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4.このままでいさせて
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「絡まれているにように見えた……知り合い?」
ネイトは驚きのあまり、声も出ずにふるふると首を横に振ることしか出来なかった。
「そう」
ぱっと手を離すと、男は諦めた様ですごすごと席を離れていった。
それはアルベルトだった。ラフな服装だが、隠せない気品が滲み出てしまっている。この場にいる全員の熱い視線がアルベルトに注がれる。
このままではまずい、と考えていると、アルベルトの目の前に酒が一杯置かれた。ハッと、顔を上げると、店主がもう一杯を用意しようとしている。
「ここを出ましょう……!」
ネイトは慌てて彼の手を引くと、名残惜しそうに酒を見るアルベルトを無理矢理外に連れ出した。
外の風が、ひんやりと冷たい。火照った頬に当たると心地良かった。
「金を払わずに出てしまった」
あの酒、私に出してくれたのだろう、とアルベルトが心配そうに振り返った。
「ええ、貴方に好意を持った方が奢ってくれたのです」
「なるほど……それはお礼をしなくては、だな」
アルベルトはそう言ってニヤリと意地悪そうに笑った。その顔にまたクラッと来てしまう。
「随分と慣れている、よく来るのか? 」
アルベルトの声が冷ややかに思えた。当然と言えば当然だ、彼にはきっと理解し難い世界のお話。非難めいたことを口にしないのは、彼が思慮深い人間だからだ。
「……アルベルト王子、貴方に不快な思いをさせて申し訳ありません。それに、助けて頂きありがとうございます……ですが、どうしてこのような場所に?」
そう言って、辺りを見回す。きっと、仲間の兵が一緒のはずだ。気まずいところを見られてしまったと、その姿を探すがどうにも見当たらない。
まさか……お一人で? そんなことある訳ないか。
「城を抜け出す君を見つけて、気になって思わず追いかけてきてしまった」
きてしまった、じゃねぇよ。と、思わずネイトは呆れてしまう。普通は、誰か別の人間を寄越すだろう。
「……君と同じで、抜け出したのはこれが初めてじゃないさ」
そう言って、アルベルトは美しく笑って見せた。こんな顔で笑うのか、とついつい見惚れてしまう。
「ははっ、蕩けた顔してる」
随分酔ってるな、と冷えた手でネイトの頬に優しく触れた。なんて贅沢な夢を見ているのだろう、思わずその手に頬を擦り寄せた。
「……質問に答えていないぞ、ネイト・ハワード」
「申し訳ありません。無断外出の件は……反省しています」
「そうではない。ここにはよく来るのか、という質問についてだ」
真っ直ぐにネイトを見つめる瞳は、思っていたより優しいものだった。
「それは……」
ネイトは思わず口籠もった。正直に何もかも打ち明ける勇気はなかった。
「眠れないのです」
それは事実だった。アルベルトは何も言わずに、黙ったまま話の続きを促した。
「眠れないから、一緒に過ごしてくれる相手を探しているのです」
「それは、女性では駄目なのか? ルイス侯爵なら口の堅い娼館を知っている」
「……ただ、隣で眠ってくれる相手が良いのです」
少し猫を被った様な答えだが、致し方ないだろう。こちらの性事情を正直に話して彼に嫌われるのだけは避けたかった。半分本当で、半分は嘘。
「まあ、女性は少し面倒な所もあるからな……」
そう言って、アルベルトは自嘲気味に笑った。何か思い当たる節でもあるのだろうか。兄であるデヴィッド王子に比べて女遊びを全くしないが、彼もそれなりに華やかな噂が絶えない。
羨ましいと思う。アルベルト王子はきっと、女性に乱暴はしないだろう。優しく、優しく抱いてくれる。
ネイトの想像の中で彼は、酷く乱暴にネイトを犯す。両手の自由を奪って、強引に服を剥ぎ取る。熱くなった肌に手を滑らせて焦らすか、前戯も無しに強引に抜き差しされてぐちゃぐちゃになるのか。
でもきっと、現実の彼は優しく丁寧に抱いてくれる。手は優しく握ってくれるし、目を見てキスしてくれる。
