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13話~魔女の家
しおりを挟む「思ったんですけどね」
「うん」
「あの油商人の方に頼んで、事態の収集を図ってみては? 情報を扱うのに長けている方に見えました」
と意外な提案してきたクリスティ。
陰口を叩かれる度に窮屈な思いをしている、アリスの身を案じてのことだ。
クリスティ自身も勇者の変態行為に付き合っている情婦などと、すれ違った冒険者にヒソヒソ話をされ、ブチ切れて、空間にあらん限りのマジックミサイルを一度に飛ばしたことがあった。
冒険者は悲鳴を上げて逃げ出し、クリスティは限界を超えて魔法力を使い果たし草原で寝込むハメになったこともあった。
怒らせると一等怖い。
コウはそう記憶した。
「そうだな。金で解決できるならした方がいいと思う。アリスはどう思う?」
「有難いとは思いますが、わざわざお金を使って解決していただくのは申し訳なく思います」
と、しおらしくアリスは言う。
表情から本心で言っているように思えた。
「解決したいのか、したくないのかどっちなんです?」
柔らかくクリスティが促す。
「はい。解決したいですけど……私がこき使われてたとか、悲惨な目にあってたとかの話はしてほしくないです。フォボスさんの耳に入るとあとが怖くて」
「フォボスのパーティーにいた時の件は言わないでおくよ。じゃ、決まりだな。
あまりに金がかかるようなら一時見送りだが、持ち金で依頼できるなら帰ってから頼んでみよう」
コウ達はギルドで薬草採取の依頼を受けた。
内容は草原の薬草を6ダース積んで、白銀草原の外れにある家まで直接届けて欲しいというものだ。
他の仕事は魔物の退治や護衛、採取、民間人の雑用などあったが、多くは魔物退治の仕事が占めていた。一番下のGランクなので、選べる依頼の制限はあったが、その中でも一番楽そうなのをコウは選んだのだった。
「さてここが依頼主の家だな」
鎮座する大きな岩と特徴的な一本松の木を背景に、ポツンした一軒家があった。
木の造りで普通の家のように見えた。
「魔女の家って言うからには、ツルみたいな草が家を覆ってて、屋根はカラスのたまり場。中で大きなツボに怪しい液体でも混ぜてそうなイメージがあったんですが……意外ですね」
家を見て、けっこう失礼なことを言ってのけるクリスティ。
「依頼主にそんな機嫌損ねるようなことは言わないでくれよ。魔女の呪いをかけられるかも」
「こんにちわー。ギルドからの依頼で薬草を持ってきました」
そう言い二度ドアのノックを叩くがしばらく反応はない。
留守だとすると今日の全てが無駄足になる。
そう思ったコウが肩をすくめてお手上げのポーズ見せたところ、ドアがゆっくりと開いた。
「おや? お客さんかね」
と顔をのぞかせたのは眼鏡をかけた細身で初老の男。
オーバーオールのような服装の恰好で、パッと見、コウは農家ぽい恰好だなと思った。しかし、家の主は魔女と聞いていたので少々面喰らったのは確かだ。
「ここファティナさんの家ですよね? 自分たちは冒険者ギルドの使いで、ご依頼の薬草を持ってきました」
「ああ、冒険者の人かい。おーい婆さん、冒険者の人が家の前に来とるぞー」
「いつもみたいに、上がってもらいな」
依頼主の声だけがコウ達の耳に飛び込んできた。はっきりとした声で生命力に溢れた力強い声だとコウは感じた。例えるなら肝っ玉母ちゃんとでも呼称すべきか。
「お邪魔します」
「ども」
丁寧に挨拶をするアリスと、軽い挨拶をして上がろうとするコウは初老の男に腕で止められた。
無言で止められたコウは、何事だと男に疑問符をつけた視線を向ける。
