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第2章 五芒星編
第24話 地下室の囚人たち
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一日中、メアリー・スーレンが失踪したという話を聞かない。
一日姿が見えないだけだから、死亡事件の後にわざわざそれを生徒に教える必要がないのか、それとも……いつも誰かに拘束されてて、欠席自体が多いから、教師もいつものことだと思って気にしなかったのか。
おそらく、後者だろう。目をそらしたくなる現実だな。
放課後、アイリスは珍しい提案してきた。
「フィリ様、その、今日は私の部屋で魔術を教えてくれませんか?」
あれ? 俺のこと避けてたんじゃないの? めっちゃうれしいんだけど。
「アイリス、フィリ様に迷惑かけちゃいけないよ。フィリ様、今日はラーちゃんの部屋で紅茶でも一緒に飲まない?」
俺が返事しようとしたときに、ラーちゃんはやってきて、話に割り込んできた。
魔術を教わるのは迷惑をかけることで、一緒に紅茶を飲むは別にいいんだ。基準がよく分からない。
「ティエリア様は最近フィリ様にくっつきすぎじゃないですか?」
「そんなことないわよ! アイリスこそ、男子寮、フィリ様の部屋に入ったそうじゃない!」
「うぐっ」
恥ずかしい記憶をラーちゃんに掘り返されて、アイリスは悶える。
「あの、よければ私の部屋に来ませんか?」
気づいたら、レイナは目の前にいた。
「「あんたは黙ってなさい!」」
ラーちゃんとアイリスの声はうまくハモって、レイナはそれに気おされて黙り込んで、失礼しましたと言わんばかりにゆっくり後ずさってこの場を離れた。
気のせいかな。アイリスらしくないしゃべり方だよね。
「アイリス、いまなんて言いました?」
とりあえず、確認してみる。
「なんも言ってませんよ?」
よかった、俺の聞き間違いだった。「あんたは黙ってなさい!」って言ったのはラーちゃんだけか。にしても誰かの声とハもってたような……
でも、天使のアイリスがそんなこと言うわけないよね。エリルあたりかな。
「ごめんなさい、今日は急用があって……」
「なら仕方ないわね。ラーちゃんと紅茶飲みたかったらいつでも来てよね!」
「……また後日魔術を教えてくださいね」
紅茶というより、ラーちゃんの汁が飲みたい。なんちゃって。俺は紳士だから、そんなことを本気で考えるわけがないじゃない。
とりあえず、二人の誘いを断って、帰ろうとしたとき、エリルは上目遣いで俺を見てきた。今日は一緒に帰らないの? とでも言ってるようだ。
「ごめんなさい、エリル、今日はほんとに急用があって、とても、かなり急いでるんです」
そういって、俺は走って男子寮まで帰った。
自分の部屋からセレスの家に入ったとたん、残念なメイドさん―メアリ―が話しかけてきた。
「フィリ様……フィリ様の涎が飲みたいです」
うん、こいつは一旦無視。俺はそのままセレスと俺の部屋に戻って、セレスに話しかけた。
「把握できた? メアリーをいじめた人数」
直接メアリーに聞いたら、多分ドン引きするだろうから、俺はセレスに任せることにした。
「10人だよ~ 死んだ一人を除いて」
10人か、よかった、てっきり学院に在籍している生徒の名前が半分くらい出てくると思ってたから。
ってよくない。死んだフォミなんちゃらを含めたら、メアリーは11人にも調教されていたのかよ。こんなにドМになったのも納得できる。
って納得してどうすんだ!? マジでメアリーの変態ぶりについていけないよ。
百歩譲って認めよう。俺は一日3割くらい発情している。だが、メアリーは日中夜間問わず、常に発情しているから、さすがの俺でも合わせるのは難しい。
確かに、俺もその気になってるときはすごくありがたいけど、そうじゃないときは、こいつ正気かよって疑いたくなる。
男と女の違いだろうと思ってたが、セレスとはずっと一緒にいてもさほど疲れないから、やはりメアリーの問題なのだろう。
「そいつらの居場所は把握できた?」
「ばっちり~」
「さすがセレス」
「てへへ」
普通にしていれば、セレスでもこんなに可愛いんだよね。なんでみんなセレスを見たらそんなにビビるのかな。
街の一つや二つは誰でも焼き払った経験があるだろう。
いや……ないか。一心同体使いすぎて、思考回路が日に日にセレスに似てきたな。
