魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

文字の大きさ
88 / 268
第三章「京の夜の虎鶫捕物帳」

第87話 虎鶫の断末魔

しおりを挟む
 ”ぬえ”とは『平家物語』や『源平げんぺい盛衰記じょうすいき』に名が残る妖怪であり、”鵼”とも表される。

 平安末期、時の帝である近衛このえ帝の御殿の上に夜な夜な、黒煙を身に纏って現れ。その不気味な声で帝を怯えさせ、瘴気で衰弱させようとした妖である。

 当時、随一の弓使いであり、”童子切安綱どうじぎりやすつな”の初代契約者である源頼光の五代の子孫であった源頼政とその郎党、猪早太いのはやたが公卿たちの要請を受けて討伐した。

 頼政と早太、鵺の攻防その場にいた当人たちの他に目撃したものはおらず、討伐を果たした頼政は多くを語らなかったため、簡素な記録しか残ってはいない。

 しかし、早太が止めに使用され後に遺物へと昇華された短刀”骨喰こつしょく”は戦いの凄まじさを次のように語っている。

 『かの鵺と一戦を交える際、頼政公と早太殿は万全の準備を万全にして臨んだ。お二人は飾らぬお人柄であった故おっしゃらなかったが鵺とは恐ろしい妖であった。一鳴きすれば築地ついじはひび割れ崩れ落ち、その爪は風の刃を放つ。くちなわの尾は掠っただけの早太殿を吹き飛ばした。そして何より恐ろしいのはそのしぶとさ。神気を纏わせた頼政公の必中の矢を数十、数百本受けて山嵐のようになってもまだ生きていた』