「いやスマンスマン。悪気があるわけじゃないんだ、この家ではまず玄関で靴の汚れを落とすのが決まりなんだよ。ほれ、そこの椅子にブラッシング用のクシがあるだろ、その後は布で汚れをとってから入ってくれ」
「分かりました」
「婆さん曰く、穢れを落とす儀式だそうだ」と男が補足する。
少々面喰らったのはコウだけでなく、アリスもらしい。不可思議そうな表情をしているが、素直に指示に従った。
「おや? 外のお嬢さんは入ってこないのかい?」
とコウに質問を投げかけてくる男の細い目が、さらに細くなった。
「クリスは教会の人間なんで、立ち入るのは宗教上の関係でご遠慮したいそうです」
「そうか……」
そう言われたので初老の男は諦めたのだが、中から魔女が指示を飛ばしてきた。
「誰か知らないけど、しみったれたこと言ってないで上がりな。夜まで外で星の数でも数えるならそれもいいさね」
中に上がれという意図の声が飛んできたので、コウはクリスティに声をかけた。
クリスティは外で、直立不動の槍みたいに突っ立っていた。
「クリス。婆さんが中に入れとさ」
「でも、教会の教えがありますから」
「破ったら何かペナルティはあるのか?」
「いえ、ありませんけど」
「じゃあ入った入った。これも仕事の内だ、それに誰も言わなかったらバレやしないよ」
とコウはクリスの背中を押し、しぶしぶクリスも中に入る。
中は広く案外綺麗な部屋であったが、物が多かった。
棚に並べられた数々のビン、豪華そうに見える背表紙の本達、紐に吊るされたワカメのように干されている名称不明の草、6本で一つの槍のような燭台、水晶玉や、鏡のついた化粧台、などなどが目についた。
どれもこれもビンテージ色が強く、コウは売れば金になりそうだな、なんて思った。
コウ達が物珍しさから部屋を見渡していると。
「そこヤカンあんだろ。水を入れて火にかけな」
と奥の部屋から魔女の声が飛んできて、アリスがヤカンを見つけて指示どおり動いた。
「それからお前達何人いるんだい?」
「3人です」
「ほんでコーヒー? お茶どっちだい?」
コウ達は顔を見合わせてから、各々が口を開こうとすると。
「全員お茶でいいね。アタシから見て左の奥だ、そこの下から2番目、そこに茶が入ったビンがある。カップはそこら辺にあるから6人分用意しな。あたしゃ今日はコーヒーて気分じゃないんだ」
とさらに早口で人使いの荒い伝令が飛んできた。コウは俺は家事援助に来たヘルパーさんじゃねえんだけどなぁ……やれやれ、と思いながらカップを探した。
初見なので、なかなか指示された品が見つからず、初老の男の手を借りて、ようやくカップを揃えた。
なかなか現れない魔女に痺れを切らして、初老の男が気を使って呼び出した。
「婆さん。いつまでやってんじゃ、冒険者の方達が、ずっと茶も飲まず立ったままで待っとるだろうが」
と語気を強めて、奥の部屋にいる魔女に言うのだった。
「うるさいねジジイ。研究を糧にする魔女にとって時間は貴重なんだよ。時間は砂にもなりゃダイヤにもなる、凡百の人間と一緒にすんじゃないよ」
「なーにがダイヤじゃ。研究以外は呑んだくれるか寝てるだけの癖に」
と初老の男は愚痴をこぼした。
「ようやく一段落したよ。待たせちまったね」
と、まったく悪気なさそうに言い現れた魔女は、至って普通の恰好をした女だった。
上はチュニック、下はスカートとごくごく普通の庶民の恰好だ。
婆さんと言われてる割には若いな……痩せたら美人かもしれないがけっこう太い。顔、胸、二の腕を見てからコウは思った。
クリスティは警戒心をひっこめず、上目遣いに魔女の動向を観察している。お前も錬金術の実験道具にしてやろうか! イーヒッヒッヒッ!と本性を現し、呪いの魔法をかてくるかも……こんなイメージを想像していた。
