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7話〜王のおくりもの
しおりを挟むコウは王に会うのに気のりしなかった。
王から、いい返事がもらえるとは、思っていなかったからだ。
面会を申し出ると「しばし待て」と兵士に言われ、コウとクリスティはその場で1時間ほどの間待たされた。待機する為のイスもなく、人に待たされるのを嫌うコウは内心イライラしていた。
あまりに暇だったので、クリスティに「しりとりしようぜ」と申し出る。
しりとり自体の概念がこの世界ないのだろう。ルールを知らないクリスティに説明をし、一応把握したようなので開始するがやりとりは、わずか6回目で終わった。お互いの世界の名詞を知らないので、長続きはしなかった。
その間に商人や剣士、文官風の男が王と面会をし、そして去っていくのを眺めた。
立って待ってるのも面倒になったので、コウとクリスティは膝をくずして実家のように壁を背にして、くつろいでいた。
周りには行儀が悪いと思われるかも知れないが、己の体面を保つことに執着のないコウは、別になんとも思わなかった。クリスティは、コウがくつろいでるので後追いしたように見えた。
兵士が何かいいたげに「……あの」と話かけてきたが、「何か問題が? 法律違反でもしていますか俺?」と黙らせた。
やっと王との面会にこぎつけ、事情をコウは説明した。
「あい分かった!」と王は威勢よく返答する。
王が大臣に目配せすると、うなづいた大臣が奥の部屋に消えていった。きっと素晴らしい贈り物を持ってくるのだろう。そうコウは思った。
「良かったですね勇者様」とクリスティが話かけてくる。
「意外だったよ。何ももらえねえと思ってたから」
「勇者殿。これを受け取るがいい」王は自信に満ちた声でそう言う。
コウは大臣から宝石で彩られた宝箱を受け取る。
大きさ的に、金貨や宝石か金銀財宝の類が入っているのだろうと考える。
「開けてもいいですか」とコウ。
「無論だ」と王。
宝箱を開けると、たちまちコウととクリスティの顔が曇った。中に想像したような金銀財宝はない、それどころか剥き出しの銅貨が転がっているだけだった。
それも、せいぜい20枚程度。
後頭部を後ろから殴られたような表情の、コウとクリスティ。
そんなことはお構いなしに、大臣が大真面目に口上を述べた。
「それから、これを武器として使ってください」
大臣から渡されたのは、木の棒きれであった。
どっからどう見たって、ただの棒きれだ。
コウの空いた口は塞がらなかった。
クリスティは呆れた表情をしていた。
目を合わせ互いにこりゃダメだろ、と目配せする。
「国からのささやかな贈り物です。50ジェナリスあります、これを魔王を討伐する為の整えとしてください。武器は使う者の命を繋ぎます、お金は腹を満たし宿で旅の疲れを癒し、襲いくる寒さや暑さからしのいでくれることでしょう」
大臣がクソ真面目に、まるで伝説の武器と数えきれない金銀財宝の贈り物をしたかのように、説明を始めた。
タチの悪い冗談にしか思えないかった。
それでもコウはこの世界の価値感が分からない。一応クリスティに小声で聞いた。もっとも宝箱に入っている貨幣が、ばらけた剥き出しの銅貨のみだったので期待はしてないが。
小声でクリティに話しかけるコウ。
「クリス。50ジェナリスてどれくらいの価値だ? それで何ができる?」
「ランクにもよるんですけど、安宿に1回か2回ほど泊まったらなくなっちゃうお金です勇者様。多分冗談で言ってるんですよね……デルタ王も大臣も」
「冗談で済めばいいけどさ。このまま魔王のケツを木の棒で叩いてこいって、本気で言いそうだぞ」
「ええーそんな、まさか!?」
「その、まさかさ」
デルタ王の方へ向き直る。
追加の贈り物は期待できそうもない。
このまま切り上げられる不安が、どうしても拭えなかった。
「それで勇者殿は、御前試合までどうするのかね?」
ああ。やっぱりか、コウはそう思った。
「すいません。あの~この木の棒きれで魔王のケツを叩いてこいってことですか? それともこれは、伝説の武器か何かなんでしょうか? いやね、自分にはただの木の棒きれに見えるんですよ」
表情を取り繕い、遠慮がちに言ったコウだが本心では木の棒きれで、王と大臣を百叩きにして、しばきあげたい気分であった。
「その通りだが何か? 勇者殿ならその気になれば、木の棒きれで魔王を倒すことも可能であろう」王はあっさりと白状した。
いったい王は勇者という存在を、何だと思っているのだろうか?腹も減るし、ケガもするし、病気にだってなる、ただの弱い生身の人間だというのに。怒ると髪が金色になる人種だとでも思っているのだろうか。
