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11.約束
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「それより、ブレイデンこそ何か良いことでもあったのか?」
ネイトが訊ねると、ブレイデンは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて答えた。
「そうなんです。実は俺、階級が一つ上がるんですよ」
「何だって!? すごいじゃないか……もっと早く言えよ」
興奮したネイトは、ブレイデンのがっしりした肩を思わず強く掴んでしまった。
「ありがとうございます。訓練中に偶然通りかかった隊長の目に留まったらしいんですよ。あの、"大型犬みたいな男は誰だ"って。多分、運が良かったんです」
そう言って、ブレイデンは照れ臭そうに俯いたまま笑った。
「運じゃない。ブレイデンはいつも休みの日だって、欠かさず鍛錬して努力していただろう。それが実を結んだんだよ。チャーリーとも言ってたんだ、ブレイデンは出世するぞ、って」
チャーリーもブレイデンのことはよく目に掛けていた。もちろん、ネイトもだ。
「……ありがとうございます。俺、ネイトさんに直ぐに知らせたかったんです」
「ありがとう、俺も本当に嬉しいよ。おめでとう、ブレイデン」
だけど、あまり無茶をするなよ。と、ネイトは釘を刺しておいた。ブレイデンは頑張り過ぎるあまり、体を壊す直前まで追い込むことも厭わない。それをネイトが心配すると、ブレイデンはいつも『かあちゃんみたいなこと言わないでください』とむくれる。だが、今日の彼はただ笑って、『わかっています』と言った。
「あの……俺、ご褒美が欲しいです」
唐突にブレイデンが甘えたような口調になった。
「おお、いいよ。何でも買ってやる」
以前、ブレイデンが見習いから正式に近衛兵になった際は、彼が欲しがっていた手袋を贈った。
今度は何だろう、可愛い弟分の為ならとネイトは張り切って訊ねた。
「ネイトさんと……サシ飲みがしたいです」
返ってきた答えは思わず拍子抜けしてしまうものだった。
「そんなことでいいのか? もちろんだよ。外出届出すから、近いうちに休みの日を教えて」
「やった! 約束ですからね……でも、王子の誕生祭の後かなぁ、チャーリーさんたちもピリピリしてるから許可をくれなそうじゃないっすか。あと、手合わせして下さい」
ブレイデンは、持っていた棒をネイトに手渡した。自分は小屋の裏で見つけたブレイデン曰く"いい感じ"の棒を手に持っている。
「……一回だけだぞ、戻りが遅いとキャンベルさんに叱られる」
執事長のキャンベルは使用人仲間に対して、にこりともしないような厳格な人だ。半世紀以上クレール城に支えていて、スティーブ家の者からの信頼も厚い。彼は非常に観察眼が鋭く、いつも上手く立ち回ってるネイトの裏を見抜いてしまうので気が気ではない。
今も休憩がてらどこかで油を売っていのではないかと、目を光らせているに違いない。
「もしかして、体力が落ちてるんじゃないです?」
挑発的な笑みを浮かべるブレイデンは生き生きとしている。自信満々に木の棒を掲げる姿も様になっていた。
彼が城に入って間もない頃はよく練習相手になったものだ。元々体を動かすことが好きなチャーリーやネイトは、仕事の合間に遊び半分で付き合っていた。しっかりと教育を受けて型を知っているチャーリーと違って、ただの喧嘩しか知らないネイトは型も何もない無茶苦茶な戦い方だが、それがいい相手になったらしい。
「馬鹿力で俺の体を壊さないでくれよ?」
煽るような言葉を吐くブレイデンに、ネイトも負けじと言い返した。
ブレイデンはグッと言葉に詰まったような顔をして、直ぐに気を取り直して棒を構えた。
「ネイト!」