でも、一心同体を使いこなせないと、とてもではないが、『五芒星』とは太刀打ちできないよな。
うん、考えないようにしよう。
「じゃ、やってくれ」
「はい~」
人を攫うなんて簡単なことだから、S級魔術を使う必要がないから、セレスは別に詠唱もせずに、魔術を発動させた。
傍から見たらなにも起きてないように見えるがね。
待ってよ。詠唱が必要ないなら、なぜ初めてセレスと会ったときに、水創生、風創生とか詠唱したのだろう。
分からないからとりあえず聞いてみる。
「終わったよ~」
「ああ、ありがとう。ちょっと気になったことがあって、聞いてもいいか?」
「なに?」
「最初に俺の体を綺麗にしたとき、魔術の詠唱をしたよね。それって必要ないはずでは?」
「だって、うちが何をしようとしているかを説明するのに、詠唱を唱えるほうが一番手っ取り早いでしょう? いきなり水とか風とか飛んで来たらご主人様ビビってたでしょうから」
なるほど、セレスにも気遣いと常識というものがあったんだね。感動して泣きそう。
「そうか。ありがとうね」
「気遣いはちゃんと持ってます! ぷんぷん!」
またしても思念同調が常時発動しているのを忘れてしまった……
メアリーを連れて、二人で地下室に向かっていく。セレスを連れて行かないのは一心同体の種を明かしたくないから。
思念同調で魔術を発動して、地下室を明るくすると、そこにはちょうど十人の男がいた。
メアリーはぶるぶると震えている。自分をいじめてた連中が勢ぞろいで目の前にいたら、俺でも失禁するかもしれない。
俺を見て、何人かは声を上げた。
「フィリ!?」
「フィリ様!?」
「フィリ・イスフォード!?」
「誰だ?」
うん、最後のは無視するとして、ちょっと呼び方を統一する必要があるな。
「うるさい! 俺のことをフィリ・イスフォード様と呼べ!」
監禁するのに、最初は恐怖を与えることが肝心だと聞く。まあ、セレスが言ってたけどね。セレスは前も、D級昇級試験で俺を機嫌を損ねたやつを監禁したことがあって、その経験からきたアドバイスなのだろう。
ほかにだれかを監禁したことはないよね。うん、そう信じたい。
「ふざけんな! 俺らをここに連れてきたのはお前か!」
うん、セレスがやったから、正確にいうと違うけど、ここははいと答えよう。
にしても、こんな状態で、俺に噛みついてくるとは、いい度胸してんな。
「そこにいるのはメアリーじゃないか! まさか俺らに報復するためにこの男の手を借りたのか!?」
おいおい、俺を差し置いて勝手に俺の女に話しかけないでほしいよな。
俺はぶるぶる震えるメアリーを肩を抱いて、とりあえず安心させる。
「お前ら、今の状況分からないのか?」
「うるさい! 早く俺をここから出せ! そうだ、メアリー、お前も可愛がってやるから、早くそこの男に俺らを出すように言うんだ!」
なるほど、「誰だ?」って聞いたのはこの俺に噛みつくバカなのか。ほかの人間は俺がセロを倒したA級魔術師―フィリ・イスフォードって知ってるだろうから、誰もこいつみたいに表立って反抗な態度を取らない。
「うるさい!!」
まさか「うるさい」をさらに音量のデカい「うるさい」で返されると思ってないらしく、俺に噛みついてきた男は呆然としていた。
「お前らはここに監禁する」
「「「えっ!?」」」
全員が俺の宣言にびっくりした。
「だって、俺の女―メアリーに手出したからな」
「そいつが誘ってきたのだ! 俺は悪くない!」
「そうだそうだ!」
「俺は一回しかやってないぞ!」
んなわけあるか。俺より嘘がへただな。ちょっと自信ついてきたかも。
「とりあえず、名前を……」
そう言いかけて、俺はやっぱ名前を聞くのをやめた。どうでもいい実験品なんだ。一々名前覚えるのもなんかめんどくさいし。とりあえず、豚一号から豚十号でいいか。
ちなみに、俺に噛みついてきたやつは豚三号で。
「お前らの名前はこれから豚一号、二号、三号、四号、五号、六号、七号、八号、九号、十号だ!」
俺は一人ひとりを指差して丁寧に名付けた。はあ、これ、地味に疲れるな。途中で舌を噛みそうになったし。
「豚だと!? ふざけんな!」
またしても豚三号が噛みついてきた。
ちょうどいい。こいつを最初の一心同体の実験台にしよう。
「豚三号よ、帰りたいなら簡単だよ? 俺を倒したら、勝手に帰ればいいさ」
「ああ、誰だかしらないが、今すぐにでもお前を殺したいぜ」