そんなことを考えると、きゅっと胸が苦しくなった。酔って緩んだ涙腺が崩壊寸前だった。
「……今夜は邪魔してすまなかったね」
ネイトは驚きのあまり、声も出ずにふるふると首を横に振ることしか出来なかった。
「そう」
ぱっと手を離すと、男は諦めた様ですごすごと席を離れていった。
それはアルベルトだった。ラフな服装だが、隠せない気品が滲み出てしまっている。この場にいる全員の熱い視線がアルベルトに注がれる。
このままではまずい、と考えていると、アルベルトの目の前に酒が一杯置かれた。ハッと、顔を上げると、店主がもう一杯を用意しようとしている。
「ここを出ましょう……!」
ネイトは慌てて彼の手を引くと、名残惜しそうに酒を見るアルベルトを無理矢理外に連れ出した。
外の風が、ひんやりと冷たい。火照った頬に当たると心地良かった。
「金を払わずに出てしまった」
あの酒、私に出してくれたのだろう、とアルベルトが心配そうに振り返った。
「ええ、貴方に好意を持った方が奢ってくれたのです」
「なるほど……それはお礼をしなくては、だな」
アルベルトはそう言ってニヤリと意地悪そうに笑った。その顔にまたクラッと来てしまう。
「随分と慣れている、よく来るのか? 」
アルベルトの声が冷ややかに思えた。当然と言えば当然だ、彼にはきっと理解し難い世界のお話。非難めいたことを口にしないのは、彼が思慮深い人間だからだ。
「……アルベルト王子、貴方に不快な思いをさせて申し訳ありません。それに、助けて頂きありがとうございます……ですが、どうしてこのような場所に?」
そう言って、辺りを見回す。きっと、仲間の兵が一緒のはずだ。気まずいところを見られてしまったと、その姿を探すがどうにも見当たらない。
まさか……お一人で? そんなことある訳ないか。
「城を抜け出す君を見つけて、気になって思わず追いかけてきてしまった」
きてしまった、じゃねぇよ。と、思わずネイトは呆れてしまう。普通は、誰か別の人間を寄越すだろう。
「……君と同じで、抜け出したのはこれが初めてじゃないさ」
そう言って、アルベルトは美しく笑って見せた。こんな顔で笑うのか、とついつい見惚れてしまう。
「ははっ、蕩けた顔してる」
随分酔ってるな、と冷えた手でネイトの頬に優しく触れた。なんて贅沢な夢を見ているのだろう、思わずその手に頬を擦り寄せた。
「……質問に答えていないぞ、ネイト・ハワード」
「申し訳ありません。無断外出の件は……反省しています」
「そうではない。ここにはよく来るのか、という質問についてだ」
真っ直ぐにネイトを見つめる瞳は、思っていたより優しいものだった。
「それは……」
ネイトは思わず口籠もった。正直に何もかも打ち明ける勇気はなかった。
「眠れないのです」
それは事実だった。アルベルトは何も言わずに、黙ったまま話の続きを促した。
「眠れないから、一緒に過ごしてくれる相手を探しているのです」
「それは、女性では駄目なのか? ルイス侯爵なら口の堅い娼館を知っている」
「……ただ、隣で眠ってくれる相手が良いのです」
少し猫を被った様な答えだが、致し方ないだろう。こちらの性事情を正直に話して彼に嫌われるのだけは避けたかった。半分本当で、半分は嘘。
「まあ、女性は少し面倒な所もあるからな……」
そう言って、アルベルトは自嘲気味に笑った。何か思い当たる節でもあるのだろうか。兄であるデヴィッド王子に比べて女遊びを全くしないが、彼もそれなりに華やかな噂が絶えない。
羨ましいと思う。アルベルト王子はきっと、女性に乱暴はしないだろう。優しく、優しく抱いてくれる。
ネイトの想像の中で彼は、酷く乱暴にネイトを犯す。両手の自由を奪って、強引に服を剥ぎ取る。熱くなった肌に手を滑らせて焦らすか、前戯も無しに強引に抜き差しされてぐちゃぐちゃになるのか。
でもきっと、現実の彼は優しく丁寧に抱いてくれる。手は優しく握ってくれるし、目を見てキスしてくれる。
そんなことを考えると、きゅっと胸が苦しくなった。酔って緩んだ涙腺が崩壊寸前だった。
「……今夜は邪魔してすまなかったね」
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