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6.役者は揃った?
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「あちらです。部屋は一つですが、中で区切られていますのでご安心を」
フィンは紳士的に笑っている。
「お荷物は後で運ばせますので、先に談話室にご案内致します。ご令嬢たちは、そちらで過ごすことの方が多くなると思います」
「何か御座いましたら、いつでも何なりとお申し付けを。ガーランド家の使用人がすぐに問題を解決致します」
そういえば、ここで過ごすにあたって本来は付き人を連れてきてはいけないのよね。
令嬢たちがどれだけ自分のことを自分で出来るのかという判断をするためだと言うが、付き人同士のいざこざを避ける為だとも言われている。先々代の時は邪魔な令嬢を暗殺するということもあったらしい。
「ロイド、どうせ城の中は調べてあるんだろう。どこか見ておきたい場所はあるか?」
「いや、大丈夫だ」
「では、ジゼル様。参りましょう」
手を胸に当てて、フィンは礼儀正しく頭を下げた。そしてすぐにロイドに体を向き直すと、小さな声で囁いた。
「……ロイド、くれぐれもダニエル王子に迷惑を掛けることはないように。もし、迷惑を掛けるようであれば殺す」
にっこりと笑いながら、顔に似合わない脅しをかけた。
深紅の重厚な扉を開くと、大きなソファが四つ置かれていた。その内の二つは既に持ち主が決まっているようで、どう見ても三人以上座れるソファに、一人ずつ優雅に座っている。
「皆様には就寝時以外、ほとんどこちらでお過ごしいただきます」
フィンの言葉に付け足すように、ロイドがそっと耳打ちをする。
「ここでの過ごし方も、ポイントになるんだ」
「……それは、息がつまりそうね」
適当に部屋に籠っていれば良いという考えは甘かったようね。
「私も同感ですわ」
ひっそりとロイドに返事をしたつもりが、どうやら聞かれてしまったらしい。
読んでいた本から顔を上げて、一人の女性が声を上げた。つられて、もう一人反対を向いて座っていた女性も手元から顔を上げた。背中を向いていたので気付かなかったが、刺繍をしているようだった。
声を掛けてきた女性の方は、透き通るような白い肌に長い睫毛とアイスブルーの瞳が特徴的だった。襟の詰まった、漆黒のストンとした形のドレスが目を惹く。
彼女は確か……。
「セレスティ・ウィンター」
名前だけ名乗ったかと思うと、彼女はまた視線を手元の本に戻してしまった。名前通り冷たい女ね。ふと、横に立つロイドに目をやると、目尻が下がった、実に情けない顔をしている。
ああ、そうだ。こういう女性に弱いものね。
顔が可愛らしくて、少しツンケンした女の子が好きだということを私は知っている。女の子は素直でにこにこしているに限ると思うけど、彼曰くそれは"分かってない奴"の言うことだそうだ。
「ジゼル・サマーよ」
それでも、しばらくは上手くやっていかないといけない。にっこり笑って大人の対応をしてあげた。むろん、セレスティの方はもうこちらに興味を持っていないようだったのだが。
「まあ、それじゃあ貴方が……お悔やみを言うわ」
パッと立ち上がったもう一人の女性は、茶色の髪を肩口で切り揃えている。辛子色のドレスは肩まで大きく開いている。さっきの女性がセレスティなら、彼女は恐らくケイティ・オータム。
お悔やみってなんのことかしら……。
涙声で眉を下げて、胸を詰まらせたような表情をしている。今にも抱き締めんばかりに寄り添おうとする彼女に、僅かに身を引いてしまう。暴言の類ではないようだ。
コホン、とロイドが後ろで小さく咳払いをした。
「アリシア・サマー、お前の遠い親戚だ」
ロイドが小さな声で囁くのを見て、一瞬ケイティは眉を顰めたが、あまり気にしていないようだった。
「ああ、ありがとう。でも実は彼女とは本当に遠い親戚で……あまりよく知らないの」
これはロイドと考えた最適な返しだった。これなら、彼女のことを聞かれたりしても下手な嘘をつかなくても済む。
『嘘はできるだけ少ない方がいい』
昨夜いつになく真面目な表情でロイドが言った助言だった。
「そうだったの……彼女、とてもいい人だったの。ああ、私はケイティ・オータムよ」
「ジゼル・サマーよ。よろしくね」
すると、何やらガヤガヤと部屋の外が騒がしい。
「何の騒ぎだ……? すまない、少し様子を見てくる」
フィンは訝しげな顔をして、そっと後手に扉を開けた。扉の外では、ちょど白髪の使用人の一人が立っていた。恐らくフィンを呼びに来たのだろう。
私は全神経を背中に集中させて話を聞こうとした。
「フィンさん、ちょうどよかった。実はメリル様が昨夜遅くに屋敷を抜け出したようで……」
「メリル様が? どうして……」
「それが……、『こんな所で死ぬのはいや』だとおっしゃっていたそうです」
なんだか、とんでもないことになってるわね。
どうりで一人少ないと思った。ロイドの持っていた資料には参加する令嬢の情報はほとんどなかった。ただ、亡くなったアリシア・サマーを含めて四人いたはず。
「お待ちください!」
