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第四章
第三十五話 怒りのグーパン
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俺と芽依は新幹線を降りて、乗り継ぎの電車に乗った。
はるとのおばあちゃんちは中二の夏に一回来たことがあって、道は薄々覚えている。
田舎だからか、この時間帯だからか、電車は有り得ないくらい空いていて、俺と芽依は向かい合う席に座って、芽依の作った弁当を食べ始めた。
「いっき、おいしい?」
「うまいよ」
俺がそういうと、芽依は少し微笑んだ。
「いつも聞けなかったからな」
「なにを?」
「おいしいかどうか」
「なんで?」
「姫宮さんもいるし、それに私の弁当を食べるのはいつも昼食のあとだから」
芽依は気を遣っていたのか。
「空腹は最高のスパイスじゃん? そんな時に聞いてもまずいって言われるかもしれないし」
「言わないよ?」
「おいしいも言ってくれないでしょう?」
「うーん、正直いつもは食べ過ぎて、味とか分かんなかったかな?」
「ほら!」
「そういえば、もうそろそろだね」
「話そらさないで!」
露骨に話そらしすぎたのか、芽依はほっぺを膨らました。美少女が台無しだよ。
「ここで降りるよ」
「ま、待って」
俺と芽依は電車から降りて、道沿いに歩いていた。
二年前のことだから、俺は周りを見ながら、記憶の中の建物を探していた。
「あれ、これってもしかしてはるとのおばあちゃんちに向かっているの?」
「えっ? 知ってるの?」
「二年前に、一緒に遊びに来たことあるじゃん」
「芽依ならとっくに忘れてると思ったから」
「私をなんだと思ってるの?」
「天然」
「……天然じゃないもん」
「天然な子はみんなそういうんだよ?」
「うぐっ」
あれ、ってことは芽依なら道を覚えているんじゃないのか?
「芽依ってひょっとしてはるとのおばあちゃんちの場所覚えてる?」
「覚えてるよ? この先を左に曲がって、少し昭和っぽい建物がそうよ」
もしかして、芽依って記憶力いいの? なら勉強にも応用してほしいな。
「ありがとう、芽依、正直俺はうろ覚えなんだよね」
「えっへん」
褒められたらすぐどや顔する子はまだ大人とは言えないな……
芽依が昨日ほど暗くないのは少し気になる。はるとに会えるから? それとも旅行みたいに気分が少し晴れたから?
左に曲がって、芽依はここって指差した。確かにはるとのおばあちゃんちだ! 柿の木が一本植えてあって、壁も色落ちしている。
俺がインターフォンを恐る恐る押したら、しばらくして、おばあちゃんが出てきた。
『はい?』
「おばあちゃん! 私!」
俺が返事する前に、芽依は声を出しておばあちゃんに答えた。ほんとに天然だよね。老人に私、私って連呼したら、へたしたら私私詐欺だと思われるかもしれないというのに……
『芽依ちゃん?』
「はい、芽依です!」
おばあちゃんもすごい記憶力をしているなと軽くびっくりした。でも、芽依みたいな子を一度見たら忘れないだろうし、まして、ここで一週間も滞在したことがあるのだから。
『はよ入りな……はると、客人だよ、お茶淹れてきな』
『えっ!』
おばあちゃんはインターフォンを切り忘れたのか、声が駄々洩れしてくる。
「おばあちゃん!」
おばあちゃんはドアを開いたとたん、芽依はおばあちゃんに抱き着いた。
「大きくなったね」
「はい! 大きくなりました!」
おばあちゃんも芽依のどこを見て言ってるのかな。気のせいだといいが。
「そこにいるのはいつきくんかい?」
「はい! いつきです」
「いつきくんも立派な男の子に成長したね。前はいつも泣きそうな顔していたのに、凛々しくなって」
あの時は結月に片思いしていたから、しょっちゅう結月のことを考えてそんな顔をしていたのかも。
「おばあちゃん、恥ずかしいから、もう言わないで?」
「そうだね、立派な男の子が昔泣き虫みたいだったなんて本人の前で言っちゃいけないもんね」
おばあちゃん、もしかして確信犯?
