬱憤が溜まっていたらしい。
冷静なつもりでいても、ヨシュアへのちょっかいが実は物凄く腹に据えかねているのかもしれない。
改めるべきか。
少し考えてすぐにやめる。
まぁいっか。
どうせ悪役なのだし。
今更取り繕ったって手遅れだ。
「しいて女性たちの話題でジョーンズさんの名前が挙がるときがあるとするならば、」
見下す視線で唇を吊り上げる。
「ジョーンズさんに恋人を奪われた女性たちが嘆いている時くらいかしら」
「そうなのか!?」
「恋人のいる男に手を出して……?」
「あらご存じない? 昨日だってひとつ上の男子生徒に粉かけてらしたわよ。もちろん彼女もちの」
エステルはチヤホヤされるほかに、略奪愛にも目覚めてしまったようだ。
トリスタンを奪った快感が忘れられないのだろう。
あれは私が捨てたものをエステルが拾ったというだけなのだけど。
「そんな言い方ひどいです! 委員会の先輩とお話ししてただけですぅ!」
「腕に絡みついて? わざわざ耳元に囁きかけて?」
まったく馬鹿の一つ覚えにも程がある。
トリスタンの時もアルバートの時もそうだった。
必要以上に近い距離と全く不必要なスキンシップ過剰。
これだけでチョロい男は落とせるのだから、手段を変える意味もないのだろうけれど。
「あなた方も身に覚えがあるのではなくて?」
揶揄するように問いかけると、心当たりがばっちりあったのか、取り巻きたちが険しい顔になった。
きっとそれぞれが見ていないところで、それぞれに距離を縮めた気でいたのだろう。
自分だけが取り巻きたちの中で特別だなんて思い込まされていたはずだ。
完全にドン引き顔で、彼らは押し黙ったままエステルを見た。
「……ふぇ~んひどぉい」
その視線を受けて、予備動作もなく涙を溢れさせエステルがしゃがみ込む。
すごい。涙が出るスイッチでもあるのだろうか。
「聞いたお嬢。ふぇーんて言ったよこの人。俺も真似するべき?」
「おやめなさい」
取り巻きたちはオロオロとして、エステルを宥めるように取り囲んだ。
エステルはメソメソ泣くばかりだ。
万策尽きて、この場をうやむやにしたいのだろう。
これは実質エステルの白旗だ。
今回も私達の勝ちということで、ここらで終わりにしてやろう。
「あースッキリした。ずらかるわよヨシュア」
さらりと髪をかき上げて踵を返す。
「へい! 合点です!」
ヨシュアが調子に乗って安っぽい返事をする。
今日のは完全にストレス解消だったけどまあいいだろう。
これに懲りて二度と私のヨシュアに手を出すなよと思いながら、颯爽と教室へ戻った。
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