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取り巻きたちが注意喚起したのか、単純にぶりっ子に騙される人間が尽きたのか。
目を付けていた全員にふられて、ここのところ彼女は意気消沈しているようだった。
けれど大人しくなったと思ったのも束の間、すぐに別の男をターゲットに定めて行動を開始したのを見て呆れるより感心してしまった。
まさにゴキブリ並みの生命力だ。
たださすがに少しは懲りたのか、ヨシュアへのちょっかいはなくなり、私へのウザ絡みも減った。
その代わりなのかは知らないが、新しい男を作るたびわざわざ私に見せびらかしに来るのはやめてほしい。
どうやら悪役も友人もやめて、マウントを取る方向にシフトしたらしい。
トリスタンと婚約解消して以来、浮いた話もない私に勝つにはそれが一番だと思ったのだろう。
残念ながら効果は全くない。
どんなにスペック自慢をされてもヨシュア以上と思える男はいなかったし、そもそもがエステルと好みが違うのだからうらやましがりようもない。
だいたい連れてくるどの男よりも私自身のスペックの方が高いし、学生の身分の彼らに比べれば個人資産も桁違いだ。
それなりに鬱陶しいけれど、前ほどではない。
ならこのまま放置でいいかと思いかけて、ハタと気付く。
あの女のことだ、私が敵対しなければ普通にそれなりの貴族の男を捕まえるだろう。
そうなったら社交界で遭遇する可能性が増えてしまう。
会うたびにマウントを取られる様が容易に想像できて、その想像だけでうんざりした。
「どう思うヨシュア」
「パーティに顔出すたび一目散に寄ってくるエステルちゃんが目に浮かぶね」
自宅の自室で問うと、ヨシュアが肩を竦めながら私の想像を肯定してくれた。
思わずため息が出る。
エステルの存在に多少慣れたとは言え、この先一生マウント女と付き合いが続くのは避けたい。
「もういっそどっかの金持ち辺境貴族を紹介して遠くに追いやろうかしら」
「素直に田舎に引っ込むタマだと思う?」
「まったく思わないわ」
即答してまたため息を吐く。
エステルにとってはお金そのものよりも、ステータスや都会暮らしであることが重要な気がする。
そんな女が田舎ののどかな生活で満足するはずもない。
「あの子の毒牙にかかってないまともな男子はみんな商売相手として有望だから近付けたくもないし……どこかに毒にも薬にもならない私に関わりのない無難な男はいないかなぁ」
「トリスたんとかどう?」
「たん呼びやめなさいよ」
ニュアンスの違う呼び方に少し笑って、それからヨシュアの言葉にハッとする。
「それ、いいかも」
エステルに絡まれるようになった全ての元凶であるトリスタン。
もうとっくにフラれているけれど、そこさえクリアすればかなりいい条件なのではないか。
だって今はなんとか父親が切り盛りしているが、トリスタンに交代したらお先真っ暗だ。
つまり将来性ゼロ。
これまでのことを考えればエステルを押し付ける罪悪感もゼロ。
現在のクロイド家は私からの援助もあって羽振り良く見えるし、何より城下一等地に居を構えている。
エステル好みの良物件だ。
実際は壁紙一枚はがせば難ありの瑕疵物件なのだけど。
彼女にそんな判別はつかないだろう。
「私がトリスタンに親しげにすれば、また寄ってくる気しない?」
私の男を取ることに味を占めたエステルのことだ。
すぐにでもウザ絡みを再開させそうだ。
相手がトリスタンならばなおのこと。
一度奪えた相手ならば簡単に奪い返せると強気になるはずだ。
「確実にね。ちょっと妬けるけど」
「なに、やっぱりあの子のことちょっと気になってるわけ」
「ちがう、そうじゃない」
顔を顰めて問うと、ヨシュアは深いため息をついて緩く首を振った。
なんだか腹の立つリアクションだ。
「好きじゃないならまぁいいわ。トリスタンとエステルが正式にくっつけば社交界で顔を合わすのも数年の命でしょう。共に沈みゆく船に乗せれば二人同時に消せて一挙両得だわ」
「あ、今のなんか悪役っぽい」
「そう? 私の悪役も板についてきたようね」
ふっふっふ、と悪巧みめいた安っぽい笑いを交わし合って、ヨシュアと今後の方針を固めることにした。
