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25.準備が出来たら
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その日は、朝から大忙しだった。私たち四人は大きな鏡のある部屋で、夕方の舞踏会への準備をしていた。
もちろん、男子禁制だ。私たちは持ってきた衣装や小物をありったけ持ち寄って、ああでもない、こうでもないと準備を進めていた。
「貴方、もう少しここに詰め物をした方がいいのではなくて?」
セレスティはメリルの胸元をつんと指差して笑った。メリルは、自分のドレスがなく、残された姉のドレスを着ていた。落ち着いたアザレア色のドレスは、メリルが動くたびに胸元がパカパカと開いてしまう。
「ハンカチを多めに持っているから、お貸ししますわ」
「きーーっ!」
威嚇しながらも、メリルは大人しく女性の使用人とセレスティに詰め物を入れて貰っている。
「ジゼル、綺麗ね」
ケイティがうっとりと私のドレスに触れた。フィンのお金でロイドが選んだこのドレスは、確かに美しかった。アイスブルーを基調としたドレスは、肩がざっくりと開いていてウエストの切り替えから下は大きく広がり、ニュアンス違いの裾がグラデーションになっている。
「ありがとう、ケイティも素敵よ」
ケイティはサテン生地のイエローのドレスに長い手袋をしている。古めかしくもあるが、彼女らしい洗練された上品さがある。
「……首元が少しさみしいんじゃない?」
「ええ、どれをつけるか迷ってしまって」
テオ王子からもらったティアラとネックレスは、なんとなく部屋を出る直前まで宝石箱から出すことが出来なかった。舞踏会にはつけていくつもりだ。
「迷ったらみんなつけていきなさい、お披露目してやらなきゃ宝石が可哀想よ」
セレスティはそう言って、また冷ややかに笑った。彼女は首元まで詰まったレースのドレスを着ている。繊細な黒のレースが彼女の白い肌を一層際立てている。全面とは対称的に、背中は腰まで大きく開いていた。
長めのシンプルなネックレスと、大振りの華やかなネックレスを交互に当てながら、どちらを身に付けるか悩んでいるようだった。
基本的な準備が終わってしまうと、使用人の女性たちはそそくさと部屋から出て行ってしまった。細やかな仕上げは自分たちでやれ、ということらしい。
「舞踏会って、王子以外に誰か来るのかしら」
メリルは既に落ち着かないようで、自分の姿が色んな角度で鏡に映るようにくるくると回っている。
「確か、ガーランド家と親交の深い家柄の方達も来るんじゃなかった?」
セレスティが答えると。メリルはパッと顔を輝かせた。
「じゃあ、素敵な男性に出会えるかもしれないわね」
「諦めるの早過ぎでしょう」
呆れたように笑うと、セレスティはメリルを手招きして引き寄せた。どうやら、髪を梳かしてあげるらしい。この二人も、なんだかんだ仲が良いのよね。
「……メリルは、どんな男性が好みなの?」
「私はね、顔が良くてお金持ちで優しい人!」
「それ、最高ね」
セレスティは珍しく楽しそうに笑った。
「貴方は?」
「え、私? そうね……」
唐突に視線を向けられてドギマギしてしまう。
「一緒にいて楽しい人、かしら」
「ありきたりね」
ぴしゃりと一蹴されたかと思うと、セレスティはもういつものスーンとした表情に戻っていた。
「大事なことよねぇ」
と、ケイティが困ったようにフォローしてくれた。
「そういう、貴方はどうなのよ?」
「私は"王子"よ」
セレスティの答えに、緊張が走った。他愛のないおしゃべりを楽しんでいたが、本来私たちは敵同士だった。
「……空気を悪くしたわね。そんなつもりじゃないの」
セレスティは淡々と話し始めた。それは私たちに話すというより、ただ吐き出したかっただけなのかもしれない。
「私は昔から、ガーランド家の妃になるために教育されてきたの。両親の願いなのよ、やっと妃候補に選ばれてとても喜んでいたわ」
そう言ってセレスティは自嘲気味に笑った。
「この世界で、王子の他に素敵な男性がいるなんて、教えてもらわなかったのよ。貴方たちが羨ましい、私には生まれてからずっと、好きな男性なんていなかったし、考えたこともなかった」
セレスティは器用にメリルの髪を結い上げた。少し低めの位置で纏められた髪は、彼女によく似合っていた。
「このまま知りたくなかったわ。ねえ、ケイティ、貴方はどんな男性が好みなの?」
「私もそうね、一緒にいて楽しい人かしら。私、狩りが大好きなの」
メリルは「ひえっ」と小さく叫び声を上げて、露骨に顔を歪めた。そうだ、スプリング家では狩猟NGだったわね。
「へえ、意外ね」
女性が狩猟に参加することは稀だ。それも好き好んで楽しむなんて……。
「そうかしら、というかね。狩りをしている男性を見るのが好きなの」
「ああ、一発で仕留められるとキュンと来るわよね」
それは私にも分かる。腕が悪いと、なんだか冷めてしまうのよね。
「でも、あまり狩りに夢中になってしまうのも嫌だわ。父上がそうだったの、よく私と母を待たせていたわ」
セレスティは遠い日を懐かしむように目を細めた。
