【完結】王子、"それ以上"なんておこがましいことは申しません!〜素直になれない二人は今夜もすれ違う〜

桐野湊灯

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13.これは思慕

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 いつもこうだ、ブレイデンは深く溜息を吐いた。ネイトはいつだってブレイデンだけのものにはならない、なる訳がないんだ。

 本当は今日だってただ鍛錬がしたくてウロウロしていた訳ではない。ここに来ればネイトに会えると思ったからだ。

 階級が上がったことを、早くネイトに知らせたかった。少しでも強くなって認めて欲しかった、ただの弟分ではなく、一人の男として。

 そう言うと、ある人は"恋だ"と言った。だが、ブレイデンはそうは思わなかった。これは憧れと尊敬だ、"恋"なんてただ安っぽくて見返りを求めるような、そんな気持ちではない。



「おい、ブレイデン見たぞ」

「マイルズ」

 マイルズは同じ近衛兵としてクレール城に仕えている。見張りを終えて戻るところらしい。彼はブレイデンに比べると小柄で華奢だが、その分軽やかに動くことが出来る。つり目で猫のような顔をしていて、話好きで噂好きの男だ。ブレイデンとは正反対のようで、何故だか気が合った。

「美人だよな、ネイトさん」

 にやにやとブレイデンの顔色とネイトの後ろ姿を交互に見ながら笑った。

「……そうだな」

 敢えて興味がない振りを装うが、マイルズはお構いなしに話し続ける。

「階級が上がること言えたのか、愛しのネイトさんに」

 そう、この気持ちを"恋"と言ったのはマイルズだった。

「言えたよ。でも、その言い方はやめろ。ネイトさんに迷惑だ」

 ブレイデンが嗜めると、マイルズはあまり分かっていないような返事をした。

「はいはい、それでネイトさんは何だって?」

「普通に、おめでとうって」

「まあ、そうだろうな」

「サシ飲みの約束した」

「そりゃあ、すごい」

 マイルズは自分のことのように嬉しそうに笑った。

「うかうかしてると他の奴に取られるぞ。ネイトさんを狙ってる男は多いからな。アルベルト王子だってほら、いつもあんなスーンってしてるのに」

 にっこにこじゃないか、と視線を向ける。言うほど"にっこにこ"ではないが、心なしかいつもより表情が柔らいように見える。

「……そうだな」

「ネイトさんも実は結構遊んでるっていう噂もあるからな……俺もあの人の首にでっかい噛み跡付いてるの見たことあるし」

 こそっと囁くようにマイルズが言った。そう言えば、以前もこんなことを言っていた。
 マイルズはそれを言いふらしたりしない。彼は、噂を色んな所から仕入れてくると、それをブレイデンとだけこっそりと楽しむ。なんでも、自分と笑いのポイントが似ていて楽しいらしい。彼のそんな所を、ブレイデンも気に入っている。

「……犬にでも噛まれたんだろう」

 前回も同じ言葉を返した気がする。

「だから、そんな大事件なら、もっと噂になっているに決まってるだろう」

「ネイトさんは真面目な方だ、そんなことある訳ないだろう」

 ネイトは手を抜くコツを知っていて、時折今日みたいに休憩時間外に一服することもしばしばあるが、これを知っているのはブレイデンだけだ。基本的にネイトは誰からも真面目で誠実だと思われている。きっちりと首元まで留めたボタンは、まさに"清廉潔白"を表している。

 マイルズは少し小馬鹿にしたように鼻で笑った。

「そういう真面目な人こそ、夜は大胆だったりするんだ」

「……もういい」

 これ以上はネイトさんの評判を落としているだけの様な気がして、ブレイデンは無理矢理に会話をぶった斬った。

「待て待て……俺が言いたいのは、そうじゃないんだ。お前はあの人のこと神か何かだと思ってるかもしれないけど、同じ人間だぜ?」

「俺は別にそんなつもりは……」

 ない、とは言い切れなかった。兄の様に慕っている、それは間違いではない。

 最近は、自分でもよく分からないと思っていた。ネイトはいつだってブレイデンのことを気に掛けてくれる。誰からも一目置かれるようなネイトが、ブレイデンの前では気の抜けた顔を見せてくれる。

 彼の中の一番は自分でありたいなんて、おこがましいことは思わない。だが、自分の中の一番は紛れもなく彼だけだ、きっとこれから先もずっと。

ーー思っていないはず、だったのに。

 欲が出てしまったのだ、彼の一番になりたい。それが今なら少し、許されるような気がしてしまった。
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