「ならば、かかってこい」
俺に挑発されて、豚三号は構えた。
『セレス、準備はできてるか?』
『はい~』
「『一心同体!』」
例によって、俺は髪が伸びて、銀色に輝き始めた。そして、俺の目は『緋色の目』に変わり、目の前の人間の魔術回路と魔力がはっきりと見えるようになった。
見えたからこそ、俺は落胆してしまった。どいつもこいつも魔術回路がか細く、大した魔力もない。セロの魔術回路は神々しく光っていたし、その魔力量はおぞましかったというのに。
セレスに捕獲されて、ここにとらわれた時点で大したことないのは知っていたけど、まさかここまでとはな。
俺の見た目が急に変わったせいか、豚三号は少しひるんだ。だが、次の瞬間、豚三号は俺に対して攻撃魔術を発動した。
「炎の竜!」
へえ、上級魔術か。こいつはなかなかやるではないか。しかもいきなりぶっといのをぶっ放してきた。マジで俺を殺す気だ。
でも、『緋色の目』を持つ今の俺にとって、豚三号の魔術は止まってるように見える。魔術回路の動き、魔力の動向、そのすべてがはっきりと見えるから、周囲の動きがスローモーションに見える。
俺は軽く、メアリーを自分の胸に抱きよせて、一歩右にずれただけで、豚三号の炎の竜が外れて、地下室の壁にぶつかって消滅した。
もちろん、壁に傷一つない。セレスが作りだした地下室だから、その強固さはセレス自身の魔術でもなかなか傷つけれられない。
「次はうちの番よ~」
「うち?」
一心同体の弊害で、俺の人格にセレスの人格も入っているから、決して、豚三号、お前を愚弄してるわけじゃないことをご理解いただきたい。
なんだかんだで、俺の番だと言ったけど、どんな魔術を使うか悩むところだよね。
とりあえず、初級魔術で様子見でもしようか。
俺は豚三号にファイアボールを放った。
次の瞬間、豚三号以外の連中は本能で命の危険を察知したのか、走って必死に豚三号から離れた。
一応、脳内のセレスと相談して、小さいファイアボールを発動することにしたが、どうやら、小さいのは大きさだけだった。
小さい火球が目にもとまらぬ速さで豚三号に直撃して、ただただ広い地下室の体積の三分の一に相当する爆発が起きた。
もちろん、そこには豚三号の遺骨すら残っていなかった。
おい、壁にひびが入ってるじゃないかよ! ただのファイアボールなのに……
一日姿が見えないだけだから、死亡事件の後にわざわざそれを生徒に教える必要がないのか、それとも……いつも誰かに拘束されてて、欠席自体が多いから、教師もいつものことだと思って気にしなかったのか。
おそらく、後者だろう。目をそらしたくなる現実だな。
放課後、アイリスは珍しい提案してきた。
「フィリ様、その、今日は私の部屋で魔術を教えてくれませんか?」
あれ? 俺のこと避けてたんじゃないの? めっちゃうれしいんだけど。
「アイリス、フィリ様に迷惑かけちゃいけないよ。フィリ様、今日はラーちゃんの部屋で紅茶でも一緒に飲まない?」
俺が返事しようとしたときに、ラーちゃんはやってきて、話に割り込んできた。
魔術を教わるのは迷惑をかけることで、一緒に紅茶を飲むは別にいいんだ。基準がよく分からない。
「ティエリア様は最近フィリ様にくっつきすぎじゃないですか?」
「そんなことないわよ! アイリスこそ、男子寮、フィリ様の部屋に入ったそうじゃない!」
「うぐっ」
恥ずかしい記憶をラーちゃんに掘り返されて、アイリスは悶える。
「あの、よければ私の部屋に来ませんか?」
気づいたら、レイナは目の前にいた。
「「あんたは黙ってなさい!」」
ラーちゃんとアイリスの声はうまくハモって、レイナはそれに気おされて黙り込んで、失礼しましたと言わんばかりにゆっくり後ずさってこの場を離れた。
気のせいかな。アイリスらしくないしゃべり方だよね。
「アイリス、いまなんて言いました?」
とりあえず、確認してみる。
「なんも言ってませんよ?」
よかった、俺の聞き間違いだった。「あんたは黙ってなさい!」って言ったのはラーちゃんだけか。にしても誰かの声とハもってたような……
でも、天使のアイリスがそんなこと言うわけないよね。エリルあたりかな。
「ごめんなさい、今日は急用があって……」
「なら仕方ないわね。ラーちゃんと紅茶飲みたかったらいつでも来てよね!」
「……また後日魔術を教えてくださいね」
紅茶というより、ラーちゃんの汁が飲みたい。なんちゃって。俺は紳士だから、そんなことを本気で考えるわけがないじゃない。
