【完結】王子、"それ以上"なんておこがましいことは申しません!〜素直になれない二人は今夜もすれ違う〜

桐野湊灯

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12.秘密

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「アルベルト王子」

 ネイトは、ブレイデンに小さく「ごめん」と謝ると声のする方に駆け寄った。

「お呼びでしょうか」

 冷たいアイスブルーの瞳は不機嫌そうに揺れていた。昨夜とは別人のように思える。ピッタリとした濃紺の上衣は彼に良く似合っていた。

「……君も無事に着いたようで安心した」

 随分と温度の低い声だった。昨夜はよく笑ってくれたのに、なんて烏滸がましいことは言わない。

「ご心配を、ありがとうございます。その、昨夜は……」

「痣になっている……これはどうした?」

 アルベルトはネイトの手を取った。左の手の甲にはうっすらと青痣が出来ていた。アルベルトがすっとブレイデンの方へ視線を向けたことに気付き、ネイトは慌てて疑いを晴らした。

「いえ、これは昨夜どこかでぶつけたのでしょう。酔っ払うとよくあるのです」

 気付くと覚えの無い痣が増えていることなんて、ネイトにとってはしょっちゅうあることだった。

「気を付けなさい……少し、庭を歩きたい。一緒に来てくれるか?」

 アルベルトが目を細めた。本当に昨夜とは別人だ。空気がいちいちピリッと締まる。

「はい、アルベルト王子」

 それでも、こんな自分にも丁寧に誘ってくれる。本当に優しい方だと思う。それなのに、どうしても彼を前にすると邪な妄想ばかりしてしまう。

「……彼に安心するように言ってくれないか、よほど君が心配らしい」

 振り返ると、ブレイデンは心配そうな顔でこちらを見ていた。片手を小さく上げて"心配するな"と合図すると、ようやく表情を和らげた。

「申し訳ありません」

 苦笑いしながら詫びると、アルベルトもふっと笑った。

「別に構わない……君も煙草を吸うのか?」

「ええ……まあ、はい」

 しどろもどろに答える。アルベルトが喫煙を好ましく思っていないことは誰でも知っている。

「ほどほどにな」

 アルベルトは渋々といった風に眉を顰めた。

 菜園を抜けると、少し入り組んだ薔薇の庭がある。ここは人気が少ない為、密会の場所としても有名だ。アルベルトもそれを知っていたらしい。

「君は……ネイトは意外なことが多過ぎる。煙草を好むタイプには思えないし、酒を飲むようにも見えない」

「あはは、よく言われます」

 童顔だからだろうか、ネイトが煙草を吸っている姿を見ると慣れない人間はギョッとしたような顔をする。酒にいたってはクレール城で一番強いと自負している。

「むしろ、酒は嫌いかと」

 先日の会議のことだろう。ルイス公爵側につかなかったから。

「……好きですよ。ただ、酒の所為でダメになることを身を持って知っているので」

 なるほど、とアルベルトは大きく頷いた。

「アルベルト王子こそ、あんな夜更けにどちらへ?」

 敢えて軽やかな雰囲気で訊ねる。お忍びでどこかの女性にでも会いに行く途中だったのか。

「言っているだろう、君の姿が見えたから」

 アルベルトは大真面目な顔をして答えた。

「気になって追い掛けてしまったのさ」

 何故信じないんだ、と少し怒ったように訴えるが、自分の為だったなんて信じられる訳がない。それなのに必死なアルベルトに、ネイトは思わず笑ってしまう。

「ありがとうございます」

 そう言うと、アルベルトはただ諦めたように笑った。

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