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第五章「選挙開幕」

第36話 開幕宣言

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 闘技場の控室に着いたのは第一ブロックが始まる直前だった。大きな闘技場に入る前から歓声が聞こえてくる。

 「……まだ始まってもないのに元気なこった」

 控室には選挙に参加する生徒はほとんどいない。。

 「ソーマ、人が全然いないぞ」
 「ん、こりゃ、他の奴らは観客席だな」

 選挙に参加する者たちには観客席の一部区画が専用に開放されており、控室に設置された大型モニターで選挙の様子を観るか、観客席で直接観るかは各々の自由だ。感覚を研ぎ澄ますために直接観たいと言うものの方が多数である。

 「ソーマ!我も観客席に行ってみたいぞ!」
 「……そう言うと思ったよ」

 観客席よりいくらか静かな控室でボーっとモニターを眺めたかったのだが、仕方ない。ティルフィングの手を引いて観客席への階段を上がる。

 階段を上りきると視界が広がる。双魔とティルフィングの眼には闘技場の中を埋め尽くす多くの人が、耳には頭が痛くなるほどの歓声が入ってきた。

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 各科の生徒たちに混じって外部から招待された遺物使いや魔術師たちも座っている。老若男女問わず、これから行われる次世代を担う遺物使いたちの戦場に心を奮わせている。

 あまりの喧騒にこめかみをグリグリした時だった。すぐにでも爆発しそうだった盛り上がりがまるで時間が止まったかのようにピタリと止んだ。そして、視線が一斉に舞台に集められた。

 観客たちの視線の先には学園長、ヴォーダン=ケントリスがグングニルを傍に侍らせている姿があった。杖を突いて、ニコニコしながら舞台の中心まで歩いていく。そして、舞台の中心まで着くと静かに話し始めた。

 『本日は皆が待ちに待った選挙の日じゃ』

 特にマイクなどを持っているようには見えないため、魔術で声を大きくしているのだろう。

 『先日、説明したようにカリキュラムの大幅な改定により選挙の方式を少し変えさせてもらった。口は悪くなるがこの世界は尊き血統に生まれ、学力に優れ、学園での実技が優秀なだけのものなど求めてはおらん』

 生徒たちは学園長の言葉を真剣に聞き、来賓たちは腕を組んで深く頷いている。

 『世界は真の強者を望んでおる。しかし、強者が弱者を支配する世界は望まれていない。強者とは人類、ひいてはこの世界を守護する者じゃ。己を、家族を、友人を、同胞を、守護し、災厄を振り払う人材を育てるのが各王立魔導学園の儂ら使命じゃ。故に、諸君らが切磋琢磨し、諸君らを導く者を選ぶのがこの選挙の意義じゃ。候補者の諸君は己の力を尽くして膝を折ることなく、最後まで立っておれ。また、見守る者たちは同胞たちの闘う姿を目に焼き付け、輝きを見出し、己の胸に明かりを灯せ』

 そこまで言うとヴォーダンは杖でトンっと軽く地面を突いた。すると一瞬の地鳴りが置きて、舞台の中心が円状に一段高くなった。

 『さて、話は長くなったの。そう言えば勝敗のルールも詳しく話しておらんかった。勝利者は最後までこの円状の舞台に立っていたもの。敗者は舞台から出てしまったもの。それに選挙えお管理する講師の先生方が戦闘続行不可能と判断したものじゃ。そして、闘技場には死者が出ないように結界が張ってある。皆、死力を尽くし闘うといい』

 言葉を一旦切り、ヴォーダンはくるりと一周して闘技場を見回した。そして、ニコリと笑った。

 『それでは、ここに本年度、評議会役員選挙の開始を宣言する!』

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 闘技場内の静寂が一気に破られ歓声が爆発する。その歓声に負けないほど元気な声がマイク越しに響き渡った。

 『ハイハーイ!皆さんこんにちわっス!今日の進行役を任されました!魔術科所属二年のアメリア=ギオーネっス!よろしくお願いするっス!』

 うおおおおおおおお!アメリアちゃーん!

 一部から歓声が上がる。アメリアも誰にでも分け隔てなく明るい性格でかなりの人気者のようだ。貴賓席の真下にある放送席に目を遣るとアメリアが笑顔で手を振っている。

 「ティルフィング、第一ブロックの連中が入ってくる前に座るぞ」
 「うむ」

 席を探してキョロキョロしてみるが中々二人分空いているところが見つからない。

 「おーい!双魔―!ティルフィングさーん!」

 そのとき端の方から呼ぶ声が聞こえた。そちらを見るとアッシュとアイギスが手を振っていた。どうやら席を取っておいてくれたらしい。軽く手を振り返すと席に向かった。

 「悪いな、わざわざ」
 「アッシュ!アイギス!礼を言うぞ!」
 「遅いからどうしたのかって心配したんだから!」

 もう!とアッシュが目を吊り上げる。

 「いいから、取り敢えず二人とも座ったら?」

 アイギスに言われて双魔はアッシュの隣の席に腰を掛けた。すると、足元に置かれた大量の紙袋が目に入った。

 「それ、どうしたんだ?」
 「ああ、これ?……ここに来る途中でたくさんもらっちゃって」

 袋を手にとって中を見てみるとクッキーやチョコレートが入っている。アッシュのファンからの差し入れだろう。すると、ティルフィングも袋を覗き込んできた。

 「む、菓子か?」
 「ティルフィングさん、よかったら食べるかな?僕一人じゃ食べきれないし……」
 「本当か!?」

 ティルフィングが目を輝かせる。

 「うん、どうぞ召し上がれ」
 「感謝するぞ!アッシュ!」

 そう言ってティルフィングは菓子を食べ始めた。さっきもクレープを食べていたのに胸焼けしないんだろうか……。そんなことを思いながら双魔はアッシュに話しかけた。

 「それにしても、さっきのルールを聞いた限りじゃお前は楽勝だな」
 「うん、他のみんなには悪いけどそうだね」
 「二人とも、始まるみたいよ」

 舞台を見ていたアイギスの視線の先で候補者たちの入場口が開いた。

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