怠惰な勇者の異世界の歩き方~勇者様とわたし団

綾栗ナオ

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14話〜魔女との交渉〜本物のメサイア文献

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「ほんとに……私なんかに、魔力の素質があるんでしょうか?」

 椅子に座ったまま空の両手に力を込めるアリス。
 うつむき加減で、その声には真剣みがあった。期待の裏返しからか声は若干の震えがある。奴隷とした売られた境遇のアリスは自己評価が低く、自分の中に見知らぬ才があるなど、これまで思ってもみなかったのだった。



「周りが気づかなきゃ、自分も気づかず才能は眠らせたまま墓に入る人間はごまんといる。まっ魔法に限らず良くあることさね」

 魔女ファティナは足組みをし、長いパイプからふぅっと紫煙を吐いた。別段アリスの様子が気になる風もなく、この話題はそこで終わるかに思われたが――


「私に! 魔法を教えていただけないでしょうか!」


 自己主張することが少ないアリスが、珍しく自ら言い出した。

 勇者様と私団 わたしだん に加入してまだ4日のアリス。コウやクリスティが嫌がるので魔物肉の解体を進んでやったり、荷物持ちを進んでやったりはあったが、自ら何かをやりたいと言い出したのは初だ。

「アリス?」


 その様子が心底意外だったのか、クリスティが声をかけた。


「嫌だ。と言ったら?」

 少しの間をあけてゆっくりと魔女ファティマが言った。冷笑を浮かべつつ、アリスの態度を観察している。

 コウは援護の口出しをしようかと思ったが、一応、依頼主だしとりあえず様子を見守ることにした。そしてお茶に毒は含まれていないよな……魔女って言われてるし。警戒心を怠らず、初老の爺さんがお茶を飲むのを確認してから、自分もお茶をずずっと飲んだ。

 紅茶か……番茶か玄米茶が良かったな。なんて思うのだった。

「ダメ……でしょうか?」

 ねだるように聞くアリス。

「そうさね。一応理由を聞こうか」


「私、自分で嫌になるくらい、てんでダメでして。前のパーティーに加入してた時もヘマをして良く怒られましたし、今はコウさん達のパーティーに加入させてもらいましたけど、弓は良く外すし戦闘は何も出来ません。だからお役に立ちたいんです!」

 アリスの話を聞きおえて、二度軽くうなずく魔女ファティナ。

「なるほど、なるほど。なかなか泣ける話じゃないか。要するに役に立ちたいから力が欲しいと。それならアタシでなく、後ろにいる神官の嬢ちゃんに魔法を教わればいいんじゃないか?」

「ほぇぇ!?」


 ご指名を受け、口からお茶を盛大に噴き出してから変な声を出すクリスティ。

 噴き出したお茶が盛大にコウの顔にかかった。
 それは、プロレスラー張りの見事な毒霧具合であった。


「うわっ。何すんだよクリス!」

 コウはハンカチを取り出し、ごしごしと顔を拭く。


「す、すいません勇者様!」と言いながら、クリスティはシルクのハンカチを取り出しコウの顔を撫でるように拭き――


「……2人して同じとこ拭いてどうすんだよ!」

「ごっ、ごめんなさい勇者様!」


「この世界に来てから、やっぱり俺は水難の相があるみたいだな。この調子だと、深海のリヴァイアサンにでも口から水鉄砲を喰らうハメになるのか? 神社はどこにある? ちょっとお参り行ってくる」

「お参り? なら教会でやればいいじゃないですか?」

「ちょい待ち。さっきから勇者とか言ってるが、ごっこ遊びとかでなくてかい?」魔女ファティナが身を乗り出し大きな目を見開く。


 またかい――と思いながら、うんざり気味にコウが答えた。

「そんな恥ずかしい遊びはしませんよ。メサイア文献によるとその勇者が自分らしいです、自覚はまったくありませんけどね」


「誰が何と言おうと勇者様は勇者様です。私が保障します」

 クリスティは満面の笑みでコウを讃える。

「そいつはどうも」と軽くコウは流した。


「勇者……水難……メサイア文献……こいつは、ひょっとすると、ひょっとするかもね」

 口元に手を添え、ぶつぶつと自分の言葉を反芻する魔女ファティナ。
 
そして、置き去りにしていた話題をアリスの視線で思い出したようだ。

「ああ。悪いね話がそれた。それでどうなんだい、神官の嬢ちゃん?」

「私、回復魔法はてんでダメでして……攻撃魔法も初級で使えるのは、唯一のマジックミサイルのみで。マインドヒーリングの方なら得意ですけど、人に教えるのとか苦手でして。むしろ教わる立場ですし……」

 と申し訳なさそうに答える。


「まいんどひーりんぐ? はて、聞いたことない魔法だね」

 魔女ファティナが疑問符を浮かべる。

「相手の精神に直接、癒しの波動を送るヒーリングです。魔導書とかに書いてないんで、名前は自分でつけたんですけど。掃除や説教で疲れたって同僚の子とかによくやってあげてます。気分がパッと晴れるって言われるんで評判はいいんですよ」


「ああ!それか!」

 コウはちょいと前の出来事を思い出した。
 王子アーレスとの御膳試合に放り出された時に、クリスティに肩を軽く叩かれたら、たちまち緊張が霧のように消えたことがあった。