高らかに、鼻に掛かったような甘い声がした。何処かで聞いたことのある声だわ。
「メリル・スプリングは、ここにいますわ!」
フィンは紳士的に笑っている。
「お荷物は後で運ばせますので、先に談話室にご案内致します。ご令嬢たちは、そちらで過ごすことの方が多くなると思います」
「何か御座いましたら、いつでも何なりとお申し付けを。ガーランド家の使用人がすぐに問題を解決致します」
そういえば、ここで過ごすにあたって本来は付き人を連れてきてはいけないのよね。
令嬢たちがどれだけ自分のことを自分で出来るのかという判断をするためだと言うが、付き人同士のいざこざを避ける為だとも言われている。先々代の時は邪魔な令嬢を暗殺するということもあったらしい。
「ロイド、どうせ城の中は調べてあるんだろう。どこか見ておきたい場所はあるか?」
「いや、大丈夫だ」
「では、ジゼル様。参りましょう」
手を胸に当てて、フィンは礼儀正しく頭を下げた。そしてすぐにロイドに体を向き直すと、小さな声で囁いた。
「……ロイド、くれぐれもダニエル王子に迷惑を掛けることはないように。もし、迷惑を掛けるようであれば殺す」
にっこりと笑いながら、顔に似合わない脅しをかけた。
深紅の重厚な扉を開くと、大きなソファが四つ置かれていた。その内の二つは既に持ち主が決まっているようで、どう見ても三人以上座れるソファに、一人ずつ優雅に座っている。
「皆様には就寝時以外、ほとんどこちらでお過ごしいただきます」
フィンの言葉に付け足すように、ロイドがそっと耳打ちをする。
「ここでの過ごし方も、ポイントになるんだ」
「……それは、息がつまりそうね」
適当に部屋に籠っていれば良いという考えは甘かったようね。
「私も同感ですわ」
ひっそりとロイドに返事をしたつもりが、どうやら聞かれてしまったらしい。
読んでいた本から顔を上げて、一人の女性が声を上げた。つられて、もう一人反対を向いて座っていた女性も手元から顔を上げた。背中を向いていたので気付かなかったが、刺繍をしているようだった。
声を掛けてきた女性の方は、透き通るような白い肌に長い睫毛とアイスブルーの瞳が特徴的だった。襟の詰まった、漆黒のストンとした形のドレスが目を惹く。
彼女は確か……。
「セレスティ・ウィンター」
名前だけ名乗ったかと思うと、彼女はまた視線を手元の本に戻してしまった。名前通り冷たい女ね。ふと、横に立つロイドに目をやると、目尻が下がった、実に情けない顔をしている。
ああ、そうだ。こういう女性に弱いものね。
顔が可愛らしくて、少しツンケンした女の子が好きだということを私は知っている。女の子は素直でにこにこしているに限ると思うけど、彼曰くそれは"分かってない奴"の言うことだそうだ。
「ジゼル・サマーよ」
それでも、しばらくは上手くやっていかないといけない。にっこり笑って大人の対応をしてあげた。むろん、セレスティの方はもうこちらに興味を持っていないようだったのだが。
「まあ、それじゃあ貴方が……お悔やみを言うわ」
パッと立ち上がったもう一人の女性は、茶色の髪を肩口で切り揃えている。辛子色のドレスは肩まで大きく開いている。さっきの女性がセレスティなら、彼女は恐らくケイティ・オータム。
お悔やみってなんのことかしら……。
涙声で眉を下げて、胸を詰まらせたような表情をしている。今にも抱き締めんばかりに寄り添おうとする彼女に、僅かに身を引いてしまう。暴言の類ではないようだ。
コホン、とロイドが後ろで小さく咳払いをした。
「アリシア・サマー、お前の遠い親戚だ」
ロイドが小さな声で囁くのを見て、一瞬ケイティは眉を顰めたが、あまり気にしていないようだった。
「ああ、ありがとう。でも実は彼女とは本当に遠い親戚で……あまりよく知らないの」
これはロイドと考えた最適な返しだった。これなら、彼女のことを聞かれたりしても下手な嘘をつかなくても済む。
『嘘はできるだけ少ない方がいい』
昨夜いつになく真面目な表情でロイドが言った助言だった。
「そうだったの……彼女、とてもいい人だったの。ああ、私はケイティ・オータムよ」
「ジゼル・サマーよ。よろしくね」
すると、何やらガヤガヤと部屋の外が騒がしい。
「何の騒ぎだ……? すまない、少し様子を見てくる」
フィンは訝しげな顔をして、そっと後手に扉を開けた。扉の外では、ちょど白髪の使用人の一人が立っていた。恐らくフィンを呼びに来たのだろう。
私は全神経を背中に集中させて話を聞こうとした。
「フィンさん、ちょうどよかった。実はメリル様が昨夜遅くに屋敷を抜け出したようで……」
「メリル様が? どうして……」
「それが……、『こんな所で死ぬのはいや』だとおっしゃっていたそうです」
なんだか、とんでもないことになってるわね。
どうりで一人少ないと思った。ロイドの持っていた資料には参加する令嬢の情報はほとんどなかった。ただ、亡くなったアリシア・サマーを含めて四人いたはず。
「お待ちください!」
高らかに、鼻に掛かったような甘い声がした。何処かで聞いたことのある声だわ。
「メリル・スプリングは、ここにいますわ!」
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