「もう……」
俺が顔を赤くしたら、おばあちゃんと芽依は笑った。
家の中に入ったら、はるとは背をこっちに向けて正座していた。
「お父さん、お母さん、俺はまだ帰らないからな」
どうやら、俺と芽依のことを自分を家に連れ帰しに来た親だと思い込んでるらしい。
「はると、芽依ちゃんといつきくんが来たよ?」
「芽依?」
おばあちゃんに言われて、はるとはすごい勢いで振り返ってきた。
「うわーっ」
芽依を見てはるとは驚きの声をあげた。
「ばあちゃん、なんで芽依を入れたんだよ!」
「あらま、ダメだったの? もしかして例の女の子って芽依ちゃんなの?」
「そうだよ……」
はるとは好きな女の子が芽依だということをおばあちゃんに伏せていたらしい。
「人がわざわざ会いに来たのに、その言い方はどうなのかな?」
芽依は目を細めて、笑っているように見える。
「いや、芽依、これには事情が……」
「事情? では事情聴取してもいいかな?」
「えっと、芽依の気持ち確かめたくて、つい……」
「つい?」
「おばあちゃんちに隠れた……」
「ほう」
気づいたら、芽依は目を開いて、技を放つ姿勢を取り、拳をはるとのお腹に叩き込んだ。芽依のグーパンがはるとのお腹にめり込んで、しばらく離れることはなかった。
「い、いつき……な、なんで、芽依を連れてきた……んだよ」
はるとは床に倒れこんで、しばらく悶絶していた。
「私は有言実行なんだから」
なるほど、来る途中で明るくふるまってたのは、はるとに会うまで怒りを溜め込むためだったのか……そういえば、はるとに会ったらグーパンをお見舞いするとかなんとか言ってたな。
「勝手に私の日常を壊さないで!」
芽依の怒声が響いて、おばあちゃんはなぜか微笑んでいた。
はるとのおばあちゃんちは中二の夏に一回来たことがあって、道は薄々覚えている。
田舎だからか、この時間帯だからか、電車は有り得ないくらい空いていて、俺と芽依は向かい合う席に座って、芽依の作った弁当を食べ始めた。
「いっき、おいしい?」
「うまいよ」
俺がそういうと、芽依は少し微笑んだ。
「いつも聞けなかったからな」
「なにを?」
「おいしいかどうか」
「なんで?」
「姫宮さんもいるし、それに私の弁当を食べるのはいつも昼食のあとだから」
芽依は気を遣っていたのか。
「空腹は最高のスパイスじゃん? そんな時に聞いてもまずいって言われるかもしれないし」
「言わないよ?」
「おいしいも言ってくれないでしょう?」
「うーん、正直いつもは食べ過ぎて、味とか分かんなかったかな?」
「ほら!」
「そういえば、もうそろそろだね」
「話そらさないで!」
露骨に話そらしすぎたのか、芽依はほっぺを膨らました。美少女が台無しだよ。
「ここで降りるよ」
「ま、待って」
俺と芽依は電車から降りて、道沿いに歩いていた。
二年前のことだから、俺は周りを見ながら、記憶の中の建物を探していた。
「あれ、これってもしかしてはるとのおばあちゃんちに向かっているの?」
「えっ? 知ってるの?」
「二年前に、一緒に遊びに来たことあるじゃん」
「芽依ならとっくに忘れてると思ったから」
「私をなんだと思ってるの?」
「天然」
「……天然じゃないもん」
「天然な子はみんなそういうんだよ?」
「うぐっ」
あれ、ってことは芽依なら道を覚えているんじゃないのか?