とりあえず、二人の誘いを断って、帰ろうとしたとき、エリルは上目遣いで俺を見てきた。今日は一緒に帰らないの? とでも言ってるようだ。
「ごめんなさい、エリル、今日はほんとに急用があって、とても、かなり急いでるんです」
そういって、俺は走って男子寮まで帰った。
自分の部屋からセレスの家に入ったとたん、残念なメイドさん―メアリ―が話しかけてきた。
「フィリ様……フィリ様の涎が飲みたいです」
うん、こいつは一旦無視。俺はそのままセレスと俺の部屋に戻って、セレスに話しかけた。
「把握できた? メアリーをいじめた人数」
直接メアリーに聞いたら、多分ドン引きするだろうから、俺はセレスに任せることにした。
「10人だよ~ 死んだ一人を除いて」
10人か、よかった、てっきり学院に在籍している生徒の名前が半分くらい出てくると思ってたから。
ってよくない。死んだフォミなんちゃらを含めたら、メアリーは11人にも調教されていたのかよ。こんなにドМになったのも納得できる。
って納得してどうすんだ!? マジでメアリーの変態ぶりについていけないよ。
百歩譲って認めよう。俺は一日3割くらい発情している。だが、メアリーは日中夜間問わず、常に発情しているから、さすがの俺でも合わせるのは難しい。
確かに、俺もその気になってるときはすごくありがたいけど、そうじゃないときは、こいつ正気かよって疑いたくなる。
男と女の違いだろうと思ってたが、セレスとはずっと一緒にいてもさほど疲れないから、やはりメアリーの問題なのだろう。
「そいつらの居場所は把握できた?」
「ばっちり~」
「さすがセレス」
「てへへ」
普通にしていれば、セレスでもこんなに可愛いんだよね。なんでみんなセレスを見たらそんなにビビるのかな。
街の一つや二つは誰でも焼き払った経験があるだろう。
いや……ないか。一心同体使いすぎて、思考回路が日に日にセレスに似てきたな。
でも、一心同体を使いこなせないと、とてもではないが、『五芒星』とは太刀打ちできないよな。
うん、考えないようにしよう。
「じゃ、やってくれ」
「はい~」
人を攫うなんて簡単なことだから、S級魔術を使う必要がないから、セレスは別に詠唱もせずに、魔術を発動させた。
傍から見たらなにも起きてないように見えるがね。
待ってよ。詠唱が必要ないなら、なぜ初めてセレスと会ったときに、水創生、風創生とか詠唱したのだろう。
分からないからとりあえず聞いてみる。
「終わったよ~」
「ああ、ありがとう。ちょっと気になったことがあって、聞いてもいいか?」
「なに?」
「最初に俺の体を綺麗にしたとき、魔術の詠唱をしたよね。それって必要ないはずでは?」
「だって、うちが何をしようとしているかを説明するのに、詠唱を唱えるほうが一番手っ取り早いでしょう? いきなり水とか風とか飛んで来たらご主人様ビビってたでしょうから」
なるほど、セレスにも気遣いと常識というものがあったんだね。感動して泣きそう。
「そうか。ありがとうね」
「気遣いはちゃんと持ってます! ぷんぷん!」
またしても思念同調が常時発動しているのを忘れてしまった……
メアリーを連れて、二人で地下室に向かっていく。セレスを連れて行かないのは一心同体の種を明かしたくないから。
思念同調で魔術を発動して、地下室を明るくすると、そこにはちょうど十人の男がいた。
メアリーはぶるぶると震えている。自分をいじめてた連中が勢ぞろいで目の前にいたら、俺でも失禁するかもしれない。
俺を見て、何人かは声を上げた。
「フィリ!?」
「フィリ様!?」
「フィリ・イスフォード!?」
「誰だ?」
うん、最後のは無視するとして、ちょっと呼び方を統一する必要があるな。
「うるさい! 俺のことをフィリ・イスフォード様と呼べ!」
監禁するのに、最初は恐怖を与えることが肝心だと聞く。まあ、セレスが言ってたけどね。セレスは前も、D級昇級試験で俺を機嫌を損ねたやつを監禁したことがあって、その経験からきたアドバイスなのだろう。
ほかにだれかを監禁したことはないよね。うん、そう信じたい。
「ふざけんな! 俺らをここに連れてきたのはお前か!」
うん、セレスがやったから、正確にいうと違うけど、ここははいと答えよう。
にしても、こんな状態で、俺に噛みついてくるとは、いい度胸してんな。
「そこにいるのはメアリーじゃないか! まさか俺らに報復するためにこの男の手を借りたのか!?」