「ほーう。なかなか面白い芸当ができるようだね、アタシのバカ弟子も自分で魔導書にない魔法を編み出してたりしたもんさ」

「お弟子さんがいるんですか?」

 興味津々のアリスがつっこんだ。

「もう勝手に出て行ったけどね。若いし才能はアタシの知る限りピカ一だが、性格がねじ曲がっててね。いったいどこであんなに捻じれもんだか」


 アリスと魔女ファティナ以外の、その場にいる全員が声にしなくても思った。

 多分、アンタのせいだろ――と。


「話を戻すよ。魔法が覚えたいと言ったね、えーと名前は?」

「アリスです」

「そうアリス。お役に立ちたいから魔法を覚えたいと――で、あんたは魔法を覚えて何がしたい?」

「……えーと」

 質問の意図を測りかねて、答えに窮してしまうアリス。


「役に立ちたいのは分かった。嬢ちゃんは何をやりたいのか、本心のとこを聞いている。冒険者パーティーを組んでるから戦力になりたい。それは見上げた向上心さね、アタシが聞きたいのはそういうことじゃなく、将来的に何をやりたいのか、その為に魔法が必要かって聞いてんだ」


 言葉は乱暴でも、ファティナの態度には少なからずアリスへの慈愛が含まれているように思えた。


「そ、そうですね。魔法が必要かどうかは分かりませんが、私、料理が好きなんで、将来は料理のお店を出したいです。その為にはコウさん達のパーティーで恩返しをしたいし、お金も貯めたいです」


 アリスのこの回答が、魔女ファティナに響いたかは分からない。

 テーブルの上で頬杖を付き冷笑を浮かべたまま、ジッとアリスを観察している。

 そして頬杖を崩し――「グッドだ。いいだろう、アタシが責任をもって魔法を仕込んでやるよ」


「あ、ありがとうございます!」

 すかさずコウも挙手をし乗っかった。

「はい、もう一人追加でいいですか? いや簡単なやつでいいんです、1日で出来るくらいので」


「おいおい。ここは魔法訓練の託児所じゃないよ。一応、聞くけど理由は?」

「理由ですか。そうですね、魔法使えたらカッコよくないですか? 炎とか雷とか特に」

 バカ正直に、そしてハキハキと答えるコウの姿に、魔女ファティナは呆れ顔で返す。


「何だい? その魔法が使えたらかっこいいとか男特有の見栄は、つくづく分からないね。見栄じゃ腹は膨れないよ」


 と魔女ファティナは初老の男に視線を向けた。

「ワシはそういうのはないぞ」


 とハシゴを下された形になったコウは、ガックリした。



「まあ、いいだろう。一人も二人も一緒か。アリスの方は1日銀貨5枚。勇者の方は銀貨1枚ってとこさね」


「たっ……高くないですか!?  いくら何でも高いと思います。相場とか分かりませんけど」


 素っ頓狂な声を上げるクリスティ。クリスの言うとおり、魔女ファティナの掲示した額は安くはない。

 魔女ファティナは長いパイプを咥えて言った。

「別にイヤならいいんだよ。こちとら慈善事業じゃないし。弟子をとった覚えもない。こっちも貰うモン貰った方が気分良く教えられるからね」


「勇者割引きとかあります? その魔王と戦うからには、今後魔法が必要かなって思いまして」


 もちろんコウはそんなこと微塵も思っちゃいない。ただ安くなるならと、お得意の口から出まかせを言ったに過ぎない。

「勇者様! ようやくその気になってくれたんですね!」


 えらく感動してるクリスの態度に、コウはずっこけそうになったが態勢を戻しーー


「値引きか……値引きね。いいだろう」


 こういうのは言ったもん勝ちなんだよ。
 とコウは内心ほくそ笑む。

「ただし、条件がある。アタシのバカ弟子を生け捕りにして連れてくること」

「それからバカ弟子が盗んでいった外典メサイア文献、魔本グリモワール、クリアゲトンの花が入った万能薬、これらも回収してもらいたい。回収して貰えるならこっちから逆に成果報酬を出すよ」



「へぇ。外典のメサイア文献は写本でもかなり珍しい品ですね、ちなみにおいくらなんです?」とクリスティが関心を持って聞く。


 「外典メサイア文献は金貨50枚、魔本グリモワールは金貨40枚、クリアゲトンの花が入った万能薬は金貨30枚、バカ弟子の生け捕りは金貨2枚さね」


「き、き、金貨ご、ごじゅうまい」

 金額に驚きぐぐっもた声を出すクリスティにコウが聞く。

「金貨50枚てそんなに多い額なのか?」

 金貨に対してゲームの知識しかないコウは、それくらい簡単に稼げるだろ。と認識を持っていた。

「何を言ってるんですか勇者様! 金貨ですよ金貨、子供のお駄賃とはワケが違います。金貨1枚あれば家族数人が数カ月は楽に暮らせる額ですよ」


「まぁ無駄話はそこまでにして全員外に出な。魔法の訓練をやるよ」


「え? 今からですか?」とクリスティが意外そうに聞く。


「今からだよ。時間だって金同様に貴重な資産だからね。無駄話してる間にも減っていってんだよ、さあ外だ外」


 部屋から追い出すようにして魔女ファティナと、初老の男が残る。


「婆さん。ああは言ったがあの子は生け捕りに出来るような子じゃないだろ。それに、ワシに言ってたよな、あの外典メサイア文献は写本じゃなくオリジナルだと」

「そう魔術師メサイアの直接の弟子4人の内の一人。それがアタシの師匠だからね。人の手が加わってない正真正銘のオリジナル。あのバカ弟子がその価値を知ってたとは思えないが、大事にしてたから目をつけられちまった」


「教会に現存するメサイア文献は、弟子の手が加わって教会側の都合のいいように改竄されてるからね。世界の未来が書かれてるのは外典の方なのさ」



 魔女ファティナは遠くを見て静かにそう言った。
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