目を付けていた全員にふられて、ここのところ彼女は意気消沈しているようだった。
けれど大人しくなったと思ったのも束の間、すぐに別の男をターゲットに定めて行動を開始したのを見て呆れるより感心してしまった。
まさにゴキブリ並みの生命力だ。
たださすがに少しは懲りたのか、ヨシュアへのちょっかいはなくなり、私へのウザ絡みも減った。
その代わりなのかは知らないが、新しい男を作るたびわざわざ私に見せびらかしに来るのはやめてほしい。
どうやら悪役も友人もやめて、マウントを取る方向にシフトしたらしい。
トリスタンと婚約解消して以来、浮いた話もない私に勝つにはそれが一番だと思ったのだろう。
残念ながら効果は全くない。
どんなにスペック自慢をされてもヨシュア以上と思える男はいなかったし、そもそもがエステルと好みが違うのだからうらやましがりようもない。
だいたい連れてくるどの男よりも私自身のスペックの方が高いし、学生の身分の彼らに比べれば個人資産も桁違いだ。
それなりに鬱陶しいけれど、前ほどではない。
ならこのまま放置でいいかと思いかけて、ハタと気付く。
あの女のことだ、私が敵対しなければ普通にそれなりの貴族の男を捕まえるだろう。
そうなったら社交界で遭遇する可能性が増えてしまう。
会うたびにマウントを取られる様が容易に想像できて、その想像だけでうんざりした。
「どう思うヨシュア」
「パーティに顔出すたび一目散に寄ってくるエステルちゃんが目に浮かぶね」
自宅の自室で問うと、ヨシュアが肩を竦めながら私の想像を肯定してくれた。
思わずため息が出る。
エステルの存在に多少慣れたとは言え、この先一生マウント女と付き合いが続くのは避けたい。
「もういっそどっかの金持ち辺境貴族を紹介して遠くに追いやろうかしら」
「素直に田舎に引っ込むタマだと思う?」
「まったく思わないわ」
即答してまたため息を吐く。
エステルにとってはお金そのものよりも、ステータスや都会暮らしであることが重要な気がする。
そんな女が田舎ののどかな生活で満足するはずもない。
「あの子の毒牙にかかってないまともな男子はみんな商売相手として有望だから近付けたくもないし……どこかに毒にも薬にもならない私に関わりのない無難な男はいないかなぁ」
「トリスたんとかどう?」
「たん呼びやめなさいよ」
ニュアンスの違う呼び方に少し笑って、それからヨシュアの言葉にハッとする。
「それ、いいかも」
エステルに絡まれるようになった全ての元凶であるトリスタン。
もうとっくにフラれているけれど、そこさえクリアすればかなりいい条件なのではないか。
だって今はなんとか父親が切り盛りしているが、トリスタンに交代したらお先真っ暗だ。
つまり将来性ゼロ。
これまでのことを考えればエステルを押し付ける罪悪感もゼロ。
現在のクロイド家は私からの援助もあって羽振り良く見えるし、何より城下一等地に居を構えている。
エステル好みの良物件だ。
実際は壁紙一枚はがせば難ありの瑕疵物件なのだけど。
彼女にそんな判別はつかないだろう。
「私がトリスタンに親しげにすれば、また寄ってくる気しない?」
私の男を取ることに味を占めたエステルのことだ。
すぐにでもウザ絡みを再開させそうだ。
相手がトリスタンならばなおのこと。
一度奪えた相手ならば簡単に奪い返せると強気になるはずだ。
「確実にね。ちょっと妬けるけど」
「なに、やっぱりあの子のことちょっと気になってるわけ」
「ちがう、そうじゃない」
顔を顰めて問うと、ヨシュアは深いため息をついて緩く首を振った。
なんだか腹の立つリアクションだ。
「好きじゃないならまぁいいわ。トリスタンとエステルが正式にくっつけば社交界で顔を合わすのも数年の命でしょう。共に沈みゆく船に乗せれば二人同時に消せて一挙両得だわ」
「あ、今のなんか悪役っぽい」
「そう? 私の悪役も板についてきたようね」
ふっふっふ、と悪巧みめいた安っぽい笑いを交わし合って、ヨシュアと今後の方針を固めることにした。
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