「あら、男性はそういうものよ。あまりに他に夢中になるなら後でお仕置きすればいいわ」
「ケイティって結構過激よね」
「ふふ、私も結構腕がいいのよ」
ケイティは弓矢を引く真似をして見せた。
もちろん、男子禁制だ。私たちは持ってきた衣装や小物をありったけ持ち寄って、ああでもない、こうでもないと準備を進めていた。
「貴方、もう少しここに詰め物をした方がいいのではなくて?」
セレスティはメリルの胸元をつんと指差して笑った。メリルは、自分のドレスがなく、残された姉のドレスを着ていた。落ち着いたアザレア色のドレスは、メリルが動くたびに胸元がパカパカと開いてしまう。
「ハンカチを多めに持っているから、お貸ししますわ」
「きーーっ!」
威嚇しながらも、メリルは大人しく女性の使用人とセレスティに詰め物を入れて貰っている。
「ジゼル、綺麗ね」
ケイティがうっとりと私のドレスに触れた。フィンのお金でロイドが選んだこのドレスは、確かに美しかった。アイスブルーを基調としたドレスは、肩がざっくりと開いていてウエストの切り替えから下は大きく広がり、ニュアンス違いの裾がグラデーションになっている。
「ありがとう、ケイティも素敵よ」
ケイティはサテン生地のイエローのドレスに長い手袋をしている。古めかしくもあるが、彼女らしい洗練された上品さがある。
「……首元が少しさみしいんじゃない?」
「ええ、どれをつけるか迷ってしまって」
テオ王子からもらったティアラとネックレスは、なんとなく部屋を出る直前まで宝石箱から出すことが出来なかった。舞踏会にはつけていくつもりだ。
「迷ったらみんなつけていきなさい、お披露目してやらなきゃ宝石が可哀想よ」
セレスティはそう言って、また冷ややかに笑った。彼女は首元まで詰まったレースのドレスを着ている。繊細な黒のレースが彼女の白い肌を一層際立てている。全面とは対称的に、背中は腰まで大きく開いていた。
長めのシンプルなネックレスと、大振りの華やかなネックレスを交互に当てながら、どちらを身に付けるか悩んでいるようだった。
基本的な準備が終わってしまうと、使用人の女性たちはそそくさと部屋から出て行ってしまった。細やかな仕上げは自分たちでやれ、ということらしい。
「舞踏会って、王子以外に誰か来るのかしら」
メリルは既に落ち着かないようで、自分の姿が色んな角度で鏡に映るようにくるくると回っている。
「確か、ガーランド家と親交の深い家柄の方達も来るんじゃなかった?」
セレスティが答えると。メリルはパッと顔を輝かせた。
「じゃあ、素敵な男性に出会えるかもしれないわね」
「諦めるの早過ぎでしょう」
呆れたように笑うと、セレスティはメリルを手招きして引き寄せた。どうやら、髪を梳かしてあげるらしい。この二人も、なんだかんだ仲が良いのよね。
「……メリルは、どんな男性が好みなの?」
「私はね、顔が良くてお金持ちで優しい人!」
「それ、最高ね」
セレスティは珍しく楽しそうに笑った。
「貴方は?」
「え、私? そうね……」
唐突に視線を向けられてドギマギしてしまう。
「一緒にいて楽しい人、かしら」
「ありきたりね」
ぴしゃりと一蹴されたかと思うと、セレスティはもういつものスーンとした表情に戻っていた。
「大事なことよねぇ」
と、ケイティが困ったようにフォローしてくれた。
「そういう、貴方はどうなのよ?」
「私は"王子"よ」
セレスティの答えに、緊張が走った。他愛のないおしゃべりを楽しんでいたが、本来私たちは敵同士だった。
「……空気を悪くしたわね。そんなつもりじゃないの」
セレスティは淡々と話し始めた。それは私たちに話すというより、ただ吐き出したかっただけなのかもしれない。
「私は昔から、ガーランド家の妃になるために教育されてきたの。両親の願いなのよ、やっと妃候補に選ばれてとても喜んでいたわ」
そう言ってセレスティは自嘲気味に笑った。
「この世界で、王子の他に素敵な男性がいるなんて、教えてもらわなかったのよ。貴方たちが羨ましい、私には生まれてからずっと、好きな男性なんていなかったし、考えたこともなかった」
セレスティは器用にメリルの髪を結い上げた。少し低めの位置で纏められた髪は、彼女によく似合っていた。
「このまま知りたくなかったわ。ねえ、ケイティ、貴方はどんな男性が好みなの?」
「私もそうね、一緒にいて楽しい人かしら。私、狩りが大好きなの」
メリルは「ひえっ」と小さく叫び声を上げて、露骨に顔を歪めた。そうだ、スプリング家では狩猟NGだったわね。
「へえ、意外ね」
女性が狩猟に参加することは稀だ。それも好き好んで楽しむなんて……。
「そうかしら、というかね。狩りをしている男性を見るのが好きなの」
「ああ、一発で仕留められるとキュンと来るわよね」
それは私にも分かる。腕が悪いと、なんだか冷めてしまうのよね。
「でも、あまり狩りに夢中になってしまうのも嫌だわ。父上がそうだったの、よく私と母を待たせていたわ」
セレスティは遠い日を懐かしむように目を細めた。
「あら、男性はそういうものよ。あまりに他に夢中になるなら後でお仕置きすればいいわ」
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