アリスは部屋の辺りを見回し、こういう素敵なお家に住んでみたいな~と全く別のことを考えていた。
魔女はコウの視線に気づいて「魔女が普通の恰好をしてるのはおかしいかい?」と質問。
「あ、いえ。魔女っぽくはないかなと」
ちょっと太いな~と思って見ていたコウは、本音を当てられず胸を撫でおろした。
「戦士が魔法使いの恰好はしないだろ。同様に魔法使いも戦士の恰好はしない。何故か? 戦士には魔法使いの服は脆すぎて戦向きじゃない。魔法使いが戦士の着る鉄や鋼を纏うと重さで魔力がそがれちまう。一般の服は誰だって着るだろう。魔女だって普通の人間と同じさ」
と言い長いパイプで、タバコのようなものをふかし始める。
「おや? よく見たら神の犬である神官サマもいるじゃないか。魔女に神の教えでも説きにきたのかい?」
明らかに小馬鹿にしたクリスへの言葉。
クリスはひるまず瞳に強い力を込めて返した。
「魔女は魔の者たちが使う禁呪。それに呪われた力を使うと聞いております。そのような者たちに語る神の言葉はありません、魔に混じればその者はたちどころに魔に染まります」
魔女は余裕を見せ、不敵な笑みを携え椅子に腰かけ返した。
「ま。アンタらも座りなよ、突っ立っていても足が棒になるだけだよ」
しかし、椅子は2つしかなかったのでアリスと初老の男が座り、コウは床に腰かけ適当にくつろぐ。
クリスティは立ったまま、不愛想な顔を崩さなかった。
「いいかい神官の娘。教会でどう教わったのか知らないが、アンタ魔女をどんな奴だと思ってるんだ?」
「ホウキで空を飛び怪しげな研究をしたり、人に幻術を見せたり雨を降らせたり、悪魔を呼び出す存在。そのように教会では教わっています」
「こいつはお笑いだぞジジイ。アタシはホウキで空を飛べるらしい、それならホウキで月まで飛んでいって、ホウキを一番目立つとこに突っ立っててやる。そこを自分の領土にして、悪魔を召喚させ小屋を建てさせるかな。アンタもホウキで月まで飛んで来たら、ご褒美にパイを焼いてやるよ」
と妙におかしそうに笑って、クリスティに返した。
初老の男は神妙な顔をして、クリスティに向きなおる。
「神官の娘さん。この婆さんは確かに怪しげな研究をしちゃいるが、ホウキで空を飛んだり、人に幻術をかけたりはせんよ。変わり者でちょいと口の悪い婆さんだがな」
「お二人はどんな関係なんですか?」
ここでアリスがようやく口を開く。
そこはコウも気になってたところだが、コウとしては話を切り上げ、薬草を受け取ってもらい、サインをもらってとっとと帰りたい、これが本心であった。オッズの言うとおり話が長くなりそうだ……と思いつつ空気を読んで口を閉じていた。
「ワシはこの婆さんの近所に住む知人てとこじゃな。この婆さんの作るポーションは質が良くて捻挫とかに良く効く。それを貰う代わりにワシは野菜だの米だの食料を供給している。まあ物々交換てとこじゃな」
「まさか娘。この爺さんとアタシが夫婦にでも見えたのかい?」
「てっきりそうなのかと」
「冗談じゃないね。こんなジジイ、アタシだって選ぶ権利くらいある。それに若い時はもっといい男の騎士や貴族と付き合ったもんさ。身寄りをなくして娘夫婦が家を出て、孤独でさみしいジジイの相手を仕方なくしてるだけさ」
「ワシだって、こんな口の悪い婆さんはゴメンじゃぞ」
とりあえず憎まれ口は叩くが仲がいいらしい。
「おやぁ……アンタ高い素質の魔力があんね」
と魔女が指を差したのはアリスだった。
当のアリス本人が一番驚き、自分を指差し意外そうな表情をしている。
コウはよっしゃ! 俺か!? と思ったので内心がっくり肩を下した。
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