【完結】王子、"それ以上"なんておこがましいことは申しません!〜素直になれない二人は今夜もすれ違う〜

桐野湊灯

文字の大きさ
8 / 47

8.夜が明ける前に

しおりを挟む
 窓を叩く風の音が妙に響く、静かな夜だった。

「ネイト、君は眠る気があるのか?」

 目を瞑ってないことを知ってるぞ、とアルベルトは悪戯っぽく笑った。

「……いいかい? 目を瞑って、しっかり呼吸を整えるんだ」

 耳に熱い息が掛かるたびに、ゾクゾクと体が震えてしまう。

「は……はい、わかりました」

 息も絶え絶えになりながら、言われた通りに必死に呼吸を整える。

「……いい子だね」

 冷えた唇が、ネイトの熱くなった耳を僅かに掠めた。

「~~~っ……!」

 ネイトは歯を食いしばり、はしたない声を聞かせまいと必死に身を捩った。

「ああ、もしかして……耳が弱い? 」

 アルベルトの声はやっぱり少し楽しそうだ。彼からしたら今夜はただの戯れなんだ。

「っ……! アルベルト王子、貴方最初から寝かせる気なんてないでしょう……!」

 くるりと体を反対に向けると、思い掛けず近い距離に今更驚いてしまう。

「あはは、すまない。楽しくなってしまってつい、からかってしまった」

 小さな子どもをあやすようにネイトの肩をぽんぽんと叩くと、アルベルトは真っ直ぐにネイトの目を見つめながら優しく囁いた。

「大丈夫、今はおやすみ。安心して……ね」

 そう言って、何故か先にアルベルト王子の方が意識を失ったようにぐったりと動かなくなってしまった。

ーーここで、寝る!?

 ネイトは思わず心の中で突っ込んでしまった。見ると、静かに寝息を立てている。長い睫毛が扇状に美しく広がっている。

「しかも寝付くのが早い……」

ーーこの寝顔を間近で見られるなんて、本当に信じられない。

 いまだに夢を見ているようだった。どれだけ見ていても飽きることはない。むしろ永遠に見ていられる。

 夢なら醒めないうちに、現実なら終わらぬうちに。ネイトは彼の何一つも見逃さぬように、静かに呼吸するのをただ見ていた。

 この人が生きているのを見ているだけでいい。

 ネイトは、再び強く思った。何でもない風に、こんな自分にも優しくしてくれる、こんな無邪気で天使のような方を汚してはいけない。




 ふと、窓の外が青白く染まっていることに気付いた。

「……どうした?」

 そう言って、またベッドに引き戻されてしまう。暖かい腕の中にすっぽり収まると、アルベルトは満足そうに笑った。

「すっかり冷えてしまっているじゃないか」

 アルベルトはすっかり冷たくなってしまったネイトの足に、自身の足を絡ませた。まるで、恋人同士のような仕草だ。ネイトの体に熱がこもる。

「何もしないよ、そういう約束だからね」

「別に俺は……」

 少し毒気を含んだような、寂しそうな言い方に思わずネイトは反論し掛けたが、ハッと口を噤んだ。

「何? 続きを聞かせて」

 促すように、ゆったりと問い掛ける。まだ半分微睡んでいるような、深い声が心地良い。

「……もうすぐ、夜が明けますね」

「ああ、そうだね」

「夜が明ける前に、ここを出ましょう」

 アルベルトの腕からやっと解放される。

「貴方の後を、私も遅れて出て行きます」 

「ネイト、君も一緒に帰ろう」

 帰り道は同じだろう、とアルベルトは何でもない風に言った。

「私のような者と一緒にいたことを誰かに知られた場合、貴方にご迷惑が掛かるでしょう」

 要らぬ噂を立てられる可能性がある。それなら、王子一人の夜遊びの方がまだ可愛いくらいだろう。

「迷惑なんて思わない」

 アルベルトの瞳は真っ直ぐで、その言葉に嘘がないことが分かった。

 本当に優しい人だ、ネイトはその視線から逃れるようにうつむいた。

「……ありがとうございます。そのお言葉だけで十分です」

 ネイトは、自然と深く頭を下げていた。そうしなければいけないと思った。

「君は……美しいね」

「ありがとうございます」

 きっちり留めたボタン、常に見えるところに城の紋章を掲げること。これが貴方の求める姿だと知っている。

 夜が完全に明けたら、この関係も終わってしまう。


 
「本当に一緒じゃなくてもいいのか?」

「ええ、アルベルト王子」

 部屋を出る前、アルベルトはまだ心配そうにネイトを気遣った。それを何でもない風に見送る。

「ネイト、君が良ければ私がいつでも力になる。だから、よくも知らない男と一夜を過ごす前に……私をその候補にいれなさい」

 私ばかりがぐっすり眠ってしまって申し訳ない。アルベルトはバツが悪そうに笑った。

「いいえ、そんな……。私は光栄です。アルベルト王子、本当に……ありがとうございました」


「今、私が言ったことを忘れないように……いいね? それじゃあ、またあとで」

 アルベルトは、そっとネイトの額に唇を落とした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルを「小説家になろう」様でも掲載しています。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

転生先は、BLゲームの世界ですか?

鬼塚ベジータ
BL
ティト・ロタリオは前世の記憶を思い出した。そしてこの世界がBLゲームの世界であることを知る。 ティトは幸せになりたかった。前世では家族もなく、恋愛をしても、好きな人に好きになってもらったこともない。だからこそティトは今世では幸せになりたくて、早く物語を終わらせることを決意する。 そんな中、ティトはすでに自身が「悪役令息に階段から突き落とされた」という状況であると知り、物語の違和感を覚えた。 このシナリオは、どこかおかしい。 というところから始まる、ティトが幸せになるまでの、少しだけ悲しいお話。 ※第25回角川ルビー小説大賞最終選考作品です

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

処理中です...