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第二章
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今日は自転車をこぎ、テニス部の大会が行われる大きな公園に来た。
淳悟さんと瑠々との夏休みが待ってるんだ、と思うと気持ちに余裕が生まれ、練習も楽しく参加できた。
テニス部は夏休み前に部員が複数やめてしまい、ダブルスに出場する人数が足りなくなってしまったから、助けてほしいと別クラスの優貴ちゃんに頼まれた。
「部活の助っ人してくれるって聞いたよ。私とダブルス組んでくれない?」って。変なことで噂になっているみたい。事実だけど。
優貴ちゃんが、小学生時代から相当テニスが上手いと評判の子だというのは、練習に参加してから知ったことだ。
私は体を動かすのは好きだし、運動はかなり出来るけど、同じ運動を同じ子たちとするのがどうにも苦手で、どこにも所属していない。たぶん、集団行動が苦手だし……自分の居場所を作れないでいる。
「梨緒子ちゃーん!」
ボールが外に出ないよう、高いフェンスに囲われたコートの中から優貴ちゃんが手を振ってくれた。クラスが違うから部活に参加した時くらいしか話さないけど、明るくて元気な子だ。
フェンスの中に入り、優貴ちゃんや他の部員、顧問の先生に挨拶をする。
他の学校の生徒も、コート脇に陣取り試合の準備を進めていた。
「ありがとう来てくれて」
優貴ちゃんがニッコニコの笑顔を向けてくれる。一学期とは比較にならないほど日焼けした肌は、練習量の多さを物語っている。
「ううん」
こういう時、うまいことが言えない。
「がんばろうね!」とか「足引っ張ったらごめんね」とか、なんでもいいようはあるのに、すぐに言葉が出てこなくて、相槌だけ返してしまう。
前は気付かなかったけど、孤独を感じるようになって考えてみた。
どうやらみんな、リアクションに困ってしまうみたい。
だからかな、深く仲良くなれないのは。
そりゃそうだよね。話しかけて「うん」しか返さなかったら、自分のこと嫌いなのかな? とすら思うもん。
かといって、あんまりあれこれ口を開くと嫌味なことを言ったり相手が傷つくことを言ったりしてしまう。
瑠々とは、あんなにぽんぽん会話できるのにな……。瑠々は傷つかなそうだからかな。
私の相槌のシンプルさに驚きつつ、優貴ちゃんはニカっと白い歯を見せた。
「がんばろうね!」
優貴ちゃんは、こんな私にも気を遣って会話してくれる。
何度か夏休みの練習に参加した時も、こうだった。
「うん、がんばろう!」
なんとか、引きつった笑顔で返事ができた。
すぐにコミュ力アップするわけじゃないけど、少しは進歩できたかな。
で、大会が始まったわけなんだけど、私と優貴ちゃんのダブルスは、本当に優勝してしまった。一年生部門だけど。
「まさか勝てるなんて! 梨緒子ちゃんのおかげだよ」
優貴ちゃんは嬉し泣きしていた。
客観的に見れば、優貴ちゃんは今日の参加者の中では誰よりも上手い。よっぽど下手じゃなければ、ダブルスを組む相手は誰でも優勝できるだろう。
でも、私のおかげって言ってくれている。謙虚で、気遣い屋さんで、笑顔が素敵な素晴ら しい女の子だ。
私だったら勝った直後に、ちょっと練習しただけの人数合わせの子にこんなこと言えないな……と思うと、人としての出来に差があるように感じて悲しくなる。
仲良くなりたい。優貴ちゃんみたいな素敵な女の子と友達になりたい。
ちゃんと、コミュニケーションをとらなきゃ。
「優貴ちゃんがたくさん練習したからだよ。私は足引っ張らないようにし……」
言葉の途中で、人の波に遮られた。
「優貴ー! おめでとう!」
「やっぱすごいね、優貴ちゃん!」
テニス部のみんなが駆け寄ってきて、優貴ちゃんを囲んだ。
私の言葉は、テニス部員の声にかき消されて優貴ちゃんには届いていないみたい。