おいおい、俺を差し置いて勝手に俺の女に話しかけないでほしいよな。
俺はぶるぶる震えるメアリーを肩を抱いて、とりあえず安心させる。
「お前ら、今の状況分からないのか?」
「うるさい! 早く俺をここから出せ! そうだ、メアリー、お前も可愛がってやるから、早くそこの男に俺らを出すように言うんだ!」
なるほど、「誰だ?」って聞いたのはこの俺に噛みつくバカなのか。ほかの人間は俺がセロを倒したA級魔術師―フィリ・イスフォードって知ってるだろうから、誰もこいつみたいに表立って反抗な態度を取らない。
「うるさい!!」
まさか「うるさい」をさらに音量のデカい「うるさい」で返されると思ってないらしく、俺に噛みついてきた男は呆然としていた。
「お前らはここに監禁する」
「「「えっ!?」」」
全員が俺の宣言にびっくりした。
「だって、俺の女―メアリーに手出したからな」
「そいつが誘ってきたのだ! 俺は悪くない!」
「そうだそうだ!」
「俺は一回しかやってないぞ!」
んなわけあるか。俺より嘘がへただな。ちょっと自信ついてきたかも。
「とりあえず、名前を……」
そう言いかけて、俺はやっぱ名前を聞くのをやめた。どうでもいい実験品なんだ。一々名前覚えるのもなんかめんどくさいし。とりあえず、豚一号から豚十号でいいか。
ちなみに、俺に噛みついてきたやつは豚三号で。
「お前らの名前はこれから豚一号、二号、三号、四号、五号、六号、七号、八号、九号、十号だ!」
俺は一人ひとりを指差して丁寧に名付けた。はあ、これ、地味に疲れるな。途中で舌を噛みそうになったし。
「豚だと!? ふざけんな!」
またしても豚三号が噛みついてきた。
ちょうどいい。こいつを最初の一心同体の実験台にしよう。
「豚三号よ、帰りたいなら簡単だよ? 俺を倒したら、勝手に帰ればいいさ」
「ああ、誰だかしらないが、今すぐにでもお前を殺したいぜ」
「ならば、かかってこい」
俺に挑発されて、豚三号は構えた。
『セレス、準備はできてるか?』
『はい~』
「『一心同体!』」
例によって、俺は髪が伸びて、銀色に輝き始めた。そして、俺の目は『緋色の目』に変わり、目の前の人間の魔術回路と魔力がはっきりと見えるようになった。
見えたからこそ、俺は落胆してしまった。どいつもこいつも魔術回路がか細く、大した魔力もない。セロの魔術回路は神々しく光っていたし、その魔力量はおぞましかったというのに。
セレスに捕獲されて、ここにとらわれた時点で大したことないのは知っていたけど、まさかここまでとはな。
俺の見た目が急に変わったせいか、豚三号は少しひるんだ。だが、次の瞬間、豚三号は俺に対して攻撃魔術を発動した。
「炎の竜!」
へえ、上級魔術か。こいつはなかなかやるではないか。しかもいきなりぶっといのをぶっ放してきた。マジで俺を殺す気だ。
でも、『緋色の目』を持つ今の俺にとって、豚三号の魔術は止まってるように見える。魔術回路の動き、魔力の動向、そのすべてがはっきりと見えるから、周囲の動きがスローモーションに見える。
俺は軽く、メアリーを自分の胸に抱きよせて、一歩右にずれただけで、豚三号の炎の竜が外れて、地下室の壁にぶつかって消滅した。
もちろん、壁に傷一つない。セレスが作りだした地下室だから、その強固さはセレス自身の魔術でもなかなか傷つけれられない。
「次はうちの番よ~」
「うち?」
一心同体の弊害で、俺の人格にセレスの人格も入っているから、決して、豚三号、お前を愚弄してるわけじゃないことをご理解いただきたい。
なんだかんだで、俺の番だと言ったけど、どんな魔術を使うか悩むところだよね。
とりあえず、初級魔術で様子見でもしようか。
俺は豚三号にファイアボールを放った。
次の瞬間、豚三号以外の連中は本能で命の危険を察知したのか、走って必死に豚三号から離れた。
一応、脳内のセレスと相談して、小さいファイアボールを発動することにしたが、どうやら、小さいのは大きさだけだった。
小さい火球が目にもとまらぬ速さで豚三号に直撃して、ただただ広い地下室の体積の三分の一に相当する爆発が起きた。
もちろん、そこには豚三号の遺骨すら残っていなかった。
おい、壁にひびが入ってるじゃないかよ! ただのファイアボールなのに……
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