「俺、伝説の戦闘民族とかじゃないんですけど」
だんだんとコウは腹が立ってきた。
「勇者殿は銭湯が好きなのかね?」
「戦闘は好きじゃないですよ。どちらかといえば平和主義だと自分では思ってます」
「ワシは銭湯はけっこう好きでの。気分が良くなるから、各地の名所によくお忍びで行っておった」
「そうなんですか。ならいい物を装備した方が安全でしょう。木の棒なんか何の役にも立ちませんよ」
「そんなことはないぞ。下が滑る場所もあるからの木の棒は案外、役に立つ」
「そうですか。それなら結構です」
「勇者殿にも、銭湯の良さを教えてあげたいとこだの」
「戦闘は好きになれそうもないですね。まずそれなりのお金がないと、どこにも行けませんからね危なかしっくて」
「そうかそうか。では用意させよう大臣、あれを持って参れ」
「よろしいのですか?」
「うむ」
王が大臣に目配せすると、今度はパンパンに膨らんだ薄い皮の袋を持ってきた。受け取ると、ずしりとした重さをコウは感じた。
少しだけ袋のヒモを緩め開けると中には、眩く輝く銀貨が大量に入ってあった。
コウは一枚取り出し、裏返したりしてじっくりと観察する。
「クリス。これ偽銀貨とかじゃないよな?」
「失礼ですよ勇者様。ちょっと貸してください……そうですね、銀貨のフチを削ったりもしてないしこれは本物でしょうね」
「じゃあ本物がごく僅かで、偽物がほとんどなのかもな。後で全部鑑定してくれよ」
「分かりました」
王は思った。
せっかく贈り物をしたのに、なんて失礼な奴等だ、と。
そしてほんの少しだけだが、コウの石橋を叩いて渡るような慎重さに感心をする。
「ありがとうございます王。このお金は大切に使わせていただきます、それと気が向けばこの木の棒で魔王のケツを叩いてやりますよ。気が向けばね」
コウは深々と頭を下げてから、何ともやる気のないセリフを吐いて出て行った。クリスティも頭を下げ慌て出て行った。
「よろしかったのですか王。そこそこの金を与える形になってしまいましたが」
なんとも不服そうに大臣は言った。
大臣も王同様に、コウの存在は邪魔者という認識であった。
その王が敵に塩を送ったので、心変わりでもしたのかと不安が顔を出した。
「勇者というのは記号だよ、市勢の人々にとってはな。王冠よりもよっぽど分かりやすい希望の記号だ。あやつが弱かろうと愚か者であろうと、人々は記号を大層に大切に扱うだろう」
「すると記号を傷つたとあらば、我々はどうなるのでしょう。考えると気になって夜も眠れなそうです」
「糾弾されるであろうな。だからこそ時には見せかけの誠意も必要なのだよ。それにあやつは口が軽そうだ、わずかな銅貨しかもらえなかったと市勢で口々に言われては、寝覚めが悪くなりそうだ」
「しかし、先ほどの贈り物はアーレス王子との再戦に響くかもしれません。勇者殿が勇ましく木の棒きれを装備して、御前試合に出てくるのなら話は別ですが」
「それは問題ない大臣」
王はそう言い、謁見の間の中腹に設置してあったチェスの駒のような形の台座に収まっていた、青い水晶ような玉を持ってきた。鷹の爪が青い玉を掴んだような形のオブジェだ。
「これを見よ大臣」
王は指で水晶のような玉をスクロールすると、コウの顔が映し出され、ステータス画面のような数字が次々と表記されていく。
「先ほどの試合のとおり、アーレスと比べるとあやつは桁違いに弱い」
コウ
レベル2
体力28
力16
防御6
速度11
魔力1
反魔力38
跳躍力3
剣技☆
格闘☆☆
スキル
アクションリプレイ(ためる、遅らせる、再現する)
コウのステータスを見て大したことないな、と笑みを浮かべていた王。
「とても勇者とは思えん貧弱な能力だ。少々反魔力が高いようだが、我が城を守る兵士の方がまだ強いぞ」
奇妙な項目に気づいた、大臣が言及した。
「これは何でしょうかね?」
「アクションリプレイ? はて見たことも聞いたこともないな。スキルは武芸の達人や魔法の熟練者が発現するものと聞いているが、レベル2の弱者にスキル発現とはな」
「よろしいのでしょうか? 未知のスキルを持つ相手の御前試合」
「アーレスに負けなど万に一つもない。あやつのレベルは36だ。それに次の試合は真剣だからな。アーレスの持つ魔剣以上の武器を、あやつが持ってくるなどあり得んよ」
王は兵士に御前試合の日程を、コウに知らせるように伝令を飛ばした。
御前試合開催まで残り10日。
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