みんなの輪からこぼれ落ちたら、もう元に戻れない。
瑠々と淳悟さんに、会いたくなった。
淳悟さんと瑠々との夏休みが待ってるんだ、と思うと気持ちに余裕が生まれ、練習も楽しく参加できた。
テニス部は夏休み前に部員が複数やめてしまい、ダブルスに出場する人数が足りなくなってしまったから、助けてほしいと別クラスの優貴ちゃんに頼まれた。
「部活の助っ人してくれるって聞いたよ。私とダブルス組んでくれない?」って。変なことで噂になっているみたい。事実だけど。
優貴ちゃんが、小学生時代から相当テニスが上手いと評判の子だというのは、練習に参加してから知ったことだ。
私は体を動かすのは好きだし、運動はかなり出来るけど、同じ運動を同じ子たちとするのがどうにも苦手で、どこにも所属していない。たぶん、集団行動が苦手だし……自分の居場所を作れないでいる。
「梨緒子ちゃーん!」
ボールが外に出ないよう、高いフェンスに囲われたコートの中から優貴ちゃんが手を振ってくれた。クラスが違うから部活に参加した時くらいしか話さないけど、明るくて元気な子だ。
フェンスの中に入り、優貴ちゃんや他の部員、顧問の先生に挨拶をする。
他の学校の生徒も、コート脇に陣取り試合の準備を進めていた。
「ありがとう来てくれて」
優貴ちゃんがニッコニコの笑顔を向けてくれる。一学期とは比較にならないほど日焼けした肌は、練習量の多さを物語っている。
「ううん」
こういう時、うまいことが言えない。
「がんばろうね!」とか「足引っ張ったらごめんね」とか、なんでもいいようはあるのに、すぐに言葉が出てこなくて、相槌だけ返してしまう。
前は気付かなかったけど、孤独を感じるようになって考えてみた。
どうやらみんな、リアクションに困ってしまうみたい。
だからかな、深く仲良くなれないのは。
そりゃそうだよね。話しかけて「うん」しか返さなかったら、自分のこと嫌いなのかな? とすら思うもん。
かといって、あんまりあれこれ口を開くと嫌味なことを言ったり相手が傷つくことを言ったりしてしまう。
瑠々とは、あんなにぽんぽん会話できるのにな……。瑠々は傷つかなそうだからかな。
私の相槌のシンプルさに驚きつつ、優貴ちゃんはニカっと白い歯を見せた。
「がんばろうね!」
優貴ちゃんは、こんな私にも気を遣って会話してくれる。
何度か夏休みの練習に参加した時も、こうだった。
「うん、がんばろう!」
なんとか、引きつった笑顔で返事ができた。
すぐにコミュ力アップするわけじゃないけど、少しは進歩できたかな。
で、大会が始まったわけなんだけど、私と優貴ちゃんのダブルスは、本当に優勝してしまった。一年生部門だけど。
「まさか勝てるなんて! 梨緒子ちゃんのおかげだよ」
優貴ちゃんは嬉し泣きしていた。
客観的に見れば、優貴ちゃんは今日の参加者の中では誰よりも上手い。よっぽど下手じゃなければ、ダブルスを組む相手は誰でも優勝できるだろう。
でも、私のおかげって言ってくれている。謙虚で、気遣い屋さんで、笑顔が素敵な素晴ら しい女の子だ。
私だったら勝った直後に、ちょっと練習しただけの人数合わせの子にこんなこと言えないな……と思うと、人としての出来に差があるように感じて悲しくなる。
仲良くなりたい。優貴ちゃんみたいな素敵な女の子と友達になりたい。
ちゃんと、コミュニケーションをとらなきゃ。
「優貴ちゃんがたくさん練習したからだよ。私は足引っ張らないようにし……」
言葉の途中で、人の波に遮られた。
「優貴ー! おめでとう!」
「やっぱすごいね、優貴ちゃん!」
テニス部のみんなが駆け寄ってきて、優貴ちゃんを囲んだ。
私の言葉は、テニス部員の声にかき消されて優貴ちゃんには届いていないみたい。
みんなの輪からこぼれ落ちたら、もう元に戻れない。
瑠々と淳悟さんに、会いたくなった。
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