自分を呼ぶ声に、ネイトは飛び上がるほど驚いた。とうとうキャンベルが自分を探しに来たのかと思い、恐る恐る振り返ると、それはもっと厄介な人物だった。
ネイトが訊ねると、ブレイデンは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて答えた。
「そうなんです。実は俺、階級が一つ上がるんですよ」
「何だって!? すごいじゃないか……もっと早く言えよ」
興奮したネイトは、ブレイデンのがっしりした肩を思わず強く掴んでしまった。
「ありがとうございます。訓練中に偶然通りかかった隊長の目に留まったらしいんですよ。あの、"大型犬みたいな男は誰だ"って。多分、運が良かったんです」
そう言って、ブレイデンは照れ臭そうに俯いたまま笑った。
「運じゃない。ブレイデンはいつも休みの日だって、欠かさず鍛錬して努力していただろう。それが実を結んだんだよ。チャーリーとも言ってたんだ、ブレイデンは出世するぞ、って」
チャーリーもブレイデンのことはよく目に掛けていた。もちろん、ネイトもだ。
「……ありがとうございます。俺、ネイトさんに直ぐに知らせたかったんです」
「ありがとう、俺も本当に嬉しいよ。おめでとう、ブレイデン」
だけど、あまり無茶をするなよ。と、ネイトは釘を刺しておいた。ブレイデンは頑張り過ぎるあまり、体を壊す直前まで追い込むことも厭わない。それをネイトが心配すると、ブレイデンはいつも『かあちゃんみたいなこと言わないでください』とむくれる。だが、今日の彼はただ笑って、『わかっています』と言った。
「あの……俺、ご褒美が欲しいです」
唐突にブレイデンが甘えたような口調になった。
「おお、いいよ。何でも買ってやる」
以前、ブレイデンが見習いから正式に近衛兵になった際は、彼が欲しがっていた手袋を贈った。
今度は何だろう、可愛い弟分の為ならとネイトは張り切って訊ねた。
「ネイトさんと……サシ飲みがしたいです」
返ってきた答えは思わず拍子抜けしてしまうものだった。
「そんなことでいいのか? もちろんだよ。外出届出すから、近いうちに休みの日を教えて」
「やった! 約束ですからね……でも、王子の誕生祭の後かなぁ、チャーリーさんたちもピリピリしてるから許可をくれなそうじゃないっすか。あと、手合わせして下さい」
ブレイデンは、持っていた棒をネイトに手渡した。自分は小屋の裏で見つけたブレイデン曰く"いい感じ"の棒を手に持っている。
「……一回だけだぞ、戻りが遅いとキャンベルさんに叱られる」
執事長のキャンベルは使用人仲間に対して、にこりともしないような厳格な人だ。半世紀以上クレール城に支えていて、スティーブ家の者からの信頼も厚い。彼は非常に観察眼が鋭く、いつも上手く立ち回ってるネイトの裏を見抜いてしまうので気が気ではない。
今も休憩がてらどこかで油を売っていのではないかと、目を光らせているに違いない。
「もしかして、体力が落ちてるんじゃないです?」
挑発的な笑みを浮かべるブレイデンは生き生きとしている。自信満々に木の棒を掲げる姿も様になっていた。
彼が城に入って間もない頃はよく練習相手になったものだ。元々体を動かすことが好きなチャーリーやネイトは、仕事の合間に遊び半分で付き合っていた。しっかりと教育を受けて型を知っているチャーリーと違って、ただの喧嘩しか知らないネイトは型も何もない無茶苦茶な戦い方だが、それがいい相手になったらしい。
「馬鹿力で俺の体を壊さないでくれよ?」
煽るような言葉を吐くブレイデンに、ネイトも負けじと言い返した。
ブレイデンはグッと言葉に詰まったような顔をして、直ぐに気を取り直して棒を構えた。
「ネイト!」
自分を呼ぶ声に、ネイトは飛び上がるほど驚いた。とうとうキャンベルが自分を探しに来たのかと思い、恐る恐る振り返ると、それはもっと厄介な人物だった。
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