 それでも、頼政たちは何とか鵺を討滅した。そう、討滅したのだ。つまり、双魔たちの目の前に鵺が存在しているのはあり得ないことなのだ。

 「ヒョーーー!!」

 突如鵺が咆哮を放つ。結界に遮られているが、一瞬障壁の一部がグニャリと歪んだ。

 双魔は咄嗟に鏡華の前に立ちふさがった。そして、膨大な魔力を送って結界を修復する。

 双魔が発動した”封魔四樹結界”は土御門宗家の術式に双魔が独自の技術を組み込んだものでかなり強力な術だ。

 それを歪めたその妖力は目の前の敵が紛れもない本物だということを示している。

 「鵺はん、まだまだ元気そうやねぇ……双魔、どうするの?」

 鏡華の言う通り、鵺は咆哮を放ち、爪から真空波を出して結界の中で暴れまわっている。四方の障壁は所々形を保てなくなり、このままだと崩壊するだろう。

 今も尾による一撃で榲桲の木がなぎ倒される。

 そんな状況を目にしても、鏡華は一切取り乱すことなく落ち着いていた。双魔の背中を見据えるその目は信頼に満ちている。

 「ん、ここに鵺が復活した原因は分からないが……まあ……」

 刀印を解いた左手で、片目を閉じていつものように親指でこめかみをグリグリと刺激する。

 「せっかく起きてきたところ悪いが、すぐに封印させて貰う。配置!」

 鏡華の、そしてこの場にはいない剣兎の期待に応えんがため、双魔は左手を前にかざす。

 「汝、冠するは最上の狩人、あらゆる獣を討ちし者、咲き誇れ”|万獣殺しのオリオン・覇王花ラフレシア”!」

 結界の中で倒された榲桲まるめろの木の幹に小さな魔法円が浮かぶ。そして、倒れた直後で生気に満ちていた木が急速に枯れはじめた。

 それと同時に魔法円が徐々に大きくなり、直径が三メートル弱まで拡大した時、その花は姿を現した。

 根も、葉も、茎もなく、ただただ巨大な花が咲くのみ。七つの花弁は血のように赤く、白い斑点が無数についている。

 ぽっかりと、花の中央に空いた穴の奥には二十ほどの突起が生え、それぞれが微かに蠢いている。

 「……ヒーー」

 暴れていた鵺が動きを止めて、不気味に咲き誇った巨大な花に意識を向ける。

 身体を翻してゆっくりと頭を花に近づけたつぎの瞬間。

 「ヒーーーーーーーーーーヒョーーーーーーーーー!」

 鵺は凄まじい大音声を上げた。その超音波でついに結界が崩壊する。

 「っ!?」

 鏡華は思わず身構えた。解き放たれた鵺がこちらに向かってくるかもしれない。浄玻璃鏡を抱える腕に力が入る。

 しかし、そうはならなかった。鵺はその巨体をふらつかせると、そのまま倒れてピクリとも動かなくなってしまったのだ。

 結界を打ち破った大咆哮は無情にも鵺の断末魔となったのだ。

 「…………え?」

 口を開けて呆ける鏡華をよそに、双魔はティルフィングの剣身に膨大な剣気を溜め込んでいた。

 「フッ!」

 倒れる鵺に向かって両の手でしっかりと握ったティルフィングを大上段から振り下ろす。

 放たれた剣気は月光に紅氷の欠片を煌めかせながら鵺の巨体を包み込み、川の流れの一部と共に凍てつき、巨大な紅のオブジェが出来上がった。

 「ん、これで終わりだな」

 身体から力を抜いて左手の親指でこめかみをグリグリと刺激する。

 「鏡華もお疲れさん……ってどうしたんだ?その顔は……」

 振り返ってみると、鏡華は目と口を大きく開いて硬直していた。

 「いや、びっくりしたわぁ……双魔、何したん?鵺はん、動かなくなったんはどうして?」
 「ああ、氷の中に馬鹿でかい花があるだろ?”万獣殺しの覇王花”と言って獣を死に至らしめるほどの強烈な臭いを放つんだ。まあ、鵺は死ななかったみたいだけどな」

 ラフレシアは言わずと知れたジャングルで極まれに咲く巨大な花だ。その直径は一メートルほどで、死肉のような臭いを発すると言われる。

 そして、双魔が召喚した”万獣殺しの覇王花”だが、その大きさは通常のラフレシアの三倍、臭いの凶悪さは比べる余地もない。

 名に冠する”オリオン”とは、これまた言わずと知れた、星の座に上げられたギリシャ神話において最高の狩人である。

 その実力は地上のあらゆる獣を狩り尽くして、大地母神ガイアの怒りに触れた唯一の存在だ。

 ”万獣殺しの覇王花”は獣のみに効く致死性の臭いを放つ、まさに”オリオン”の如き花なのだ。

 「氷は……ティルフィングはんの力?」
 「ん、そうだな……加減が難しいんだ。まだ慣れてないからな」

 先日、闘技場で氷塊を発現させた時の目を吊り上げたアッシュの顔を思い出して双魔は苦笑を浮かべた。

 それを見て鏡華の表情は元の澄ました表情にいったん戻った。

 そして、すぐに口元に手を当ててころころと笑う。そのまま、双魔に近づいてきた。

 「フフフ、良かったなぁ……こない、えらい強い遺物はんと契約出来て……」

 双魔の前で立ち止まった鏡華は背伸びをして双魔の頭へと手を伸ばした。

 「フフフフ……えらいえらい」

 ゆっくりと、優しく頭を撫でられる。

 「……なんだよ」

 この歳になって人に頭を撫でられることなどそうない。照れているのを隠すために、ぶっきらぼうにして見せる双魔を見て、鏡華はさらに楽しそうに頭を撫でる。

 「ほほほ、照れてるん?可愛いなぁ……旦那はん」

 耳元で囁かれる。身体中の血が沸々と温度を上げているのが分かる。

 「あのな……」
 『……ゴホン!……双魔さん、鏡華さん、聞こえますでしょうか?』

 双魔が妙になってきた雰囲気を払拭しようとした時、先手を打つかのようにポケットに突っ込んであった端末から檀の声が聞こえてきた。

 「あ……」
 「…………」

 二人とも忘れていたが檀は「こちらの音声は拾えるようにしてある」と言っていた。つまり、今までの会話は向こうに筒抜けだったということになる。

 『アッハッハッハ!あの!六道が!アッハッハッハ!』

 端末からはその姿を見るまでもなく抱腹絶倒の様子が分かる鈴鹿の大笑いも聞こえてくる。

 「…………」

 鏡華の顔がボッと火のついたように赤く染まる。恥ずかしさが暴走したのか、そのまま一言も発さずに双魔から離れると顔を背けて地蔵のように固まってしまった。

 『鈴鹿さん、笑いすぎですよ…………双魔さん、そちらの決着は着いたようですが……』
 「あ、ああ。正体は予想通り鵺だった。丸っと冷凍封印したから後の処理は任せる」
 『冷凍……?詳しいことは分かりませんが承知しました。今、そちらに部下たちと向かいますね』
 「ああ、よろしく……」

 頼む、そう言って会話を終わろうとした時だった。さくさく、じゃりじゃりとわざとらしい足音を鳴らして何者かがこちらに近づいてきた。

 「へへへ……鵺がやられたと思って見に来てみれば……聞いてた魔術師ってのはあんたのことだったんですね、お若いの」
 「……アンタは」
 予想だにしなかった人物の登場、今宵の化物退治はまだ、終幕とはいかないようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...