「芽依ってひょっとしてはるとのおばあちゃんちの場所覚えてる?」
「覚えてるよ? この先を左に曲がって、少し昭和っぽい建物がそうよ」
もしかして、芽依って記憶力いいの? なら勉強にも応用してほしいな。
「ありがとう、芽依、正直俺はうろ覚えなんだよね」
「えっへん」
褒められたらすぐどや顔する子はまだ大人とは言えないな……
芽依が昨日ほど暗くないのは少し気になる。はるとに会えるから? それとも旅行みたいに気分が少し晴れたから?
左に曲がって、芽依はここって指差した。確かにはるとのおばあちゃんちだ! 柿の木が一本植えてあって、壁も色落ちしている。
俺がインターフォンを恐る恐る押したら、しばらくして、おばあちゃんが出てきた。
『はい?』
「おばあちゃん! 私!」
俺が返事する前に、芽依は声を出しておばあちゃんに答えた。ほんとに天然だよね。老人に私、私って連呼したら、へたしたら私私詐欺だと思われるかもしれないというのに……
『芽依ちゃん?』
「はい、芽依です!」
おばあちゃんもすごい記憶力をしているなと軽くびっくりした。でも、芽依みたいな子を一度見たら忘れないだろうし、まして、ここで一週間も滞在したことがあるのだから。
『はよ入りな……はると、客人だよ、お茶淹れてきな』
『えっ!』
おばあちゃんはインターフォンを切り忘れたのか、声が駄々洩れしてくる。
「おばあちゃん!」
おばあちゃんはドアを開いたとたん、芽依はおばあちゃんに抱き着いた。
「大きくなったね」
「はい! 大きくなりました!」
おばあちゃんも芽依のどこを見て言ってるのかな。気のせいだといいが。
「そこにいるのはいつきくんかい?」
「はい! いつきです」
「いつきくんも立派な男の子に成長したね。前はいつも泣きそうな顔していたのに、凛々しくなって」
あの時は結月に片思いしていたから、しょっちゅう結月のことを考えてそんな顔をしていたのかも。
「おばあちゃん、恥ずかしいから、もう言わないで?」
「そうだね、立派な男の子が昔泣き虫みたいだったなんて本人の前で言っちゃいけないもんね」
おばあちゃん、もしかして確信犯?
「もう……」
俺が顔を赤くしたら、おばあちゃんと芽依は笑った。
家の中に入ったら、はるとは背をこっちに向けて正座していた。
「お父さん、お母さん、俺はまだ帰らないからな」
どうやら、俺と芽依のことを自分を家に連れ帰しに来た親だと思い込んでるらしい。
「はると、芽依ちゃんといつきくんが来たよ?」
「芽依?」
おばあちゃんに言われて、はるとはすごい勢いで振り返ってきた。
「うわーっ」
芽依を見てはるとは驚きの声をあげた。
「ばあちゃん、なんで芽依を入れたんだよ!」
「あらま、ダメだったの? もしかして例の女の子って芽依ちゃんなの?」
「そうだよ……」
はるとは好きな女の子が芽依だということをおばあちゃんに伏せていたらしい。
「人がわざわざ会いに来たのに、その言い方はどうなのかな?」
芽依は目を細めて、笑っているように見える。
「いや、芽依、これには事情が……」
「事情? では事情聴取してもいいかな?」
「えっと、芽依の気持ち確かめたくて、つい……」
「つい?」
「おばあちゃんちに隠れた……」
「ほう」
気づいたら、芽依は目を開いて、技を放つ姿勢を取り、拳をはるとのお腹に叩き込んだ。芽依のグーパンがはるとのお腹にめり込んで、しばらく離れることはなかった。
「い、いつき……な、なんで、芽依を連れてきた……んだよ」
はるとは床に倒れこんで、しばらく悶絶していた。
「私は有言実行なんだから」
なるほど、来る途中で明るくふるまってたのは、はるとに会うまで怒りを溜め込むためだったのか……そういえば、はるとに会ったらグーパンをお見舞いするとかなんとか言ってたな。
「勝手に私の日常を壊さないで!」
芽依の怒声が響いて、おばあちゃんはなぜか微笑んでいた。
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